第9話
アローヘッド市冒険者ギルドにて
「こんにちは。」
「はい、いらっしゃいませ。 本日は、どのような・・・!?」
ギルド受付にて、書類の整理を行っていたギルド受付嬢チェルシーは、顔を上げつつお決まりの挨拶を返そうとするが、途中で言葉を詰まらせてしまった。
彼女は、声を掛けて来た人物・・・黒髪の青年の顔を見た途端、ポカんとしている。
「・・・・・」
「お嬢さん、どうかしましたか?」
「あっ・・・やっ・・・いえいえいえ・・・何でもありません。」
「そうですか?」
チェルシーに話しかけて来た青年は、彼女の反応を見て、少し訝し気にしていた。
その男性は、中央大陸系とはちょっと雰囲気の違う・・・東方の血が入っているのであろう特徴が見て取れた。
黒い髪、切れ長の目に黒い瞳。 肌は、どちらと言うと白い。 背は特別高いと言う程では無いが、決して低い訳では無い。
やはり、冒険者なのであろう。 体は細いが、ガッチリとしているように感じる。
(え~っ!! 結構良い男じゃないの~。 初めて見る顔だけど、アローヘッドに来たばかりなのかしらん?)
近々、後輩女性職員が結婚を期に退職をすることが決まっているため、現在、絶賛彼氏募集中のチェルシーには少し焦りがあった。
チェルシーが、そんな事を考えながら観察していると、男は話を続けた。
「伺いたいことがあるのですけど、よろしいですか?」
「あ、はいっ! どうぞどうぞ~。 私の名前でしたら・・・」
「この街に、クロエと言う名前の冒険者がいるはずなのですが、彼女に会いに来たのです。 住んでいる場所とか分かりませんか?」
(チッ・・・女持ちか・・・)
その男性の目的が女性だと分かると、途端にチェルシーの口調は事務的なものになる。
「申し訳ありませんが、個々の冒険者の情報を、むやみに教えることはできません。」
「そこをなんとか・・・お願いできませんか?」
「無理ですね。」
「うーん。 困ったな・・・」
(あ、困っている所は結構カワイイかも・・・)
一見すると、クールに見えた男であったが、意外にも困っている顔がチェルシーの瞳には可愛く映ったらしく、つい余計な事を口にしてしまう。
「そのクロエさんと言う冒険者がいたとして、あなたはその人の関係者か何かなのでしょうか?」
「申し遅れました。 私の名前は、マサヤ=カネオカと言います。 クロエは、私の実の妹なのです。」
「そうですか。 妹さん・・・えっ!? 妹さん!?」
「はい。 そうなんです。」
「ちょ・・・ちょっと待って下さい。」
(クロエさんも、黒髪黒目の東方種!! 確か、ファミリーネームも「カネオカ」だったような気がするわ!!)
チェルシーは、慌てて冒険者の登録情報の書かれた書類を捲る。
(クロエ・・・クロエっと・・・あった。 クロエ=カネオカ。 所属パーティは「星夜の灯火」。 星夜の灯火は、現在・・・!!)
「なるほど。 あなたとクロエさんは同じファミリーネームですね。 髪や瞳の色も同じですし、あなたがクロエさんの関係者である可能性は高いと思うのですが・・・」
「居所を教えていただけないのでしたら、連絡とか取れないですか? 1~2日なら待ちますので。」
「もちろん、住所をお答えする訳には行きませんけれど、今は連絡を取ることも出来ません。」
「どうしてもですか?」
「はい。 残念ながら、クロエさんは現在、アローヘッド市にはいらっしゃらないのです。」
「なっ!? ・・・そうですか。」
「はい。 お役に立てず申し訳ありません。 私、あと1時間もすれば仕事上がりになりますので、良かったら・・・」
「それでは、クロエ宛の手紙をしたためますので、クロエが戻ったら渡していただく事はできませんか?」
「え・・・あ、はい。 それ位でしたら、承りますわ。」
「ありがとうございます。」
チェルシーは、マサヤがゆっくり手紙を書けるように、机と椅子のある個室に案内する。
紙とペンも用意してあげると、非常に感謝された。
(こんなにも感謝してくれるなんて・・・すごくいい人なんだろうな。 勿体ないけど、脈無しかなぁ・・・)
チェルシーが、そんな事を思いながら、マサヤのいる個室を眺めていると
「ちょっと、チェルシー。 順番を待っている方がいるんだから、ぼーっとしないの。」
隣の受付に出ていた、同僚のカレンから注意を受けてしまった。
チェルシーが、前に向き直ると、順番待ちの冒険者が数人立っていた。
「はい、いらっしゃいませ。 本日は、どのようなご用件でしょうか。」
すぐさま、いつもの営業スマイルで、お決まりの台詞を淀みなく声にする。
慣れた様子で冒険者を捌き終えると、知らず知らずのうちに、また個室の方に目が行ってしまう。
10分ほども経った頃、マサヤが個室から出て来る。
そのままマサヤは、チェルシーの下に向かって歩いて来た。
「お嬢さんのお陰で、じっくり手紙を書くことができました。 本当にありがとうございます。」
「いいえ、そんなに何度もお礼を言われるほどのことは・・・」
「こちらの方こそ、無理をお願いして申し訳ありません。 何者かも分からない相手に、冒険者の個人情報を話せないという事は理解できますよ、お嬢さん・・・っと、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい。 申し遅れました。 私は、当ギルドで受付をしておりますチェルシーと申します。」
「ありがとう、チェルシーさん。 手紙のこと、よろしくお願いします。」
「はい、確かにお預かりしました。 必ずクロエさんにお渡ししますね。」
マサヤは、ギルド嬢チェルシーに妹あての手紙を預けると、アローヘッド冒険者ギルドを後にした。
(クロエは不在だったか・・・是非会って直接話をしたかったのだがな、タイミングが悪かったようだ。 残念だが、ここにいないのなら仕方が無いか。)
マサヤはクロエの事を考えながら、1人市街を歩く。
「よし、切り替えて行こう。 せっかくアローヘッド市まで来たんだ。 1日2日程度は滞在して、クロエの住む街を見て行くかな。 宿は・・・そうだ、この街の詰め所に泊めてもらうかな。 宿代も浮くしな。」
我ながら名案を思い付いたと自画自賛しつつ、マサヤはこの街のホーリーオーダーの詰め所に向かった。
ドンドン・・・
「どちらさまでしょうか?」
ホーリーオーダーのフェリシャは、予定にない来客に警戒しつつ、ドアの覗き窓から慎重に外を伺う。
ドアの前には、黒髪で黒っぽい旅装の男が立っていた。
男を姿を見たフェリシャは、慌ててドアを開ける。
「マシス!?」
「げっ・・・フェリシャか? キミはアローヘッドに駐在していたのか?」
「とりあえず中に入りなさいよ。」
「ああ、そうだな。」
詰め所に入った2人は、テーブルを挟んで向かい合わせに座る。
「どうしてマシスが、アローヘッド市にいるのよ。 アナタの担当は王都でしょう?」
「サジタリアから異動になることが決まったものでね。 異動前にサジタリア以外の街を見ておこうと思ったんだよ。 休暇も溜まっていたしね。」
「へぇ・・・異動って何処によ。」
「スピカ市だよ。」
「あら、奇遇ね。」
「何が奇遇だって?」
「私もスピカに行くのよ。 来週ここを発つ予定なの。」
「マジでか? スピカで何かあった・・・いや、あるのかね?」
フェリシャは、マシスよりも3期下であるが、突剣の腕はかなりのものであるし、加えて炎の魔法にも定評がある。 そのフェリシャが、自分と同時期に同じ場所に異動というのには、何か裏があるのではないかと、マシスには感じられた。
「さあ? 知らないわ。 アナタ、アローヘッド市にはいつまでいるつもりなの?」
「俺は1~2日だけ街を見物して、すぐに出て行くつもりだ。」
「じゃあ、滞在は来週まで延長ね。」
「なんでだよ。」
「マシスは、こんな可憐な後輩に1人旅をさせるつもりなの?」
「可憐って・・・キミはいくつになったんだっけ?」
「うるさいわよ。 アナタに拒否権はないんだから、私の言うとおりにしなさい。」
「な・・・(フェリシャには何を言ってもムダか。 ここは黙って従っておいた方が無難だな。)」
後輩であるにも関わらず、自分に対して常に横柄な態度を取り続けるフェリシャの事を、嫌と言う程知っていたため、マシスは抵抗することをすぐに諦めた。
(思えば、サンドラもこんな気持ちだったのだろうか? 次にサンドラに会った時には、もっと接し方を考えないといけないかな。)などという考えが、マシスには浮かんだ。
サンドラは、ついこの間まで王都にて同勤していた、マシスの先輩騎士である。
人見知りが激しい彼女は、普段はかなり無口なのだが、実はお喋り好きであり、それに気が付いたマシスは、よく彼女をからかっていたものだ。
週が明けると、マシス(真鞘)は、フェリシャと2人でアローヘッド市を後にし、第6国のスピカ市を目指す旅に出たのだった。




