第8話
漁村を発ち、水棲竜との戦いをパーティメンバー皆で振り返っていた際に、水棲竜を倒した青い竜の話をしたところ、グスタフが驚愕の表情を浮かべて黙り込んでしまった。
グスタフは「少し考えを纏めさせてくれ、夕食の時に話す。」と言った切り黙ってしまった。
そして、その日の夕食を食べ終わる頃になって、ようやくグスタフが、話の続きを始める。
「クロエ、すまないがもう一度、さっき話してくれた青い竜の話をしてもらえるか?」
「う、うん。 大きさは20メートル位はあったと思う。 体全体が青白くて、見た目は翼竜や水棲竜よりも、物語に出て来るような竜に似ていたよ。 首は長くって、尻尾も長い。 頭には立派な角があって、瞳は黄金色。 四肢には鋭い爪があったよ。 それで、背には大きな翼が一対あって、翼を広げると余裕で20メートルは超えていたと思う。 首から尻尾の長さよりも、翼を広げた横幅の方が長く見えたし。」
「猫田たちは、どうなんだ? クロエの言っていることは・・・」
「ああ、クロエの言っていることは、その通りだと自分も思うよ。」
「そうだナ。 クロエは正しいんだナ。」
「私も異論はありません。」
「そうか・・・」
「どうしたのよグスタフ、何かクローエの話におかしなところがあるの? って、まず竜神さまが助けてくれたってところからおかしいんだけどねぇ。」
「いや、シンシアでも気にならんのか?」
「何がよ?」
「青い竜は、四肢・・・つまり、両手両足がちゃんとあって、そのほかに翼があったんだぜ?」
「あ、そうか・・・それって・・・」
「何? 手足の他に翼があったらダメなの? むしろ物語に出て来る竜ってそう言うものじゃない?」
「それは、物語の中だからなんだよ。」
「「「「???」」」」
「いいか、この世界には・・・明らかに別系統の進化を遂げた生き物・・・例えば、昆虫や水中生物だな。 それらは別として、両手両足以外に翼や腕みたいなのがある動物はいないんだよ。」
「え?」
「先に言っておくとだな、蛇なんかは四肢自体が無いんだが、それにはそれの理由があるんだよ。」
「・・・・・」
「鳥の翼は、俺たちで言う腕だろう? 翼人族を思い浮かべれば分かりやすいと思うけどな。 翼竜だって翼の形は違えど同じだ。 もっと格上の飛竜だって構造的には翼竜と殆ど同じだろう? あの村で戦った水棲・・・いや、首長竜だってそうだ。 ヤツの前足は、翼ではなくヒレのような形に変化したんだろう。 水中特化だよな。」
「それは、そうだけど・・・」
「四肢以外に翼があるなんてのは、物語に出て来るような竜と、神話の天空神や天使と呼ばれる者、天使と対極の存在と言う獄使・・・他だと混沌神は腕が沢山あるって話だよな。」
「合成獣の中には、四肢以外に翼があるようなヤツもいたように思えるけど、合成獣は自然の生き物とは違うものよね。」
「それじゃあ、あの青い竜は合成獣の一種だってこと?」
「いや、そうとも言い切れねぇ。 魔物の中には、首が複数あるなんてヤツの話も聞くしな。」
「ああー。 遺跡で戦った岩犬もそうだったよね。」
「あの岩犬は、魔法・・・いえ、魔導かしらね? 前にも言ったと思うけど、古代高等人類の魔導の力で人為的に造られたものじゃないかって、私は思うわね。 合成獣に近いんじゃないかしら。」
「まあ、岩犬じゃなくても、魔物の中にはそう言うのもいるようなんだがな。 ヒュドラって聞いたことあるか? そいつも竜種だと言われているんだが、ヒュドラって首が複数ある蛇みたいな感じだろう? ヒュドラの四肢は、蛇みたいな理由で無くなったと思えば・・・まあ・・・」
「??」
「俺にも全ての魔物のことを完璧に説明することはできない。 一部例外っぽいのもいるかも知れないが、基本的に竜ってのも、皆、四肢の法則からは外れていないんだ。 なら、どうして物語の竜ってのは、現存している竜と違っているんだと思う?」
「その方が強そうだからかナ?」
「ミオの意見も全く見当違いって訳でもねぇのかな? だがそれは、モデルになった伝説の竜がいるからなんだよ。」
「「「「へえぇぇ~」」」」
「現在では、あまり有名な話ではないかもしれんが、魔導帝国よりももっと以前の記録に『始まりの竜』とか『古代竜』とか呼ばれる6匹の竜の事が書いてあるのがあるんだ。 その竜こそ、四肢とは別に翼を持つってな。 しかも、一対どころか、中には二対持っているヤツもいる。」
「「「ふぅん・・・」」」
「とするとだ・・・お前らが見たって言う竜ってのは・・・」
「その古代竜ってこと?」
「にわかには信じがたいが、幻覚の類でなければ、そうとしか思えないんだが。」
「魔導帝国より以前って・・・」
「まあ、単なる竜って言うよりは、神とかに近い存在と言っていいだろうな。 さっき6匹と言ったが、それは、その6匹がそれぞれの属性を象徴する親玉みたいなものだからだ。」
「6って、魔法属性の事ですか? 私なら光闇・・・みたいな。」
「そう言うことだ。 そしてお前らが見た青い竜ってのは・・・古代竜の中の、水竜・・・いや『水竜帝』って事になるんだが・・・確か、名前は『インプルスス』だったか?」
「「「「・・・・・」」」」」
「あのぅ~・・・」
「どうしたクロエ?」
「そんな話を聞いた後で、恐縮なんですけど・・・」
「なによ? はっきり言って頂戴、クローエ。」
「実はコレ・・・」
私は、バックパックから大きな鱗(?)2枚と、水滴のような形をした青い玉(?)をグスタフとシンシアの前に置いた。
「な! なんだこれ!?」
「その・・・青い竜・・・水竜帝インプルスス? から貰ったんです。」
「「な、なんだって~!!!」」
「これは鱗だと思うんですけど、こっちの玉は良くわからなくて・・・宝石みたいだけど、金属っぽくもあるんだよね。」
「触っても良いか?」
「う、うん。」
グスタフとシンシアは、それぞれ鱗(?)を手に取り、色んな角度から眺めている。
「この鱗? 確かに水の魔力をビンビン感じるわね。」
「そうなんだね。 シンシアは、魔力感知得意だものね。」
「まあ、得意ってほどでもないんだけど。」
「こっちの玉はいいの?」
「いや、そっちは何か・・・クロエの物だって感じるな。」
「そうね、なんだかクローエ以外の人は触れてはいけない気がするわね。」
「あれぇ? グスタフもシンシアもそんな感じなの?」
「ああ、何というか・・・コレはお前のものだって知っている感じだな。」
「そうね。 そういう風に感じるわね。 それに、その玉・・・ヤバい位の魔力を感じるわ。 もちろん水のね。」
「そうなんだね。」
(やっぱり・・・私でも感じられる位だから、相当強力な水の力がこの玉にはあるのだろう。)
皆がそんな感じなので、青い玉は私のモノとなった。 私専用のモノだってことは、鍛冶の素材としての利用価値があるのかも知れない・・・なんて思った。
鱗の方は、古代竜の鱗だとしたら、ものスゴい稀少価値があると思えたが、こっちはこっちで、古代竜の鱗だと言っても証明しようがないし、どうにもならないんじゃないかって話になった。 結局、これも私が引き取って良いということになった。
通常の竜の鱗なんかでも、武器や防具の良質な素材となるため、旅が終わった後で何を造るか考えることにした。 できるのなら、パーティの皆で使えるものがいいな。
「ところで、クローエは、水竜帝? 竜神さま? の声を聞いたって言うけど、ほかの皆には聞こえなかったのかしら?」
「聞いてないナ。」
「自分は、ノイズみたいなものは聞こえた気がするけど、言葉ではなかったよ。」
「残念ながら、私にも聞こえませんでした。」
「そうか。 年月を経た竜ってのは、人語も操るらしいって聞くけどな。 青い竜が、古代竜の水竜帝だったんだとしたら・・・聞こえなかったのは良かったのかもしれんな。」
「何でだナ?」
「そんな神さまみたいな竜・・・俺たちとは住む世界が違う存在だろう? 適性と言うのか・・・資格と言ったらいいのか・・・それが無い人間が、神の声を聞いてしまったらどうなるか分からんぞ。 最悪、ぶっ壊れてしまうかもしれない。 そういう意味では、猫田にも少しは適性があったのかねぇ?」
「コワい話ですねぇ・・・」
「本当だね。」
(そうだ。 あの時、青い竜は確かに言っていた・・・私のことを『獄炎神を宿す者』って・・・それって、カヅチさまの力、金岡当主の証のことだよね。 カヅチ=獄炎神だったとしても、力の一端どころか、神さま本人が宿っているってことなの? だから、私には資格と言うべきものがあったってことなのか?)
「どうしたんだいクロエ?」
「え? ええ、平々凡々な私に、そんな特別な資格があるのかな~? なんて。」
「ま、水竜帝だったのかどうかはともかくとして、その落し物はクロエの自由にしろよ。 多分鑑定に出しても正当な評価は出ないだろう。 それに、首長竜丸々1匹の素材で結構な額になるだろうしな。」
「そうね。 しかし、結局私たちの力では、首長竜ですら倒しきれていないのよね。 物話の英雄なんてのは、1人で巨大な竜を倒したりするけど、考えられないわね。」
「全くだ。 所詮は物語ってことだな。」
「夢はないですけど、やっぱりそれが現実ですよね。」
「英雄や勇者は、神さまとかに与えられた、特別な武器とか魔法とかを持ってるものね。」
「・・・・」
「どした? ネコタ?」
「いや、何でもないよミオ。 とにかく、皆が無事で良かったと思ってね。」
「そうだナ。 勝てはしなかったけど、皆が無事だったのは一番だナ。」
海岸近くを10日ほど歩いたところ、先の漁村よりはかなり大きな町に辿り着いた。
スグに宿をとって、まずはお風呂。 公衆浴場がある町で良かった。 そして、夕食を済ませると久しぶりの布団で眠る。
ちなみに、2人部屋を3つ押さえたのだが、部屋割りは、グスタフと猫田さん、私とミオとシンシア、そしてフィロミィナは1人だ。
なんだか、フィロミィナが可哀そうな気もするけど、1人で2人部屋を独占なんて、ある意味高待遇だ。
この町では、食料などの補充を行った後、冒険者ギルドに行った。
冒険者ギルドと言っても、アローヘッド市のものとは比べ物にならない位小規模なものだ。
職員も10人もいないようだった。
クエストの掲示板を眺めた後、グスタフが職員さんに何かを質問していた。
良くは聞こえなかったけど、誘拐騒ぎとかが無かったかを聞いていたようだ。
で、募集のあったクエストの中から、野犬の討伐クエストを請けて、無事にクエスト達成した後に宿で1泊し、再びロアー・リブ市を目指すために町を後にしたのだった。




