第5話
神暦3,173年8月
治癒士フィロミィナをメンバーに加え、6人編成となった「星夜の灯火」は、アローヘッド市を出発し南に向かう(徒歩移動である。)。
しばらくは穀倉地帯が続くが、2日も歩くと何もない平野となる。 一応道はあるが、王都や第4国へ向かう街道のような整備された道ではない。
「このまま南下したら海に出るんだよね?」
「そうだな。 もう5~6日も歩いたら、海に出られるんじゃねぇかな?」
「南に向かえば町とかがあるのかい?」
「ああ、200人程度の小さな漁村があるはずだぞ。」
「アローヘッド市に、お魚の干物なんかを売りに来ているのよね?」
「そうだ。」
「漁村・・・釣ったばかりのお魚があるなら、お刺身とか食べられるかな?」
「オサシミってなんですか?」
「新鮮なお魚を、生のまま一口大に切って食べるんです。 私の故郷では割と普通にあったものですけど、中央大陸に来てからは、生のお魚自体滅多にお目にかからないですからね。 まあ、寄生虫とかもあったりするんで、気を付けないといけないですけどね。」
「魚を生で!? クローエの故郷って凄いのね。」
「なんだ? シンシア、お前でも知らないのかナ? 新鮮なお魚は、生で食べると結構ウマイんだナ。」
「ミオは生魚食ったことあるのか?」
「おう。 前にクロエたちと、ロアー・リブに行ったときにナ。」
「へぇ~。 猫田も食べたのかしら?」
「いや、自分はその時には一緒じゃなかったから食べていないんだよ。」
「あら、それは残念だったわね。」
なんて、他愛もない会話をしながら楽しく旅は続いた。
アローヘッド市を発ってから8日目に、グスタフの話していた小さな漁村に到着した。
したんだけど・・・なんていうか、想像以上に寂れた感じだ。
村長さんに話を聞いたところ、海に恐ろしい魔物が出現しているらしく、漁に出ることが出来なくなっているそうだ。
さらには、家畜に数頭の被害が出ているとのことであった。
もう一つ。 村から少し離れた場所にある岬。 その岬には、魔導帝国時代よりも古くからあると伝えられている祠があり、今でも時々はお供えなんかをしているとのことだが、その祠も荒らされたらしい。
その祠とは、古の竜神さまを祭ったものであるのだそうだ。
お供え物が滞ると、竜神さまがお怒りになるそうだ(お供えって、毎日でなくても大丈夫なんだろうか?)。 まあ、これは田舎によくある言い伝えなんだろうけど。
漁に出にくくなった村では、食料の心配も出始めていたため、私たちが旅の道中で狩った動物を提供したところ、とても感謝されて雨風を防げるようにと空き家を提供してくれた。
宿も無いような村だったので、屋根があるだけでもありがたい。
その夜、空き家にて
「さて、どうする? 早速揉め事だが・・・」
「そう言うのを解決するんじゃなかったかナ?」
「そうなんだが、海上となると俺たちでは・・・少し厳しいな。」
「ですけど、皆さん困っていらっしゃいますし、なんとか出来るなら手助けしたいです。」
「フィロミィナって、ほんとに優しいよね。」
「いえ、そんなことは・・・」
「どんな魔物か分かっているの?」
「何というか、足の付いた蛇だって話だぞ。」
「え? ムカデみたいなヤツかナ? 虫は嫌なんだナ。」
「いやいや、そう言うのではなく、どうやら水棲竜の類っぽいな。」
「竜種かい!?」
「いきなりヤバそうなのが来たわね。 大きさは?」
「10メートルとか、20メートルとか大げさな事は言っているんだが、10メートルは無いんじゃねえか?」
「希望的観測ね。」
「竜種で10メートル超だったら、こんな村なんてあっという間に滅ぼされるだろう?」
「水棲竜だとして、それが竜神さまだったりしないの?」
「竜神さまってのは、デカい翼を持っていて空を飛ぶんだとさ。 だから、今暴れているヤツとは別竜なんだとよ。」
「うまく陸上で戦えればいいんだけど、砂浜は厄介よね。 動きにくいし、海中に逃げられるとどうにもならないね。」
「ともかく、姿を確認して見ないことにはな。 そもそも竜じゃねぇかもしれんしな。」
「そうですね。 確かに、そうです。」
「じゃ、明日は俺とクロエで海岸を一回りしてみる。 シンシアは、残りの面子を連れて野生動物を狩ってきてくれ。 村の食料の足しになるように・・・それと竜を釣るためのエサだな。 後はまあ、しばらく様子を見て、魔物に会えない様なら・・・申し訳ないが先を進むか。」
「そうね。 ここにずっといる訳にも行かないわね。」
翌日
狩りに出かけるシンシアたちを見送った後、私とグスタフは海岸に向かい、魔物やその痕跡を探る。
「そう言えばさ、私、前から気になっていたことがあるんだけど。」
「なんだ? 俺が分かる事なら教えてやるぜ?」
「野獣、魔獣に魔物・・・って呼び方があるじゃない? あれって何で分けているの?」
「ああ・・・そうだなあ・・・曖昧な部分もあるにはあるんだが、野獣は犬や狼とか猪、兎とか、生態や繁殖方法が分かっている獣を指しているって感じか? もっとも獣だけじゃなくて、鳥類や爬虫類なんかも含めてだな。」
「ふむふむ。」
「魔獣は、生態なんかが不明なヤツだな。 例えば、以前に戦ったブラックドッグっていただろう? あれなんかが良い例だが、あいつの見た目は黒い犬だったよな?」
「うん。」
「だけど、ヤツらがどこからやって来るのか、どうやって増えているのかが不明なんだよ。 何と言っても、生殖器官が確認できないんだ。 それに、そもそも犬ではないしな。 ヤツらは、冥界からやって来るって話もあるぐらいでな。」
「へぇ~~。」
「魔物ってのは、もっと幅広い感じだよな。 野獣も魔獣も含んだ上にもっと別の・・・例えば、ゴーストとかゾンビとかも含んでいる感じだな。 ゴブリンなんかの亜人も含めて・・・人間に仇なす奴全般を表す感じか?」
「さすが、グスタフ。 分かりやすく教えてくれてありがとう。 じゃ、竜種は魔獣?」
「いや、竜は魔物って言ってしまうな。 竜種は爬虫類の頂点とも言われているし、卵から孵化するってことは分かっているしな。 翼竜なんかだと生態も結構分かっている部分も多いが野獣とは呼ばないな。 翼竜だと魔獣って呼ぶこともあるが・・・改めて言われると、やはり明確な定義ってのは分からんものだ。」
「ふぅん・・・あ、あれが例の岬でしょうか?」
グスタフと話しながら歩いている内に、海岸線から張り出した岩場のようなものが目に入った。
「そのようだが・・・村から結構距離があるな。」
「祠・・・見に行ってみる?」
「そうだな。 とりあえず、手前まで行ってみるか。 海に近づくんだから、細心の注意を払えよ。」
「了解です。」
岬の入り口には、荒らされていたけれど、竜神さまへの供物を捧げる場所と思われるものがあった。
岬の先端の方には、洞窟の入り口のようなものが見える。 恐らく祠は、洞窟の中なのだろう。
色々と危険とも思われたが、竜神さまの祠の確認も行った。
洞窟の中には、人工的に削りだした長方形の石がいくつかと、大きさ5センチメートル位の青白く丸い石が落ちていた。
丸石がご神体のようなもので、周りにある石は、丸石を囲うものだと思えたので、私の感覚でってことになるが、石を組み立てて、丸石を納めておいた。
私とグスタフが、岬から折り返して村に到着したころには、夕方近くになっていた。
私が、夕食前にお腹に入れるための軽めの食事の準備をしていると、村長と話をしていたグスタフが戻って来る。
「お帰りなさい、グスタフ。 軽食の準備できてるよ。 まあ、乾パンと干し肉だけどね。」
「おう、悪いなクロエ。 スープがあるだけで有難いぜ。 あると無いとじゃ、随分違うからな。」
「で、どうだったの? 村長さん。」
「討伐は依頼したいってんだがな、報酬がなあ・・・クロエも見て分かると思うが、貧乏漁村だからなあ。 竜種の討伐報酬なんて、どうやっても捻出できないだろう。」
「本当に水棲竜だったら、素材としての価値はあるんじゃないの?」
「まあ、それはそうだが・・・シンシアたちとも相談して・・・だが、まずは姿を確認せんと方針も対策もままならんよな。」
「そうだね。」
狩りから戻って来たシンシアたちとも相談した結果、まずはやはり魔物の姿を確認しなければってことになる。
魔物は夜に現れるとのことであったため、夜目の効くミオと猫田さんが夜に索敵を行うことになった。
翌日
グスタフとシンシア、フィロミィナは、引き続き日中は狩りを行う。
昨日の狩りは、あまりうまく行かなかったようなので、引き続き自分たちと村の食料、そして、魔物を呼び寄せるための生餌の確保が目的だ。
ミオと猫田さんは、夜に備えて日中は休息である。
一方、私はというと、魔物と戦うことになった場合を想定し、予定戦場と決めた場所の周囲に、私の土魔法「地形操作」で、ひたすら落とし穴を作ることになった。
ちなみに、地形操作の魔法は地面や岩壁などの一部を隆起させたり、陥没させたりすることが出来る。
私の魔力深度では、一回の地形操作(陥没)で作れる穴はたかが知れているため、いち早く取り掛かることになったのだ。
一応、10メートル級の魔物を嵌められる大きさと深さを持つ穴を複数個用意しておく必要があるが、ここでマジックポーションを消費する訳にも行かない(マジックポーションは高いのだ。)。
私は、限界まで地形操作魔法を使っては休息を取り、動けるようになると、魔力が回復するまでの間、落とし穴に設置する木の杭を作るために、木を削っていた。
猫田さんとミオが、夜の見張りを始めてから2日目、囮にしていた動物が襲われた。
猫田さんたちは、その囮を襲った魔物の姿を目視したのだった。
「で、魔物はどんなヤツだったんだ?」
「ああ、やはりヤツは海からやって来たよ。 ヘビのような長い首に丸っこい胴体、足・・・というか、ヒレみたいな感じだな。 そのヒレを使って、地上でも動けるようだ。 全体的なフォルムは・・・そう、首の長いカメみたいな感じかな?」
「そうだナ。 だけど、カメみたいな甲羅は無くって、ウロコで覆われていたけどナ。 あと尻尾もカメよりはずっと長いナ。」
「首と尻尾が長くて、甲羅の無いカメか。 首長竜みたいなヤツか? 本で見たことしかないが。」
「大きさはどうだったのかしら?」
「囮にしていた猪の大きさから推測するに、尻尾まで含めると10メートル近くはあるね。 9~10メートルってところじゃないかな?」
「でも、元々海中で暮らしているんですよね? 海の中の方がお魚とか沢山いるでしょうに・・・なんでわざわざ陸上に来るのでしょうか?」
「竜神さまのお供えものを食べて、陸上のものに興味を持って・・・さらに家畜を襲って、味を占めた・・・とかかしら?」
「放っておくと、その内に直接村を襲うかもしれんな。 クロエ、落とし穴はどんな具合だ?」
「今は、直径が8メートル位、深さは5メートルほどの穴が1つだけ。 2つ目に取り掛かったところだよ。」
「木杭は?」
「1日では10本ちょっとだね。 後は、落とし穴を隠す蓋も作らないとだよ。」
「それについては、村人に協力してもらおう。 クロエは、とにかく穴を優先して作ってくれ、お前にしか出来ないからな。 最低でも同規模のものがあと2つは欲しいな。」
「うん、がんばるよ。」
それから数日間、私たちは、それぞれ狩りと穴掘りと杭作りに勤しんだ。
6日経った頃には、なんとか落とし穴3個が完成。
さらに翌日には、杭の設置の済み、落とし穴を塞ぐ蓋も完成したのだ。




