第3話
私とグスタフが工房からホームに戻って来ると、居間のテーブルには誰も座っていなかった。
台所では、シンシアとフィロミィナが絶賛夕食の準備中。
ソファーには、座っている猫田さん。 そして、猫田さんの胸には引っ付き虫のようにくっ付いているミオがいた。 どうやら、その状態のままミオは眠っているようだ。
「や、やあ、クロエ、グスタフ、お帰り。 早かったんだね。」
「どうしたんだ? ネコタ・・・」
猫田さんの顔には、多少のひっかき傷が見える。 そして、大分お疲れのご様子だ。
「いやぁ、ミオをなだめるのに苦戦してね。 なんとか、機嫌は直してくれたようなんだけど・・・こんな感じになりました。」
「そ、そうか・・・まあ、ミオには気を遣ってやってくれよな。」
「ああ、そうしているつもりなんだけど・・・結局、不機嫌の原因が何だったのか良く分からないんだよね。」
「猫田さん、そのことはミオさんには聞かないで下さいね。」
「そ、そうかい? 女性って言うのは、本当に難しいなぁ。」
(う、うーん・・・ミオさんの場合は、割と分かりやすい部類だと思うので、猫田さんが鈍感すぎるんだって思うけど・・・でも、今回ばかりは猫田さんが悪いって訳でも無いしなぁ・・・状況が悪かったとしか・・・)
「良いんですよ。 とにかく、猫田さんは常にミオさんを1番に考えて行動して下さい。」
「了解だよ、クロエ。」
そして、6人揃っての初めての夕食。
皆が、いつもの定位置に腰掛け、フィロミィナはシンシアの隣(私の向かいでもある)に座る。
「じゃあ、フィロミィナの加入祝いってことで、今日は飲もうぜ!!」
「あんたは、毎日飲んでいるじゃないのよ。」
「まあ、そう言うなって。 じゃあ、乾杯の前にフィロミィナからひとこと貰えるか?」
「え? ああ、はい。 フィロミィナです。 皆さん、パーティに迎えていただいてありがとうございます。 恐らく、私の噂は聞き及んでいらっしゃると思いますが、それなのに誘ってもらえたのが嬉しいです。 至らぬ点も多いと思いますが、よろしくお願いいたします。」
「「「よろしくー!!」」」
「じゃあ、乾杯だ!!」
「「「「かんぱ~い!!」」」」
そして、しばらくは楽しい飲食が続いた。 しかし、大分お酒も進んだ頃に・・・
「おい、妖魔族。」
いつもより大人しかったミオが、突然フィロミィナに声をかけた。
ミオの顔を見ると、既にお酒で真っ赤になっていた。
「ちょっ・・・ミオさん!?」
「はい、なんでしょうか? ミオさん。」
「オマエは、なんで『発火点』なんて呼ばれていたんだナ?」
「そ、それは・・・」
「おい、ミオ・・・」
「ネコタ黙れ。 お前は、またミオよりもフィロミィナを贔屓するのか?」
「ミオ~。 早くも酔っぱらってんのか?」
「グスタフも黙ってくれ。 仲間になるんだから、本人の口からちゃんと話してもらうべきだろう?」
「ミオさん・・・フィロミィナ、ごめんなさい。 ミオさん酔っぱらって・・・」
「いえ・・・ミオさんのおっしゃることも理解できます。」
「フィロミィナ・・・」
「皆さんに、どこまで信じていただけるか分かりませんが、私なりに『発火点』なんて呼ばれるようになった理由をお話しします。」
それから、フィロミィナが話してくれたのは、こんな感じだ。
見た目や、スタイルの良い女性が多い妖魔族の魅魔種。
その魅魔種は、闇魔法が得意な種族で、しかも魅了の魔法を得意とする人が多い。
実際、その外見や魅了の力を武器にして、そっち方面で稼ぐ人も少なからずいるそうだ。
しかし、フィロミィナは、闇属性魔法こそ使えはするものの、初歩の攻撃魔法と若干の補助魔法しか使えず、代わりに魅魔種では非常に珍しい光属性の、しかも回復魔法が使えた。
元々、男に誑かして生きて行こうとは考えていなかったし、得意の回復魔法を活かして、治癒士としてパーティに貢献して行きたいと考えて、冒険者の道を選ぶ。
魅魔種の治癒士が非常に珍しいこともあってか、色々なパーティから勧誘を受けたが、所属したどのパーティも数か月もしない内に内部から崩壊してしまったのだと言う。
そんな事が続くうちに、パーティを崩壊させる原因だとして『発火点』なんて呼ばれるようになってしまったとのことだ。
フィロミィナは、寂しそうな顔をして最後にこう言った。
「私は、今までに所属したパーティのメンバーに恋したことも無いですし、そもそも魅了の魔法も使えません。 でも、私が男性を誑かしてパーティを崩壊させているってことになってしまったんです。」
「フィロミィナ・・・」
「こんなこと知っちゃたら、私なんかを仲間にするのはイヤですよね・・・」
「いや、そんなことはナイんだナ。」
「ミオさん?」
「そんなの、その男たちが勝手にしたことなんだろう? なのに、全部フィロミィナの所為にされて・・・可哀そうなんだナ。」
「ミオさん・・・」
「ミオは、フィロミィナの加入に賛成するんだナ。」
「ミオ・・・」
「ミオさん・・・」
「だけどフィロミィナ・・・まずは、そのエロい服装をやめるんだナ。」
「え? エロい!? 私の服装が・・・ですか??」
「おう。」
「え? 全然普通ですよ?」
「いや、妖魔族じゃどうか知らんがナ・・・世間一般では十分にエロいんだナ。」
「ええー?」
「早速明日オマエの服を買いに行くからナ。」
「えっ? でも、私お金が・・・」
「お金は、グスタフとネコタに払わせるんだナ。」
「「何だって!?」」
「お前らのためでもあるんだナ。 それとも、エロい服の方が良いっていうのか?」
「・・・分かった。 金は出してやるから、1~2着普通の服を買ってくれや。 後は、クエストの報酬が入ってから、自分の金で買ってくれよ。」
「は、はぁ・・・」
そして、フィロミィナ加入祝いは終わり、各々の部屋に戻るため2階に上がろうとしていた時、ミオがフィロミィナに声を掛ける。
「おい、フィロミィナ。」
「はい。 何でしょうか?」
「今日は、フィロミィナもミオの部屋で寝ろ。」
「え?」
「ミオさん、そんなイキナリ・・・」
「大丈夫だクロエ。 ミオのベッドなら3人でも行けるんだナ。」
「それは、そうかもしれませんけど・・・フィロミィナもイキナリは困るでしょう?」
「そんな事は無いナ、そうだろうフィロミィナ?」
「え、ええ。 ミオさんとクロエが良いのでしたらゼヒ。 そういう女の子同士の付き合いも憧れます。」
「そうだろう。」
「あれ? じゃあ、自分の部屋は?」
「ネコタよ、ネコタの布団は居間にあるんだから、ネコタは居間で寝ろ。」
「あ、はい。 分かりました。」
「良し、じゃあ早速部屋に行くんだナ! クロエ、フィロミィナ!!」
「「はーい。」」
ミオのベッドにて、フィロミィナを真ん中に、私とミオの3人で川の字になって横になる(今日のクーニャは、3人の枕になっている。)。
横になって少しの間は、3人で話をしていたが、酔っていたミオは10分もしない内に脱落。
その後は、私とフィロミィナの2人で少し話をしていたが、しばらくするとフィロミィナも眠りに落ちてしまった。
季節は、夏真っ盛り。 ただでさえ暑いのに、3人も同じ部屋の同じベッドにいたら、そりゃあ暑いに決まっている。
隣で眠っているフィロミィナを見ると、大分汗をかいているようだった。
(フィロミィナは、普通の人よりも暑がりなのかもしれないな。 魅魔種が露出の多い服を着ているのって、種族的に暑がりの人が多いからだったりして・・・)
などと考えていたが、私も何だかとても暑くって、上半身を起こす。
眠るミオを見ると、ミオもスゴく暑そうで、グネグネ動いており吐息も荒い。
眠る2人を眺めている内に、私もなんだか体が疼いてくる感覚に襲われてきた。
次第に、私の呼吸も荒くなってくる。
私は、余りの暑さと疼き・・・そして、その・・・尿意を感じたため、部屋の灯りを点ける。
灯りが灯った瞬間、部屋の空気がピンク色になっているんじゃないかと感じた。
灯りの下でミオとフィロミィナを見ると、フィロミィナはそうでも無いと見えたが、ミオの顔は真っ赤であった。
私は、急いで起き上がり、ミオの額に手を置く・・・凄く熱い!
まずは、急いで部屋の窓を開ける。
窓からは、室温よりは大分低い温度の新鮮な外気が流れ込んできた。
そして、入って来た外気の代わりに、室内を満たしていた高温でピンク色(注:イメージです。)の空気が流れ出て行ったような気がする。
私は、とりあえず窓は開け放ったままで、部屋のドアすら開けたまま、一旦トイレに向かう。
居間で眠る猫田さんに、トイレに行ったのを気付かれてしまったが、それは仕方ない。
ミオの部屋に戻ると、窓と扉をあけ放っていたお陰か、室内の温度はかなり下がっていた。
ミオの顔色は少し良くなっており、先ほどよりもしずかに眠っている。 フィロミィナの汗も、かなり引いていたように感じられた。
「これって、もしかして・・・」
私は、フィロミィナが『発火点』などと呼ばれることとなった原因を、見つけてしまったのかも知れないと思った。




