第2話
フィロミィナとの昼食後、星夜の灯火ホームにて
「皆さん、改めまして・・・治癒士のフィロミィナです。 これからよろしくお願いします。 えーっと、光の回復魔法と解毒魔法、防御魔法が使えます。 後は初歩ですが、闇の攻撃魔法なんかが少しだけ使えます。」
顔を真っ赤にしながら、治癒士フィロミィナが私たち「星夜の灯火」のホームにて、メンバーに挨拶をする。
「よろしくな、フィロミィナ。 改めて、俺はグスタフだ。 戦士で一応パーティリーダーをやっている。 獲物は両手剣がメインだ。」
「一応、私も・・・シンシアよ。 サブリーダーって所かしら。 魔法士で、光水風属性よ。 回復系魔法は使えないんだけどね。 後は、弓が結構得意って感じかしら。 ちなみに、グスタフは私のダンナよ。」
「ミオはミオだナ。 主に殴ったり、蹴ったりが得意なんだナ。」
「自分は、猫田だよ。 このパーティでは、一番の新入りだったんだが、後輩が出来て嬉しいよ。 役柄的には、一応戦士になるのかな? 得意な武器は特にないが、今はクロエに造ってもらった槍と、同じくクロエから借りている刀をメインにしている。」
「先に言っておくけどナ・・・ネコタは、ミオのモノなんだからナ。」
「そうなんですね。 同じパーティ内で、2組もカップルが出来ているなんて、凄いですね。 羨ましいです。」
「最後は私、クロエです。 パーティ最年少で、本職は鍛冶師です。 冒険者としては、特別秀でたところはないんですが・・・短刀2刀流と投擲武器はそこそこ得意で、鎖鎌とかマイナー武器もちょっと使います。 後は、土魔法が少し使えます。」
「またクロエは・・・いいか、フィロミィナ。 クロエは、こう言うけどナ。 クロエの土魔法は、攻撃も回復も、補助系だって使えるんだナ。 剣だってかなり強いんだナ。」
「使えるってだけで、どれもこれも中途半端なんですけどね。」
「クローエ・・・あなたって娘は・・・」
「あ、そうだ。 私は結構力持ちなんで、前衛も行けます。」
「フィロミィナの獲物は、ウォーハンマーだったか?」
「はい、今はウォーハンマーにラウンドシールドでやっています。 以前はモールを使っていたこともあったんですけど・・・何度も仲間を巻き込みそうになったので止めました。」
「モ・・・モールだと!?」
「もーるってなんだナ? 聞いた事ないナ。」
「簡単に言うと、バカ長い両手持ちのメイス・・・まあ、メイスの親玉みたいなものか? 力持ちってのは本当そうだな。」
「ハンマー使いはありがたいね。 前の岩犬戦の時に彼女がいたら、自分たちより活躍出来たんじゃないか?」
「バカね、猫田。 フィロミィナの役目はあくまで治癒士よ。 ウチは前衛職の人材は豊富なんだから、わざわざ治癒士を前線には立たせられないわ。 フィロミィナには、自衛に徹してもらうわよ。」
「それは確かに。 シンシアの言うとおりだね。」
「私は力が強いだけで、あんまり器用ではありませんので・・・だから、刃物が得意じゃないですし、ある程度のスピードがある魔物相手だと、あまりお役には立てないかと思います。」
「そうなんですか?」
「お恥ずかしい限りです。」
「フィロミィナ、早速だが・・・近日中に、俺たちは沿岸部の町や村を周りながら、ロアー・リブ市まで行く予定なんだが、同行できそうか? 2~3か月はかかると思うんだが。」
「はい、ぜひご一緒させて下さい。 でも、王都経由の方が道は整備されていますし、安全なのではないですか?」
「そうなんだけどな。 沿岸部にある小さい町なんかは、あまり冒険者がいないからな。 未解決のままのクエストが残っているたりするんだよ。 そう言うのを潰して行こうかってな。 何というか、地域貢献? みたいな感じか?」
「あまり訪れる機会のない町なんかを、海を見ながら周って見てみたいってのもあるんだけどね。」
「そうなんですね。 私は今、宿暮らしですけど・・・あまりお金が無いんですよ。 ですから、スグにでも行けます。」
「そうか? じゃあ、3日・・・いや、用意しないとならんものがあるから5日後でどうだ? 宿代が無いのなら、ここに泊まってもらってもいいぞ。 空き部屋はないから、居間で寝てもらうってことになるが。」
「良いんですか!? ありがとうございます。 じゃあ、早速荷物を持ってきます。」
「お、おう・・・」
フィロミィナは、スグに立ち上がると、慌てるようにホームから出て行ってしまった。
「中々忙しない娘ね。」
「そうだナ。」
「彼女を居間で眠らせるのは可哀そうだな。 自分が居間で寝るから、彼女には自分の部屋を使ってもらおう。 自分の荷物はそんなに多くないし、スグに空けられるよ。」
「そうねぇ・・・猫田がそうしてくれるのなら有難いわね。」
「なんであの女のために、ネコタがそんなことするんだナ?」
「女性を居間で寝かせるのは良くないかと思ったんだけど・・・」
「それなら、私は工房に泊まるので、ミオさんの部屋に泊めてあげて下さい。」
「ええ~? クロエの代わりにあの女か? それはなんかイヤだナ。」
「今回は、猫田に我慢してもらおう。 いいか?」
「自分は構わないよ。」
「今回の遠征で少し稼げれば、宿代くらいはどうにでもなるだろう。」
「だけど、彼女だけ仲間外れはかわいそうね。」
「ああ、スグにって訳にはいかないだろうが、少し前に話していた『新ホーム』の件を本格的に考えるか・・・」
「そうね。 いいタイミングだったかもしれないわね。」
「フィロミィナさんも一緒に暮らせるように、部屋数を増やすんだね。」
「そうだな。」
「せっかくなら、お風呂が欲しいわね。」
「おう、それはいいナ。 公衆浴場に行かなくてもよくなるナ。」
「風呂か・・・一気に値段が上がるな。」
「夢は広がるね。 だけど、金の方は大丈夫なのかい?」
「そうね。 このホームを売った代金も含めれば、結構良いものが買えるんじゃないかしら?」
「じゃあ、この旅の間に新ホームのことを考えるんだナ。」
「そうだな。 皆も自分の希望を考えておいてくれよ。 まあ、希望を全部叶えるのは無理だろうけどな。」
「はーい。」
「それじゃ、皆も旅の準備をお願いね。 クローエとフィロミィナがいると言っても、ポーションの準備は怠らないようになさいよ。」
「おう。 じゃ、ネコタ、クロエ、早速買い物に行くんだナ。」
「分かったよ。 クロエ行こうか?」
「はぁい。 シンシア、私たち出かけても良い?」
「いいわよ、いってらっしゃい。 私とグスタフで残っているから、フィロミィナの事は心配しないで。」
「そんじゃ、行って来るナ!!」
私、ミオ、猫田さんの3人で商店街に向かった。
私は、ヒーリングポーションとマジックポーションの補充を行った後に、ミオたちと別れて鉱石素材を扱う店に向かい、鉄鉱石を買いあさる。
今回の旅に出かけたら、戻って来るのに結構時間がかかると思われたため、レンブラント商会に卸す包丁をいくつか打っておこうと思ったのだ。
後は、ロアー・リブの「千年武器店」に納品用に何かを打ちたい。
鉄鉱石を買ってからホームに戻ると、荷物を回収してきたフィロミィナと、ミオと猫田さんも帰って来ていた。
しかし、なにやらミオの機嫌がよろしくないように見える。
ミオは、居間のテーブルの自分の席に肩肘をついてムスっとして座っている。
猫田さんは、自分の部屋から荷物を持って居間に下りて来たところだった。
猫田さんの荷物は私よりも少ない。 旅用の装備の他には、普段着が数着と部屋着くらいしかなく、他に私物と言えるものはほとんど無いので、引っ越しは非常に楽だ。
一方フィロミィナは、ソファーでシンシアとお茶を飲んでいた。
その横には、大きなリュックとパンパンに膨らんだ手提げのバッグが2つ見える。 さらにはハンマーと丸盾もある。 フィロミィナは、宿暮らしの割に荷物持ちのようだ。
「フィロミィナの荷物を上に上げるよ。」
「あ、じゃあ自分でやります・・・」
「いいですよ。 私と猫田さんで運びますので、フィロミィナはゆっくりしていて。」
「いえ、そんなの申し訳ないです。 荷物重たいですし。」
「大丈夫ですよ。 シンシア、グスタフは?」
「干していた布団を取り込んで、猫田の部屋に運んでいる最中よ。」
「そうですか。 じゃ猫田さん、行きましょう。」
私は、フィロミィナの大きなリュックを背負う・・・う、確かに重い・・・
猫田さんは、手提げバッグを両手に持つが、そっちはさらに重そうだ。 フィロミィナが、自分の事を力持ちだって言っていたけど、本当にそうなんだろう。
なんとか荷物を運んで、猫田さんの部屋に入れ、ベッドから猫田さんの布団を片していると、グスタフが取り込んだ布団を持って現れた。
猫田さんの部屋には、私と猫田さん、そしてグスタフの3人になる。
猫田さんの部屋は狭いので、ギッチギチだ。
「ちょっと、猫田さん?」
「なんだい?」
「私と別れた後、ミオさんに何かしたんですか? 若しくは何もしなかったんですか?」
「え? どういう事??」
「何があったの!!」
「おう、俺にも聞かせろ。 ミオの不機嫌の原因はなんなんだ?」
「いや、クロエと別れてから、ミオは例の雑貨屋に行くって言うんで、そこに向かっていたんだが、途中でフィロミィナと会ったんだよ。」
「「ああー。」」
「それで、この大荷物だろう? だから、フィロミィナの荷物運びを手伝おうって、ミオに話をして3人で戻って来ただけなんだが。」
「あー、そっかぁー・・・うん。 それは・・・タイミングが悪かったですね。 単純に猫田さんが悪いって訳では無いようですね。」
「確かに、それは仕方が無かったな。」
「で、その後ミオは全然喋らなくなってね。 ホームに戻ったら、なんかミオの機嫌が悪くなっていたんだよ。」
「う、うーん。 ミオさんの気持ちも分かるけど・・・猫田さんがなぁ・・・」
「え? 自分なにか変なことしたかい?」
「いや、今回はお前に非があるって訳では無い・・・だが、ミオの不機嫌の要因は、やっぱりお前だな。」
「ええっ?」
「ミオさんも、怒っているけど、怒れないっていう感じでしょうか?」
「え? なにそれ? 難しい・・・」
「猫田よ、女ってのは難しいんだよ。 男の俺たちには、永久に理解できないもんなんだよな。 まあ、後でミオに謝って・・・は、違うか。 とにかく、ミオに構ってやってくれ。」
「あ、ああ・・・なんだか分からんけど、了解だよ。」
猫田さんのベッドに、来客用布団を敷きなおした後、私たちは1階に下りた。
居間では、未だにテーブルにてむくれているミオと、ソファーにはシンシアとフィロミィナがいた。
シンシアからなにか合図が送られてきた。 フィロミィナを2階に連れて行くから、ミオをなんとかせよ・・・と言っているように感じられたため、私はシンシアに頷きを返す。
「猫田さん、ミオさんの隣に座って話をして下さい。」
私は、小声で猫田さんに指示を送る。
「あ、うん。」
猫田さんは、何が何だか分かってはいないようだったけど、先ほどグスタフに言われていたこともあってか、自分が抱えていた自分の布団を居間の奥に置くと、テーブルに向かった。
「じゃあフィロミィナ。 一旦部屋に案内するわ。 狭いんだけど、我慢してね。」
「はい、ありがとうございます。」
シンシアとフィロミィナは、私たちと入れ替わるように2階に上がっていく。
「グ、グスタフ。 私はちょっと工房に荷物を持っていくからね。」
「ちょ・・・おい待てクロエ、俺を1人にする気か?」
グスタフは、彼らしからぬ小声で、私に囁く。
「えー・・・だって・・・」
私も小声でグスタフに答える。
グスタフは、少し思案していたようだったが・・・
「お、おうクロエ、今からだと戻って来る頃には暗くなるかもしれねぇから、今日は俺が工房まで一緒に行ってやるよ。 そしたら帰りも安心だろ?」
「え!? あ・・・そ、そうだね。 猫田さん、ミオさん、ちょっとグスタフと工房に行って来るから。」
「え? ああ、うん。 いってらっしゃい。」
猫田さんは、何だか分からないと言った表情をしていたが、声を掛けて私たちを送り出してくれた。
ミオは、無言のままだった。
私は、グスタフと2人で工業地区の工房に向かう。
「そう言えば、グスタフと2人で出歩くって無かったよね。 初めてかも?」
「そうだなぁ・・・まあ、普段はミオがくっついていたからな。」
「ははは・・・そうかもね。」
「俺は、お前の工房に行くのも初めてだな。 いい機会ではあったかもな。」
「うん。」
(年頃の娘が、お父さんと一緒に歩くって言うのは、こんな感じなんだろうか?)
なんてことを、私は考えてしまっていた。




