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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第10章 カメリアとクー5

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第11話

 ロアー・リブ市の武器屋で、刀などを大人買いした後、とりあえず昼食を食べてから、一旦拠点(ホーム)に戻った。

 クーとのデートもそこそこに急いで拠点に戻ったのは、どうしても確認しておきたいことがあったからだ。


 拠点の私とクーの部屋で、早速本日買って来た武器を並べて広げる。

 そして私は、朱鞘の刀を手に取った。


「確か、これを外してこの辺を・・・」

 目釘を外して、刀の柄を持った左手の辺りをコンコンと右手で叩く。

 最初は上手くできなかったけれど、何度か試している内に刀身が柄から外れた。


「わあ・・・ツキ姉、いきなりバラしちゃって大丈夫なの?」

 私の横で心配そうに見つめていたクーが、思わず声を出してしまう。


「私は素人だけど、外した順番を覚えていれば戻すことはできるわ。 クーも覚えておいてね?」

「はい。」


 柄を外して、(なかご)を覗き込む。


「あった。 でも八州国の文字ではないな、中央大陸の文字だ。 クロイ・・・クロエかしら?」

「そうだね。 クロエって書いているね。 中央大陸(この国)ではよくある女性の名前だよ。 こんな所にどうして女の人の名前が彫ってあるんだろう?」

「これはね『銘』っていって、この刀を打った人の名前なんだよ。 必ずあるってものでもないけど、クロエか・・・もしかしたら私の故郷で打たれたものかと思ったんだけど、違うみたいね。 中央大陸に渡って来た八州国人鍛冶師の弟子とかかしらね。 あの店主さんも、売りに来たのは女性だったって言っていたし、その女性のどちらかが鍛冶師だったのかなぁ?」

「あ、裏にもなんか彫ってあるね。 これって、リア姉の故郷の文字じゃないですか?」


 クーには、以前に八州国文字を少し教えたことがあるので、何となく分かったのだろう。

 因みに、教えたのは「クー」の響きから「空」とか、私の「鍔姫」や「椿」なんかだ。


「どれどれ~? これは・・・確かに私の国の文字だね。 『壱式』って彫ってある。」

「イチシキ? どんな意味ですか?」

「うーん。 シリーズの1番目とか、1号とか言った感じかな? このクロエさんの1番最初に打った刀って意味かなぁ?」

「へぇ~。 1番目でこの完成度ですか? 私から見てもこの刀はかなりの業物に見えるよ。」

「多分、売り物になるまでに沢山の試作品はあるんだよ。 ようやく売りに出しても良いくらいに満足の行く出来になった・・・とかじゃないのかな?」


 刀「壱式」を元に戻すと、今度はショートソードと短刀の柄巻きを外してみる。

 そのいずれにも「クロエ」の銘が刻んであったが、刀にあった「号」のようなものは無かった。

 銘を確認した後、それぞれの柄に皮紐を巻き戻す。 ちょっと不格好になっちゃたけど・・・


「クー、さっきのお店で短刀を1本あなたにあげるって言ったけど・・・ごめんなさい。 短刀はあげられなくなったわ。」

「ええ!? そんなぁ・・・じゃあ、買い取りますから。 お願いツキ姉、私に譲ってください。」

「いえ、短刀はエルザとパトリックにあげようと思うわ。 ショートソードはゲオルグだね。」

「え? それじゃあ?」

「ええ、あなたにはこの『壱式』を贈るわ。 黒鋼製で耐久力も今までの物に比べたら段違いのハズだし、鉄よりかは少し重たくはなるけど、今のあなたなら問題ないでしょう?」

「えっ!? それはとっても嬉しいけれど、貰いすぎじゃない? お金は出します。」

「忘れたの? あなたはつい先日成人したのよ? クーの成人祝いとして、我ながらこれ以上は無いってくらい、完璧な贈り物だと思ったのだけど・・・ダメかしら?」

「成人祝い・・・ううん、とっても嬉しい!! ありがとうツキ姉、大好き!!」


 クーが飛びついて来た。 今日の締め付けは、いつもよりも心持ち強い。

 私の体の耐久力を熟知しているクーは、いつもなら私が壊れないような絶妙な力加減でスキンシップをしてくれるのだが、さすがに今日は力を抑えきれていないようだった。


(こんなに喜んでくれるなんて・・・良かったわ。 刀を打ってくれたクロエさんにも、その刀を千年武器店に売ってくれた商人にも、店主のお爺さんにも感謝だなぁ・・・)

 薄れゆく意識の中で、私はこの出来事に関係するであろう人々に感謝の念を送っていた。



「ツキ姉、ツキ姉ってば!! 大丈夫? 起きられますか?」

「う、う~ん・・・あんまり大丈夫じゃないかも・・・」

「ごめんなさい。 刀のことが嬉しすぎて、ちょっと力が入っちゃいました。」

「そっかー、そんなに喜んでもらえたのなら嬉しいわ。 でも、気を付けてね?」

「はい、ごめんなさい。」

「私、どの位眠っていたのかしら?」

「えーっと、2時間位?」

「そんなに?」

「うん・・・よく眠っていたみたいだから・・・」

「そうなのね。 起こしてくれたってことは、何かあったの?」

「うん。 夕食の買い出しと・・・あと、ギルドで壱式を試したいの。」

「そうだね。 今は・・・3時くらい?」

「はい、その位ですね。」

「じゃあ、ギルドに寄った後にお買い物に行こうか?」

「はいっ!!」


 クーは、早速剣帯からサーベルを外して、刀を取り付けていた。


「あ・・・」

「何? ツキ姉、どうかした?」

「あ、うん。」


 クーは、今までのサーベルと同様に剣帯に刃を下向きにして刀を下げていた。

「太刀」と呼ばれる昔の刀は、そのように取り付けていたそうだが、クーの壱式のような現代の刀「打刀」は、刃を上にして帯に挟む(差す)のが一般的だ。

 別にそうしなければいけないと言う訳ではないけれど、刀好きのクーだから一応刀の持ち方を教えてあげる。


「へ、へぇ~。 剣帯を使わないんだね。」

「クーが付けにくいと感じるなら別に良いんだけどね。 中央大陸では別に気にする人はいないだろうし、なんなら剣帯に下げる方が普通に見えるかもね。」

「ううん。 教えてくれてありがとう。 折角だから、正しい付け方をしたいな。」


 クーは、剣帯を外すと腰に細めの紐を巻いて、そこに刀を通す・・・が、上手く出来ない様だったので、私が付けてあげた。


「うーん、ちょっと慣れが必要かな?」

「そうかもね。 脇差もあると良かったんだけど・・・まあ、無理しないでね。」

「わきざし?」

「うん。 刀のショートソード版みたいなのでね。 大小2本差すのが完成形なんだ。」

「へぇ~。」


 その後、2人でギルドに向かう、クーが、訓練施設で小一時間ほど刀を振った後(私はずっとクーを眺めていた)に、ギルド併設の食事処でお茶を飲んでいた時だった。


「お嬢さん方、見ない顔だな。 俺たちと一緒に飲まないか?」

 如何にも下品な冒険者と言った4人組が、クーに声を掛けて来た。


「いいえ、私たちはもう出ますので。」

 毅然とした態度でクーは答える。 さすが、クー()()は男に声を掛けられることが多いから受け答えも慣れたものだ。


「冒険者の先輩に対して、そんな邪険な態度を取るもんじゃないぜ、ネコ娘。」

「そうだぜ、そっちの無視を決め込んでいる姉さんもな。 先輩が優しく言っている内に従いなよ。」

 思わず、私の目は鋭くなってしまう。 それを察したクーが、冒険者に言葉を返す。


「私たちはもう帰りますから。 それに私は、猫じゃなくて虎です。」

「と・・・トラだと!?」

「おい、トラって・・・ついこの間も・・・」

「うっ・・・思い出しちまった。 お前たち行こうぜ。」

 そんなセリフを吐き捨てつつ、如何にもな冒険者たちは去って行った。


「行こうツキ姉。 早く買い物にいかなくちゃ。」

「そうね。 クーさんのお陰で、お店を破壊しなくて済んだわ。」

「やっぱり・・・そんな事思っていたんだね。 ツキ姉、強者は広い心ですよ。」

「そうだったわね。 でも、クーとの楽しいひと時を邪魔されるのが一番頭にくるわ。」

「私も同じだよ。 でも、スグに力に訴えるのはダメだよ。」

「うん・・・分かってはいるんだけどね。 少し気が短いのは私の欠点だよね。」

「あー。 ()()・・・なんだ。」

 そんな話をしながら、夕方の市場に向かう。

 市場にて、夕食用の食材を色々物色しながら楽しく2人で歩いていた時だった。


「ミオ姉さん?」

 クーに向かって声を掛けて来た人がいた。


「えっ!?」

 クーは、思わずその声に反応して振り向いてしまった。


 確か「ミオ」とは、行方不明のクーの姉の愛称だったはずだ。

 私もクーと同時に、その声を掛けて来た人物に振り返る。


「ミオ姉さん・・・いや、クーニャか?」

「あ・・・マイア!?」

「やっぱりクーニャか? 金髪だったから、ミオ姉さんかと思ってしまったゾ。」

 振り向いた先に立っていたのは、クーと同じくらいの背だが恰幅が良く、裕福そうな出で立ちをした熊獣人だった。


(ウルスス!! まずい、クーの事を知っているようだ。 クーが生きていることを知られた・・・マズすぎる・・・!!)


「マイア・・・」

「クーニャ、ご両親の事聞いたゾ。 残念だったな。 私はギデオン父様やユージェニー母様には大層お世話になったからな。 クーニャも一緒に事故で亡くなったと聞いていたので驚いたゾ。」

「マイア・・・アナタ、何を言って・・・?」

「何って、3年位前にお前の家族が事故で亡くなってしまったという話だろう? 私はクーニャの家から出た後は、第10国にいたからな。 お父様から話を聞かされただけで、詳しくは知らなかったのだが、クーニャは無事だったんだな、良かったゾ。」

「う・・・うん。」

「ミオ姉さんが、家出したっていうのは本当なのか?」

「うん。 マイアが実家に戻ってから、1年も経たない頃だったかな?」

「そうなのか・・・心配なんだゾ。」

「うん。 マイアはどうしてロアー・リブにいるの?」

「お父さまは、少し前からサジタリアに赴任しているんだゾ。 私は、見聞を広めるためにロアー・リブ市を見に来ているんだ・・・なんて偉そうに言ってみたが、実際は観光だゾ。」

「そうなんだ。」


「クー・・・」

「待って、ツキ姉。 少しマイアと話をさせて下さい。 彼女は私が、9才頃まで姉妹同然に育ったんです。」

「そうなの? どうして?」

「マイアのお父さんと、私の父は学校の先輩後輩の間柄で、仲が良かったんです。 マイアのお父さんは、第7国(リブラ)の外交官みたいな仕事をしているので、国外にいることが多くて・・・それで、マイアが小さいうちは、家で預かるってことになっていたようです。」

「ふぅん・・・」


「えーっとツキさん? クーニャの言ったとおり、私とクーニャは、姉妹みたいなものなんだゾ。」

「そうなのね。 ちょっとクー?」

「はい。」


 私は、クーを引き寄せて小声で話しかける。

「ウルススよ? 排除するべきだわ。」

「ダメですよ。 マイアのお父さんは、今はサジタリアに赴任しているって言っていましたし・・・それに、マイアは例の一件を知らない様です。 なにより、姉妹同然のマイアを傷つけたくはありません。」

「でも、どうするのよ? 仮に彼女が問題なかったとしても、クーのことを誰かに話しちゃったら、クーが狙われるかもしれないじゃないの?」

「私は、マイアを信じたいです。 ですから、マイアにはちゃんと話して、それで私のことは内緒にしてもらいます。」

「本気なの!?」

「はい。」


「えーっと、クーニャ? ツキさん? どうしたんだ?」

「ゴメン、マイア。 少し静かな所で話しをしたいんだけど、時間取れる?」

「ああ、もちろんだゾ。 折角クーニャと・・・6年か? 久しぶりに会えたんだ。 いくらでも付き合うゾ。」

「ありがとうマイア。」

「買い物はもう良いのか?」

「うん。 大体終わっていたから大丈夫。 これから、私たちが泊っている借家に行くけど良い?」

「ああ、もちろんだゾ。」

「夕食も作るから、夕食を食べながら話さない? あ、でも遅くなったらマズいかな?」

「いや、大丈夫だゾ。 クーニャの料理、是非食べてみたいゾ。」

「そうなの? 無理はしないで良いんだよ。」

「今は気ままな1人旅だから、泊まっても平気だゾ。 しかし、クーニャは料理なんて出来るんだな。 小さい頃は引っ込み思案で、勉強くらいしか出来なかったのにな。」

「もう、マイアってば。 ツキ姉の前で、あんまり昔の事バラさないでよ。」

「いいじゃないか、ツキさんも聞きたいでしょう?」

「そ、そうね。 是非聞かせて欲しいわね。」


 正直言って、私の知らないクーの事は超聞きたい。

 しかし、相手はクーの家族の(かたき)であるウルススの娘だ。

 私の心は、マイアの話を聞きたい気持ちと、速やかにマイアを消した方が良いという考えが戦っていたが、ひとまずはクーの気持ちを汲んで、大人しくしていることにした。


 そんな私の心の葛藤を他所に、あっという間にエルザの伝手の家に着いてしまった。

 クーは表面上楽し気な雰囲気を纏っており、マイアと話をしながら家に入っていく。


 しかし私には、クーの抑えきれない動揺が見て取れていた。


 私は、マイアが変な動きをしたら、いつでも対処できるように、ひと時も気を抜かないつもりだ。

 そして私は、2人から少し遅れて玄関をくぐった。


 ~第10章 カメリアとクー5 終わり~


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