第10話
第7国のエシャマリ市近郊において、ブルグマンシアの拠点の1つを潰した私たちは、その後一旦は第9国に戻る。 アローヘッド市を除いた3つ城塞都市や、再び第10国のレゴート市、第7国エシャマリ市などを転々としながら、ブルグマンシアの痕跡を探していた。
神暦3,173年2月
私とクーとゲオルグの3人は、現在第9国の西に位置するアローストリング市に滞在していた。
アローストリング市と言えば、クーを救出した時にしばらく滞在した豪邸が思い出されるが、今の「伝手」は、例の豪邸ではなく、アッパー・リブ市の時のような、普通の家だ。
以前は、第9国においてのブルグマンシアの活動は抑えられていたように思えるが、この1年ほどの間に、第9国内でもブルグマンシアの活動が再開し、私たちは何度かブルグマンシアとの戦闘を行い、小規模な拠点を2つほど落としていた。
しかし、それ以上の上部組織は未だに把握できていない。
なお、エルザとパトリックは、現在アローヘッド市に行っている。
なんでも、アローヘッド市には、我々「深紅」の活動を援助してくれているパトロンがいるらしく、時々報告のために出向かないとならないのだそうだ。
この1年半ほどの旅の途中、何回かは報告のため、エルザたちが旅から外れることがあった。
「次は・・・ロアー・リブ市に向かうんだよね?」
「そうなるね。 途中の町なんかに寄りながら・・・まあ、いつも通りだわね。」
「ロアー・リブか・・・もう3回目になるけど、また生のお魚料理食べたいですね。」
「そうだね。 中央大陸では、お刺身やお寿司が食べられないのは残念だけど・・・生のお魚自体、港町でないと食べられないからね。」
「ツキ姉が時々話してくれる、お寿司? いつか食べてみたいな。」
「そうだねぇ・・・私が作れればよかったんだけどね。」
「えっ!? い、いや・・・ツキ姉は、料理なんてしなくて大丈夫ですよ。」
「そう?」
「う、うん・・・」
何だか、クーの様子が気になったけど、まあいいや。
アローストリング市を発ち、ロアー・リブ市に向かう。
途中にある、町や名もない小さな村に寄りながらだったため、ロアー・リブ市に到着した時には、3月も半ば頃であった。
この月は、私たちにとって記念すべき月だった。 この3月でクーも15才となり、とうとう成人したのだ。
クーの誕生日当日は、旅の途中であったためお祝い出来なかった(しかも、クーの誕生日は3月4日なので、必ずルーナさま独演会の翌日となってしまう。 そのため、私の体調がすぐれないのだ。)ので、ロアー・リブ市に着いてから盛大に祝おう。
エルザも、こんな重要な時期にいないなんて、間の悪い女だ。
ロアー・リブ市においてのエルザの「伝手」も、もう三度目だ。
ここの伝手のお家は、港が良く見える場所にある。
なお、ここの伝手もお屋敷と言う訳ではなく、普通の家といった感じである。
「カメリア、クー、俺はちょっと情報収集に行って来るからよ。 今日は俺のメシは用意しなくていいぞ。」
「そう。 よろしくね、ゲオルグ。」
「ゲオルグさん、いってらっしゃい~。」
「クーの誕生会は、俺が戻って来てからにしてくれよな。」
後ろ手に、手を振りながらゲオルグは早速出かけてしまった。
「どうしよっか?」
「そうだねー。 クーの新しい剣を探しに行ってみる?」
「あー、これももう大分ボロボロだしねー。 ツキ姉、一緒に武器屋さんに行ってもらえますか?」
「もちろんよ。 クーの新しい剣を買って・・・お昼は、生のお魚料理を食べよう。」
「いいですね。 じゃあ、早速行きましょうよ。」
「そだね。」
そうと決まれば、早速クーと手を繋いで街に出かけることにする。
クーの剣の買い替えは、もう何本目だろうか?
やはり、遠当ては剣への負担がとても大きいようだ。 加えて、クーの遠当て自体もどんどん強力になっているので、以前にも増して剣の寿命が尽きるのが早くなってきている。
普通の鉄製の剣ではなく、少し値が張ってもいいから、もっと耐久性に優れた剣を買った方がいいだろうか。
ちょうどクーも成人を迎えたばかりだし、成人祝いに、少しお高くても良い剣をプレゼントできたらいいな。 そう考えると、武器屋の数が圧倒的に多い王都の方が良かったかも・・・なんて、ちょっと思ってしまった。
何店目かのお店で剣を物色中。
このお店は、剣には素人の私から見ても、中々の物が置いてあるように見える。 店主が頑固そうなドワーフなのはちょっとコワいけど、ドワーフならば剣の目利きも信用できるのかな?
「ロアー・リブは港町だから、カトラスも結構ありますね。」
「そうだね。 カトラスかぁ・・・クーの最初の剣だったね。 ちょっと懐かしくはあるわね。」
「少し、じっくり見てみますね。」
「うん、ゆっくりと見てみなさいな。 私もこっちで少し眺めているわね。」
私は、短剣の類が並んでいるコーナーを何とはなしに眺めていた。
「一口に短剣っていっても、色んな形のがあるんだよねぇ。」
この国では一般的に、両刃のダガータイプの物が多いが、ダガーにしても色々な物がある。 他、片刃のナイフのような物や、それこそカトラスタイプの物も結構ある。
「カトラスって船乗りが使っているんだっけ? 港町だから多いんだろうな。」
独り言を言いながら、短剣を眺めていると、ショーケースの端に飾ってある、独特の刃紋を持つ同じ形の2本の剣に目が吸い寄せられる・・・
「これって、刀じゃない!? 短いから脇差・・・いえ、短刀かしら?」
短刀だからか刀身に反りはないが、その美しい刃紋は、生まれ故郷でさんざん見て来たものだ。
私は、久しぶりに興奮を覚えてしまい、ついさっきまでは勝手に苦手意識を持っていた店主に声を掛ける。
「ねぇ店主さん!! この片刃の短刀、見せて貰えないかしら!?」
「はいはい。 ただいま参りますので、少々お待ちください。」
白髪白髭の老ドワーフ店主は、ゆっくりと席を立って移動する。
「どうしたのツキ姉? 珍しいね、ツキ姉があんな声を出すなんて。」
クーが店主よりも先に私の元にやってきた。 私が上げた声は、私が思っていたよりも大きかったらしい。
「クー?」
「どうしたの?」
「見てよクー。 この片刃の剣・・・刀だわ・・・」
「え? カタナ? ツキ姉の故郷の?」
「ええ、多分ね。」
ようやく店主が到着し、ショーケースから短刀2本を取り出し、私とクーに持たせてくれる。
「刃には触らんようにの。」
「ええ、もちろんよ。」
「これが・・・本当にキレい・・・ただの武器って訳じゃなく、ちょっとした美術品みたい・・・」
その短刀は、柄の部分には細い皮紐が巻いてあるだけで、鍔も付いていない武骨なものであるが、刀身の美しさだけでも十分すぎるほどだった。
懐かしさのあまりか、自然と熱いものが込み上げて来る。
「白銀のお嬢さん、大丈夫かい?」
「ええ、ごめんなさい。 ちょっと懐かしくって。」
「懐かしい?」
「ええ。 それよりも、これの鞘ってあるのかしら?」
「ああ、これになるな。」
店主が見せてくれたのは革製の鞘だ。 これも思っていたのとは違ったけれど、それでこの短刀の魅力が減少する訳では無かった。
「店主さん、この短刀2本とも買うわ。 おいくらかしら?」
「良いのかい? 同じような物と比べるとかなり値が張るが。」
「構わないわ。 買います。」
「お買い上げありがとうございます。」
短刀の値段は、同程度の大きさのものに比べると、2倍以上したけど・・・
その会計をしようとしている時
「白銀のお嬢さんは、短刀を買いに来たわけではないのだろう?」
「ええ、まあそうですね。 この娘のサーベルを買い替えに来たのよ。 ただの鉄の剣では、この娘の技量についていけなくてね。 鉄よりも耐久力のある素材で造られたものが欲しかったんだけど・・・」
「ふむ・・・そちらのトラのお嬢さんか・・・」
「ええ。」
「・・・・」
「店主さん?」
「これは、単なる巡りあわせで片付けられる話ではないかもしれないな。 ちょっと待っていてもらえるかの?」
「え、ええ・・・」
何やら意味深な事を口走った店主は、奥の倉庫に消えて行った。
「ツキ姉、店主さんどうしたんでしょう?」
「いえ、私にも分からないけど・・・」
「でもカタナか・・・私も欲しいなぁ。」
「もちろん、一振りはクーのものだよ。」
「本当!? ありがとうツキ姉。」
そんな事を話している内に、店主が戻って来る。
店主の手には、布で包まれた長い棒状の物が握られていた。
店主は、カウンターの自分の席に戻ると、棒をカウンターに置き、布を外す・・・
「「!!!!!」」
私とクーは、布の外された中身を見て驚愕する。
カウンターの上には、朱色の鞘の刀があった。
鞘もそうだが、鍔も柄巻きも間違いなく「ザ・カタナ」と言っていいものだった。
「私の『白鷺』よりも、刀らしい刀だわ。」
「これが、本物のカタナ!? スゴい・・・過剰に装飾されていないのに、なんて美しい・・・この少し反った形・・・ツキ姉が前に教えてくれたとおりです!!」
「やはりお嬢さん方は、このカタナを知っているんだのう。」
店主は、言いながら鞘を払って刀身を露わにする。
「く、黒いね・・・でもキレイな刃・・・」
「そうね、ただこの色・・・見たことあるわ。」
「黒鉄鉱と言われる稀少鉱石を素材としているんじゃよ。 かなり高価な素材じゃが、武器の強度は鉄とは比べ物にならないぐらいに高くなるぞ。」
「黒鉄鉱・・・そうか、黒鋼のことね。 だから私も知っているんだわ。」
しばしの間、私とクーはその濃灰色の刀身を見つめる。
「店主さん、これらをドコで手に入れたんですか?」
「これがのぅ・・・実は、つい10日ほど前の事になるんじゃが、この店に、2人連れの若いお嬢さんがやって来てのぅ。 その娘さんから譲り受けたんじゃよ。 商人というよりは、冒険者といった感じだったがのう。」
「10日前・・・」
「他にショートソードもあったんだが、そっちは残り1本だけじゃな。」
「この刀を店頭に置いていなかったのは何故なの?」
「売ってくれたお嬢さんとの約束でな、刀の価値がわかって、儂の目に適う者がいたら、格安で譲ってあげて欲しいと言われたんじゃよ。 儂は、このカタナが気に入っておったので、よほどの事でも無い限りは譲る気がなかったのじゃが・・・そのお嬢さんたちも人族とトラ種獣人族の組み合わせでのう・・・本当に運命ってものがあるものかと、この年にして思ってしまったよ。」
「運命か・・・運命かは分からないけど、確かに因縁めいたものは感じるわね。 そのショートソードも欲しいわ。 この刀も含めて、全部譲っていただけませんか?」
「良いだろう。 だが、格安と言っても素材代だけでもかなり高価なものじゃぞ?」
「もちろん、分かっているわよ。」
「よし、お嬢さんらに譲ろう。」
こうして私は、ロアー・リブ市で偶然立ち寄った「千年武器店」と言うお店で、刀、短刀2本、刀造りのショートソードを一気に購入したんだ。




