第7話
およそ7か月間に渡る長旅を終えた私たちは、アローヘッド市でのエルザの「伝手」であるお屋敷に到着した。
クーがお屋敷の玄関ドアに手を掛けようとすると・・・
「クー!!」
クーが玄関の前に立つと同時にドアが開き、赤髪のデカい女が飛び出して来た。
そして、クーを力の限りに抱きしめる。
その背後には、更に大きく黒い塊も見える。
「え、エルザさん!? 戻っていらしたんですね!? パトリックさんもお帰りなさい!」
エルザにもみくちゃにされながらも、何とかクーが答える。
「そうだぞ、クー。 お前に長い間会えなくってエルザお姉ちゃん寂しかったぞ~!!」
「私もですー。」
「久しぶりだなクー。 一層逞しくなったようだな。」
「パトリックさん、ありがとうございます!!」
エルザがクーに頬ずりをしまくっている。 パトリックもクーの頭を撫でていた。
クーは、エルザに抱きかかえられたまま、成すがままになっている。
「ちょっとアンタら・・・私のクーにあまり馴れ馴れしいんじゃない? とりあえず、クーを離しなさいよ。」
「カメリアー、お前は相変わらず・・・!?」
「カメリア!? どうしたんだその髪は!?」
エルザとパトリックが驚いた顔で私を見ていた。
この旅の間で、すっかり慣れてしまっていたけど、今の私の髪の毛は地毛の白髪だったのだ。
白髪の事を知らなかったパトリックが驚くのは分からないでもないけど・・・エルザは、私の白髪を知っていたはずだが?
「まあ、落ち着きなさい。 まずは屋敷に入らない? ご近所迷惑になるでしょう?」
「そ、そうだな。 じゃ、行こうぜクー。」
「エルザさーん、そろそろ放してくださいー。」
「それは出来ない相談だな。」
「え~?」
「エルザ、いいかげん放しなさいよ。 クーが嫌がっているじゃないのよ。」
「うるさいぞカメリア、アタシは何か月もクー成分を吸っていないんだ。 ちょっとはアタシに気を使えよ。」
「何言ってんだか。」
エルザは依然としてクーを離さないが、一頻クーの頭を撫でまわしたパトリックは、馬車から荷物を降ろしているゲオルグに近寄って行く。
「ゲオルグ、ご苦労だったな。 荷物を降ろし終わったら、俺が馬車を預けて来るから、お前も屋敷に入って、ゆっくりしてくれ。」
「おーパトリック、お互いお姫さまたちのお守りで大変だったな。 悪いが頼めるか?」
「おう、任せろ。」
荷物を降ろし終えると、パトリックは御者席に座り、馬を預かってくれる業者の所に向かって馬車を走らせて行った。
残った私たちは、皆で荷物をお屋敷の中に運ぶ。
その後は、パトリックが戻るまでの間、クーと私で夕ご飯を作る。
クーは、この旅で大分料理の腕を上げ、手際も良くなっていたので、私はクーの指示で野菜を洗ったり、お皿の用意をしたりしただけだったけど・・・
パトリックが戻ってくると、久しぶりに『深紅』メンバー全員が揃った夕食を囲んだ。
「よーし、まずは『深紅』のメンバー全員が、無事に揃ったことに感謝の乾杯と行こうぜ!」
「「「「「乾杯~!!」」」」」
私も含めて、大人4人はエール(私の魔法で冷え冷えだ。)を飲む。
未成年のクーはまだお酒を飲めないので、果実水だ。
普段はあまりお酒を嗜まない私だが、久しぶりにパーティメンバーが揃ったことが思ったよりも嬉しかったのか、お酒をいただいている。
「それで、どうだったのよエルザ、ホーリーオーダーの方は。」
「あ~? 今日くらいは楽しく飲まないか? その話は明日にしようぜ。 お前らが色々な国で買ってきてくれた酒もあるしな。」
「そうね。 とりあえず、今日くらいは楽しくやりましょうか。」
「そうだぞ。 お前らの旅の話を聞かせてくれよ。」
「そうねぇ・・・」
「あ、私から良いですか?」
「クー。 聞かせてくれよ。」
「エルザさん、パトリックさんと別れた後の最初の目的地は、ルーナさまの神殿にしたんです。」
クーは、ルーナの神殿の件から、第8国(クーが魔法に目覚めたことも)と第12国での出来事、第7国に戻りクーの両親のお墓参り、王都サジタリアでの冒険者生活までを順番に話した。
エルザとパトリックは、楽し気に話すクーを見ながら、感慨にふけっているようにも見えたが・・・
「思っていたよりも充実していたみたいで良かったな。 だが、ブルグマンシアに関しては収穫なしか。」
「そうだな。 第8国や12国では、盗賊ギルドでも問題になっていなかったぜ。」
「そうか。 とすると、やはり第10国と第7国が中心か。」
「アッパー・リブやサジタリアでも、最近は動きが無いみたいね。」
「第9国のブルグマンシアに対する警戒が効いてきている・・・って思いたいな。」
「今のところは・・・ってことかも知れんがな。」
「そう言えば気になっていたんだが、なんでクーはカメリアの事を『ツキ姉』って呼ぶようになってんだ?」
「あ、それは・・・」
「いいわよ、クー。 私が話すわ。 この際だから、エルザたちには話しておくわ。」
「なんだよ、カメリア。」
「私は『カメリア=ガルドヒル』って名乗っていた訳だけど、私の本当の名前は『ツバキ=カネオカ』って言うのよ。 カメリアって植物は、私の国ではツバキって名前で、カネオカをこの国の言葉にすると、ゴールドヒルになるの。 意味合い的には、ゴールドよりもアイアンの方が正しいのだけどね。 ともかく、それをちょっともじっていたのよ。」
「ほえぇ~。」
「で・・・ほら、クーが私の事を女神ルーナに似ているって言っていた事があったじゃない? 私の名前ツバキにも『ツ』と『キ』が入っていたから、それで・・・って感じよ。」
「へ、へぇ~。 それは、何というか・・・偶然にしちゃあ・・・って感じだな。 これからは、アタシらもツバキって呼んだ方がいいかい?」
「いいえ、本名ではなく、今後もカメリアでお願い。 それにあなた、そもそもママとか呼んでいたじゃないのよ。」
「あ、あー。 そうだったな。」
「私の魔法も、ツキ姉の国の言葉で、月に関係する名前だったって言うのもあるんですけど。」
「ほお~。 状態変化を治す魔法と幻影の魔法だっけか?」
「はい。 でも、サジタリアで戦った大ミミズみたいに、目に頼らない相手には『朧月』の効果はほとんど見込めないんですよね。」
「でも、視覚に頼っている相手には、絶大な効果があるじゃない? クーは、遠当てもかなり上達したから、王都では『伸腕』なんて呼ばれていたのよね。」
「せっかく2つ名が付くのなら、もうちょっとカッコイイのが良かったんですけど。」
「いいじゃないか。 クーの若さで2つ名が付くなんて、凄いことだぜ。」
「そうかもですが・・・ツキ姉なんて『白銀姫』ですよ?」
「白銀姫ねぇ~。 それで調子に乗って、髪の色を白に戻したってのかい?」
「逆よ逆。 髪の色を偽装する魔法が、私には効かなくなったのよ。 だから白髪から付いたんじゃないの? 白銀なんてのは。 もしかしたら、抵抗力が付いちゃったのか(本当は、ルーナさま(仮)の所為だけど)・・・今の所、クーには効果が出ているからいいんけどね。」
「そうか。 クーにも抵抗力が付いちまったら困るな。」
「そうね。」
エルザは、またクーを撫でている。
なんだかんだ言っても、エルザもクーの事が可愛くって仕方がないようだ。
「ゲオルグはどうだったんだ? 白銀姫さまと伸腕ちゃんの3人でしばらく旅をしてみて。」
「ああ、俺か? そうだなぁ・・・おじちゃんの身としては、クーの成長を近くで見れたのは良かったぜ。 クーは、めちゃくちゃ強くなったんだぜ。 真正面からの立ち合いなら、ひょっとするともう俺では敵わないかもな。 それに戦闘だけでなく、馬車の扱いも完璧になったし、料理の腕も手際も凄く良くなったしな。 問題があるとすれば・・・」
「なんだよ。」
「他の冒険者が、クーに言い寄って来るもんでな、気が気じゃなかったってのはあったけどな。」
「ああー、そうか。 クーはかなり美人になったしな。 アタシは、クーはカワイイ系だと思っていたんだがな。」
「そんなことは無いですよ。 ツキ姉やエルザさんの前で、私が美人とか・・・おこがましいです。」
「いやいや、クーは今でも十分美人だし、今後はもっとキレイになるぜ。」
「私の母や姉は、キレイって言うよりはカワイイ感じだったんですよね。 背も低かったですし・・・私は、早く大きくなりたいって思っていましたけど・・・なんか、思っていたよりも背が伸びてしまって・・・私は父の方に似るんでしょうか? ちょっと不安です。」
「クーの父ちゃんは、結構イイ男だったって聞いたぜ?」
「娘の私から見ても、父はカッコよかったと思いますけど・・・」
「カメリアはどうだった? ワガママ放題で呆れたとは思うが、こうして揃って戻ってきた所を見ると、うまくやれたようだな。」
「あ、ああ・・・カメリアはなあ・・・」
「何よ? 文句あるっての?」
「いや、文句はねぇよ・・・改めてカメリアの魔法には驚かされたよ。 カメリアがいなかったら、俺はここにはいなかっただろうしな。 命の恩人だって感謝しているよ。」
「そうなのか?」
「私を庇ってくださったせいで・・・ゲオルグさん、本当にごめんなさい。 そして、助けていただいてありがとうございました。」
「クー、それは何度も聞いたって・・・もう気にするな。」
「クー、お前また他人のために無茶したんだろう? お前の優しさは美徳だが・・・」
「エルザ、その話はもう十分に話し合ったわ。」
「そうなのか? カメリアやゲオルグが諭してくれたんなら・・・もう無茶はしないんだな?」
「いいえ、クーは自分の心に従って動くわ。 無茶もするかもね。」
「はぁ!?」
エルザは唖然とした顔をしていたが、すぐにムっとした顔になり、私に向けて口を開く。
「おい、カメリア・・・」
「クーには、普通の冒険者の価値観の中に納まってほしくはないわ。 クーの優しさが無くなったら・・・それは、私のクーじゃないもの。」
「・・・・・」
「クーは、これからもっと強くなる。 今はまだそこまでの力は無いけど・・・それでも、クーは可能な限り人を救うわ。 私は、クーがやりたい事が出来るように手を貸すだけよ。」
私の話を聞いたエルザは、またしても唖然としていたが、やがて、ヤレヤレといった感じのポーズをとった。
「まあ、アタシが好きなクーもそうなんだけどな・・・クー?」
「はい。」
「お前の考え方は・・・きっとお前自身を苦しめることになるぜ?」
「はい。 私もすべてを救えるなんて思っていません。」
「分かったよ。 アタシもクーが1人で何とかできる位に強くなるまでは手を貸すよ。 ただし、アタシはカメリアとは違うからな、自分の命を捨ててまでは助けない。 ゲオルグ、パトリック、お前らもだ。」
「「分かった。」」
「ありがとうございます、エルザさん。 ゲオルグさん、パトリックさんもご迷惑をおかけします。」
クーは、エルザたちに向けて深々と頭を下げた。
お辞儀をするクーを見つめるエルザたちの顔は、なんとなく微笑んでいるようなやわらかい表情に見えた。
「よし。 じゃあ、結構遅い時間になったし、今日の所はお開きにしようぜ?」
「そうね、今日はもう休みましょう。 それじゃあクー、部屋に行こうか。」
「あのー、エルザさん?」
クーの少し困ったような声が聞こえたので、クーの方に目をやると、クーはエルザにガッチリと掴まれていた。
「ダメだぞクー。 今日くらいは、エルザお姉ちゃんと一緒に寝よう。」
「な!! 何を言っているのよエルザ!! 大体あんたは・・・」
「カメリア~、今日だけだ。 クーをアタシに貸してくれよ。 なあクー、良いだろ?」
「ツキ姉~。」
「ほら、クーも困っているじゃないの。 離しなさいエルザ。」
「頼むよ~。 今日だけ。 な? クー、カメリア~。」
「分かりました。 ツキ姉、今日はエルザさんと一緒にいても良いでしょう?」
「・・・分かったわよ。 今日だけだからね。」
「サンキュー、カメリア。 じゃあクー、エルザお姉ちゃんと一緒に寝ようぜ。」
「はい。 それじゃあ、皆さんおやすみなさい。」
エルザはクーを抱きかかえたまま、一足先に部屋に行ってしまった。
「何よ、結局エルザもクーのこと大好き過ぎない?」
「悪いなカメリア。 エルザは兄姉に恵まれなくてな。 クーとしばらく離れて、寂しかったんだろう、許してやってくれ。」
「パトリック・・・あんた、今日の夕食の最中も結局一言も話していなかったんじゃない?」
「そ、そうだったか?」
「まあいいわ。 じゃあ、私も部屋に戻るわね。」
「おう、ゆっくり休んでくれ。」
「あんたらもね。」
私は、部屋に戻り1人でベッドに横になる。
旅やクエストの最中に、見張りの関係などで、クーと一緒に寝られなかったことはあるにはあるけど・・・ベッドがある場所で、一緒に寝なかったことはあったかな?
今は、夏真っ盛りの時期だけど・・・クーの温もりが感じられないのでは、眠れないなぁ・・・なんて考えて、しばらくは寝付けずにいたけれど、いつの間にか眠ってしまっていた。




