第6話
夕食を済ませて、私は1人野営の見張りをしていた。
眠る3人の方から、視線を感じていたが、しばらくは気付かない振りをしていたんだけど・・・
「クー、何か言いたい事でもあるの?」
あまりの熱視線に耐え兼ねて、つい声を掛けてしまった。
クーが暗がりの中、のそりと上半身を起こすのが見えた。
「話があるならコッチに来て話しなさい。」
「・・・はい。」
大分怯えた様子のクーは、寝床から静かに立ち上がると、私の隣に座る。
どうやら、ゲオルグも起きたようだが、寝たふりを決め込んでいるので放っておく。
「ごめんなさい・・・」
「どうして謝るの?」
「リア姉やゲオルグさんのいう事を聞かなかったばかりに、最悪の状況を引き起こしてしまいました。」
「それは、その通りだね。」
「はい。」
「・・・・・」
「リア姉も怒っていますよね? もう私に愛想を尽かしちゃったんだって思います。」
「頭にきた・・・ってのはホントだけどね。」
「フィロミィナさんに聞きました。 リア姉がいなかったら、ゲオルグさんは助からなかったかも知れないって・・・」
「そう。 それで、これからクーはどうするの? 私たちが、見捨てろって指示したら大人しく従うことにするの?」
「それは・・・従います。」
「ウソね。」
「・・・・・」
「今はそういう風に思っているのかもしれないけれど、きっとあなたは助けようとしてしまう・・・目に入る範囲だけでも見捨てることは出来ない、救いたいってね。」
「・・・そうかも知れません。」
「それは我儘・・・いえ、傲慢よ。」
「・・・・・」
「でも、それが私の愛する『クリスターニャ=ティグリス』なのよね。」
「リア姉・・・」
「私は、あなたに私たちの・・・冒険者の道理ってヤツを理解させようと思っていたけど、気が変わったわ。」
「リア姉?」
「クリスターニャ、あなたはもっと・・・もっともっともっと強くなりなさい。 私やゲオルグの助けが必要も無いくらいにね。 1人でもその傲慢を貫き通せるほどの強さを身に付けなさい。」
「分かりました、リア・・・いいえ、ツキ姉。 今はまだ弱い私だけど、もっともっと強くなります。 ゲオルグさんやエルザさん、パトリックさん、そしてツキ姉も守れるくらいに強くなります!!」
「私にとって、本当に大切なのはあなただけ。 そのあなたが、傲慢に生きたいと望むのなら・・・私は、それが叶うように手を貸すだけだわ。 好きなようにしなさい。」
「はいっ!!」
クーは、いつにも増した真剣な表情で答えた。
「ゲオルグ、聞いていたんでしょう? そう言う訳だから・・・今しばらくは、あなたにも迷惑をかけるわね。」
「全く・・・そう言う結論になるのか? 俺の予想を遥かに超えちまっているぜ・・・流石は女神さまだよ。」
「不満なの?」
「いいや。 凡人の俺には理解が及ばないが・・・らしいっちゃ、らしいよ。」
「ゲオルグさんには、迷惑かけたばかりなのに・・・ごめんなさい。」
「いや、その方がクーらしいって、俺も思うぜ。 ところで『ツキ姉』って呼び方・・・とうとうルーナ似を前面に押し出していくことにしたのか?」
「いいえ、そうではないんですけど・・・ごめんなさい。 ナイショです。」
「そうかい。」
美人妖魔族治癒士フィロミィナは、私たち3人が結構な音量で話をしている中でも、とても良く眠っていた。
2日後、無事王都に到着する。
ギルドでクエスト完了報告の後、現パーティを離れると言うフィロミィナを、ゲオルグとクーがこのまま私たちと組まないかと誘っていたが、フィロミィナは自分よりも遥かにハイレベルな治癒魔法を使える魔法士(私のことだ)がいる所では、自分は無価値だと言ってパーティ加入のお誘いは断られた。
クーとゲオルグは、とても残念そうにしていた。 確かにフィロミィナは、ハデな外見からは想像も出来ないほどに控えめで良い人そうだったけど。
1日の休息を挟んで、私たちはエルザとの約束を果たすためにアローヘッド市に向かう。
アローヘッド市までの道中、クーは自分が御者を務める時以外は、馬車には乗らずにずっと走っていた。
ただ走るだけではなく、気の力を遠当て以外にも使おうと色々試しているようだった。
私の言ったことが原因で・・・なんだけど、クーとゆっくりお話しできないのは、スゴくさびしい。
旅の何日目だっただろうか?
クーが見張り番をしている野営中、私は眠っているゲオルグが起きないように、こっそりと睡眠の魔法をかけて、クーの元に行く。
「どうしたんですか? ツキ姉・・・」
「クー、最近あなたとお話ができていなくって、お姉ちゃん寂しいわ。」
「私もだけど・・・でも、私は強くならなくっちゃいけないから。 少しでも体を鍛えないといけないんです。」
「それは分かるけど・・・今お話ししてもいいでしょ?」
「うん。」
「クーさん?」
「え? 何ですか急に『さん』付けなんて・・・」
「クーさんは、この前のクエストでも男に声を掛けられていっらしゃいましたよね?」
「ああー・・・うん。」
「クーさんが、男にモテる秘訣は何なのでしょうか? よろしければ、ワタクシめに御指南いただけないでしょうか?」
「ツキ姉・・・その変な呼び方、口調・・・止めてもらえないですか?」
「いえ、私のごとき非モテ女が、クーさんにタメ口なんて・・・」
「ツキ姉・・・ツキ姉は、ゲオルグさんが言っていたみたいに、人間を超えた美人だからじゃないのかな? 美人過ぎて男の人も恐縮しちゃう。 あと、前のクエストの時に言われていたけど・・・」
「『陰気な女』でしょうか?」
「そうソレ。 ツキ姉は、他人に興味が無いっていうより、他人を近づけないようにしていると思ったんです。 ツキ姉にニラまれたら、普通の人間は恐ろしいと感じると思いますよ。」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。 でも、ツキ姉が男の人にニコニコしていたら・・・スグに男の人にモテモテになっちゃいそう・・・そうしたら、私がツキ姉と一緒にいられなくなっちゃうかも。」
「クーさんと居られなくなるんじゃ、私は、やっぱりモテなくてもいいわね。」
「ツキ姉・・・」
「もうすぐアローヘッド市だね。」
「はい。 エルザさんたち・・・もう随分会っていないですね。」
「まあ・・・そうだね。 7か月か・・・お酒で失敗していないと良いんだけどね。」
「うふふ・・・そうですね。」
「そう言えば、クーは走っている間に『気』を使って何かしようとしていたでしょう?」
「さすがですね。 ツキ姉はなんでもお見通しなんですね。」
「何をしようと思ったの?」
「えーっと・・・手のひらとか、足の裏から気を出せないかなって・・・」
「へぇ~。」
「剣に気を集めるのは、なんとか出来るようになったけど・・・そう言う、目標物? みたいなのが無いと、思ったように上手く行かないんです。」
「手足から気を出してどうするの?」
「足から気を放出できれば、走る時に加速できるかもしれないでしょ? それに・・・」
「それに?」
「手や足から気を上手に放出できれば・・・もしかしたら、空中とかでも動くことが出来たりしてって・・・」
「それを自分で思いついて、試そうと思ったの?」
「はい。 ちょっと無謀でしょうか?」
「いいえ・・・気の扱いが凄く上手な人の中には、そう言う事が出来た人もいたみたいよ? 空中を自在に動けたってほどでは無かったようだけど、空中でこう・・・落下の軌道を変えるとか・・・そんな事ができる人もいるみたいよ?」
「そっか・・・やっぱり、同じことを考えた人はいたんだね。」
「そうだね。」
「ツキ姉は出来るの?」
「いえ、私は出来ないわ・・・って言うか、私の体では無理すぎるわね。 一発で骨折確定だわ。 それも複雑骨折よ。」
「あぁー、そうかもですねぇ。」
「クー、体も鍛えながらで大変だと思うけど、気を鍛えるのには瞑想も良いって聞くわ。」
「メイソウ? どんなの?」
「聞きかじりだけど、瞑想はねぇ・・・」
私は、クーに瞑想の方法を教えた。
中央大陸では馴染みのない座禅の組み方から、体内を巡る気の流れを意識することなんかだ。 私自身がやったことある訳ではないから、なんとなくの雰囲気しか説明できないけど。 気を使うに当たっては、気の流れを感じるってことが重要らしいってのは聞いた事がある。
それからのクーは、走る以外に揺れる馬車の中で瞑想を試してみたりしていた。
あれ? 結局私とのいちゃいちゃ時間が無いじゃない?
よって、瞑想中のクーに纏わりついたりはしてみる。
クーが周囲の邪魔によって集中力を切らさないようにするためだ・・・とかなんとか言って納得させた。
そんなこんなで、7月後半には無事にアローヘッド市の城門をくぐる。
ゲオルグの操る幌馬車は、前回も滞在したお屋敷前に到着した。
クーが勢いよく馬車から飛び降りると、門を開けて玄関に向かっていく。
「ツキ姉、早く早く~。」
振り向いたクーが、私に向かって手を振っている。
「うん、今行くわ。」
クーの呼びかけに答えると、少し足早にクーの後に続く。
このお屋敷も7か月ぶりだけど、なんだか少し懐かしく感じた。




