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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第10章 カメリアとクー5

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第4話

 私たちが、臨時の冒険者パーティ『月光』として、王都での最後のクエストとして選んだ魔物討伐クエスト。

 そのクエストには、私たち以外に、2つのパーティが同行していた。


 目的地を前にした休息中に、1つのパーティは戦果を独占しようと先行して行き、もう1つのパーティは、パーティ内でなにやら揉めていた。


「どうしよう、リア姉。」

「経緯を知らない私たちがどうこう言っても聞く耳持たないんじゃない? それに、こう言うのは私向きじゃないわ。 ねえ、ゲオルグ?」

「ま、カメリア向きじゃないってのは本当だろうけどな・・・だからと言って、俺にもどうこう出来ねぇよ。 フィロミィナさんは心配だけどな。」

「あんた、エラくあの妖魔族治癒士を気に入っているわね。」

「あんな別嬪さんはそういないからな。 ま、別にどうこうなりたいって話じゃないけどな。」

「あーもー。 2人ともぉー。」

「クー、あなたが気に掛けるのはわかるけど、部外者は余計な事はしないほうが良いこともあるのよ。」

「うーん・・・」


 どうにも納得できない様子で歩いていたクーだったが、何かの音を捕らえたのか森の方角に耳が向いた。


「・・・あれ?」

「どうかしたの?」

「・・・なんか森の方から音が聞こえる!!」

「あいつらか!? 魔物にやられてんのか?」

「行きましょう!!」

「ま、こっちの相手よりかはマシね。」

「しゃーねぇな。 クー、先走るんじゃねぇぞ!」

「は、はいっ!」


 私たちは、揉めているフィロミィナたちのパーティを置いて、森に急行する。



 前方に見える大きな岩の陰から、長いひも状のものが暴れる様子が見える。

 そして、何かが吹っ飛ばされている。


「おい、やべぇぞ・・・」

「あれ、人じゃないですか? 急がなきゃ!!」

「待ちなさいクー。 1人で突っ込まないで。」

「・・・はいっ。 でも急いで!!」

「おい、カメリア。 俺とクーで先行するぜ。 お前もなるべく早く来てくれよな。」

「分かったわ。 ゲオルグ、クーにケガさせないようにね。」

「善処するよ。 行くぞ、クー!!」

「はいっ!!」

 ゲオルグとクーが駆けて行く。

 私は、体力低下のため走るのを止めて、杖を突きつつヨタヨタと歩く。


「はあっ! はあっ! クー・・・もうっ! 最近は以前よりも体力が少しついたような気がしていたけど・・・はあっ・・・全然だわ。 はあっ・・・」




「クー!! 突っ込むんじゃねぇぞ!! お前は距離を取って、遠当てで牽制だけだ!」

「・・・はいっ!!」

「頼んだからな!! お前になにかあったら、俺がカメリアに殺されちまう!!」

「はいっ!!」


「助けてくれぇ~!!」

 ゲオルグとクーが、大岩の後ろに回り込もうとしている時に、先行していたパーティの1人が、叫びながら入違うように飛び出して、そのまま走り去る。


 岩の後ろに回り込んだゲオルグとクーは、魔物の姿をその目に捉える。


「おわっ!! なんだありゃ!?」

「ヘビ・・・ですか!?」


 新たな獲物を認めた魔物は、ゲオルグに向かって突っ込んで来る。

 ゲオルグは、その突進を大きく躱した。

 魔物は、地面に激突するが、そのまま地面に潜っていく。


「ゲオルグさん!!」

「大丈夫、心配無用だ!!」

「ヘビって言うより、大きい・・・ミミズみたいな・・・」

「ああ、サンドワームに似ているが・・・かなりデカいな。」

「10メートルはありましたよね?」

「だな。 それに、あの体色・・・サンドワームとは明らかに違うぜ。 亜種かなんかか? 毒持ちっぽくないか?」

「紫でしたね。」

「クー、足元に気を付けろよ、どこから出て来るかわからねぇ・・・」

「はい・・・」


 クーとゲオルグは、地表のわずかな変化をも見逃さないように、意識を集中する。


「う・・・うう・・・」

 静まり返った空間に、かすかな男のうめき声が聞こえた。


 声のした方向に目を向けると、先行したパーティの1人が倒れているのを発見した。

 その男は、毒に侵されているのか苦しんでいる様だった。

 慌ててクーは、その男に近づこうとする。


「止めろクー!! 今はそれどころじゃねえぞっ!!」

「でも・・・ゲオルグさん、ごめんなさいっ!」

 クーは、ゲオルグの指示を聞かずに倒れている男に向かって駆け寄ろうとする。


「クー!! 魔物に集中しろっ!!」

 駆け出すクーを見たゲオルグは、再度クーに向かって叫んだ。 

 ゲオルグが叫び声を上げるとほぼ同時にゲオルグの足元の地面が盛り上がり、魔物が飛び出して来る。


「うおっ! あぶねぇ!! クソっ・・・音に反応してやがるのか? クー! 止まれよっ!!」

 間一髪、魔物の突進を躱したゲオルグは、再度クーを制止しようと叫んだ。




「はぁっ、はあっ・・・ダメだわ。 私の足じゃ・・・まだ何回か休息を挟まないとっ・・・たどり着けない・・・」

 私がゼェゼェ息をしながら歩いていると、後ろから近づいてくる者の気配を感じた。


「魔法士さん!!」

 例の妖魔族治癒士だ。 彼女は私に追いつくと、私の腰に手を回し支えるように並走する。

 走って追いついて来た彼女からは、なにか魅惑的な香りがしたような気がした。


「悪いわね・・・私、体力が無くって・・・」

「いえ、大丈夫です。」


 私と、妖魔族治癒士が並んで歩いていると、前方から必死の形相をした男が走って来た。


「バケモんだ!! みんなやられちまった!!」

 男は、私たちとすれ違いざまに、それだけ言うとそのまま走り去ってしまう。


「くっ・・・急がないと・・・クーが心配だわ。」

「でも、あなたじゃ・・・」

「うるさいっ! 私はクーを守るのよ!!」

「分かりました。 それでは、私があなたを背負っていきます。」

「ええ? それは無理じゃない!?」

「いえ、私、結構力持ちなんですよ?」

 妖魔族治癒士は、私から手を離して、私の少し先でしゃがみこんだ。


「さあ、早く! 急ぐのでしょう?」

「ええっ・・・お願いするわね。」

 私は半信半疑であったが、言われるままに妖魔族治癒士の背におぶさる。


「じゃあ、行きますよ? しっかり摑まっていて下さいね。」

 私をおんぶしたまま、妖魔族治癒士は駆け出した。

 なるほど。 本人の言うとおり、彼女は見た目よりも遥かにパワフルだった。




(やっぱり毒だ・・・)


 呻いている男のところに到着したクーは、男の変色した肌を見るなりそう思った。


「十六夜月・・・」

 男に手をかざすと、クーは迷うことなく魔法を唱える。


 初めて使用した時とは違い、第9国に戻って来るまでの間に、何度も練習をして効果範囲を絞れる(効果を毒のみに絞るといったことは出来なかった。)ようになったクーは、呻く男1人だけを対象に、健全な状態にする効果の「十六夜月」を使用した。

 この使用法であれば、クーのそう多くない魔力量でも、問題なく数回は十六夜月の使用が可能である。


 呻く男の変色した肌は、何事もなかったかのように健康そうな色艶に戻っていく。

 しかし、クーの十六夜月では、体に負った傷を癒すことはできない。


「早く、ポーションを飲ませないと!!」

 クーが、ヒーリングポーションを取り出そうと右腰のポーチに手を掛けた時だった。

 自分の立つ地面にわずかな振動を感じた。


(あっ・・・!?)


 クーと男がいた場所の地面が盛り上がり、魔物が勢いよく飛び出して来る。


 辺りに真っ赤な血が飛び散った。


 魔物は、血煙を巻き上げながら、飛び出した勢いそのままに、7~8メートルの高さまで飛び上がった後、再び地面に潜って行った。


(やられた!?)


 クーは吹っ飛ばされながらも、血を撒き散らし回転しながら落ちて行く、人の半身のようなものを目で追っていた。


(あの人も助けられなかった・・・ゲオルグさんの言う事を聞かなかったから・・・リア姉・・・ごめんなさい・・・)


 ドスンっ!!


「痛っ!! ・・・くは無い!?」

 地面に落下したクーは、想定したより衝撃も痛みも少なかったことに驚く。

 そして、自分の腰の辺りを掴んでいる腕に気付いた。


「おい、クー・・・大丈夫か?」

「ゲオルグさん!?」

「おう、ゲオルグおじちゃんだぜ・・・ケガはないか?」

「ケガは・・・良く分かりませんが、大丈夫みたいです。 手も足も動きます。」

「そうか、そりゃあ良かったぜ。」

「ゲオルグさん、ごめんなさい。 私がゲオルグさんの言う事を・・・!!」

 クーは振り返り、手を離したゲオルグの姿を見て言葉に詰まる。

 ゲオルグの両足は、曲がるはずではない方向に折れ曲がっていた。 しかも、右足の膝から下は、辛うじて皮一枚で繋がっているに過ぎない。

 血を流し過ぎたゲオルグの顔は、血の気が失せて真っ白になっていた。


 クーの両目から涙が溢れだす。


「どうした?」

「あぁ・・・ゲオルグさん・・・」

「クー、音を・・・立てないようにしろ。 アイツは、多分音に反応しているんだ。」

「はい。 毒は・・・大丈夫そうです。 ポーションを置いて行きます。 私がアイツを引き付けるので、ゲオルグさんは、ここで・・・音を立てないようにしていて下さい。」

 クーは、腰からポーションの入ったポーチを外して、ゲオルグに渡した。


「ああ・・・悪いな。 俺は・・・ちょっと動けそうもないからよ。」

「行きます。」

「気を付けてな・・・カメリアが来るまで、何とか逃げてくれ・・・」

 クーは一度頷いてから、ゲオルグと距離を取るため走り出した。


「こっちだっ!! バケモノっ!!」

 涙を振り払ったクーは、大声を上げながら、思い切り地面を蹴りつつ走って行く。




 私を背負った妖魔族治癒士は、大岩の近くまで来ていた。


「ミロフィナさん・・・でしたっけ?」

「フィロミィナですっ!」

「フィロミィナさん、ここで降ろしてもらえるかしら?」

「分かりましたっ!」

 フィロミィナは、足を止めて背から私を降ろした。


「ありがとう、今は急ぐから失礼するわ。」

「あ、はい。」

「疾風の加護っ!!」

 私は、脚力強化の魔法を唱えて、激しい音が断続的に聞こえる大岩に向かって走り出した。



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