第2話
「はっ!?」
「リア姉だいじょぶ?」
「え? ああ、クー?」
私が目を覚ますと、心配そうに私を見つめるクーがいた。
私の額には、汗が滲んでいる。 私が、急いで汗を拭きふきしていると・・・
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ・・・ところで、今日は6月4日よね?」
「うん、そうだけど。」
「良かった・・・ありがとね、クー。 しかし、(仮)め・・・今回もダベるだけダベって行きやがって・・・」
「何ですか?」
「いいえ、なんでもないわ。」
「そう言えば、リア姉って今年になってから、月イチくらいのペースでうなされてない?」
「そ、そうかな? まあ、月に1回くらいは夢見が悪い日もあるんじゃないかしら?」
「うーん。 まあそうかもしれないけどね。 結構凄いうなされ方だったから・・・」
「そうなの? 夢の内容は思い出せないんだけどね、とにかくウンザリだとしか・・・」
「悪夢って、意外と思い出せなかったりするものね。」
クーには悪いけど、ルーナさま(仮)のことをクーに教える訳には行かない。
ルーナ推しであるクーにそんなことを知られたら、またクーが狂気に走ってルーナグッズを私に付けようとして来るかもしれない・・・それだけは勘弁願いたい。
そう言えば、ルーナさま(仮)が現れるようになってから、私にも変化があった。
1つ目は、髪の色を偽装する魔法の効きが悪くなり続けていること。
王都に着くころには、私の髪には偽装魔法の効果がほぼ現れなくなっている。
2つ目は、魔力感知のスキルを入手したらしいこと。
とはいっても、これは「感知しよう」として意識を向けない限りは、大した影響はないし、エルフ種などの魔法が得意な種族の中には、ちょくちょく保有している者がいるので、そこまで珍しいと言う程のものでもない。
3つ目は、新しい魔法が発現したことだ。 それも2つも。
発現した魔法は、クーと同じく2つとも「月」に纏わる名前だった。
慈愛の女神を象徴する力であろう「天満月」と、月神の持つ冷酷な一面を象徴するかのような「月夜見」の2つだ。
天満月は、回復の魔法だ。
回復魔法としては最上位と言っていい程の凄い効果がある。 効果をざっくり言うと、死んでさえいなければ、ほぼ全快状態まで回復できる。 千切れた手足などを再接続するどころか、欠損部分を再生することも可能なようだ。
クーの魔法「十六夜月」があることを考えれば、回復・治癒においては隙が無いと言えるのではないだろうか?
月夜見は・・・私の母国での月の神さま(ちなみに男神とされている)の名前でもあるのだが、かなり恐ろしい魔法だ。
ざっくり言うと、効果範囲内の熱を奪い去る魔法で、魔法の効果範囲にあるもの全ての動きを止めて死に至らしめる。 しかも、範囲内の効果対象を選択可能なようだ。 字面では伝わりにくいかもしれないが、相当にヤバい魔法だ。
しかし、これらの魔法の使用は、可能な限り控えようと思う。 特に月夜見は、使用禁止レベルの魔法だと感じる。
使用すると、私が人ではないものに変わってしまうような気がする・・・
「おーい、カメリア、クー。」
私とクーの部屋の外からゲオルグの声がする。
「はぁい。」
ゲオルグの声に答えて、クーが部屋の扉を開けた。
「よお、これからどうする? 早速ギルド行くか?」
「あ、はい・・・でも・・・」
「なんだ? カメリアまだ寝てんのか?」
「はい。 ちょっと昨晩眠れていなかったみたいで・・・」
「そうか。 じゃあカメリアは寝ていろよ。」
「悪いわね、ゲオルグ・・・お言葉に甘えて、今日は休ませてもらうわ。」
「おう、そうしろよ。 んじゃクー、たまには俺と2人で簡単なクエストでもやるか?」
「本当ですか!? ゲオルグさん!!」
「おう。 いいだろカメリア?」
「え~・・・クーがいないと寂しいわ。」
「リア姉~? いいでしょ?」
「え・・・ええ。 クーがそこまで言うのなら・・・」
「ありがとう、リア姉!!」
「ゲオルグ? クーに何かあったら、あんたの命はないからね。」
「おお・・・怖い・・・じゃ、止めようかな?」
「ダメです、ゲオルグさん!! さ、ギルド行きましょう!!」
「お、おう。 カメリア、行って来るぞ。」
「リア姉、行ってきま~す!!」
クーとゲオルグは、2人してギルドに行ってしまった。
「あー、寂しいなぁ・・・後3か月もすれば、クーと出会ってから2年になるけど・・・半日も一緒にいないことなんて初めてじゃない? クーも、もう13才だし・・・段々お姉ちゃんから離れて行っちゃうのかな? あれ? そう言えば今6月だよね? 私の誕生日が近いじゃない?」
そう、もうすぐ私の18才の誕生日がやってくる。
去年の誕生日は、ちょうどアッパー・リブ市でブルグマンシアを追っていた時期だったので忘れていた。 今年こそクーにお祝いしてもらおう。
「そうだな・・・せっかく王都にいるんだし、少しお高いお店で豪華なディナーを2人で食べちゃおう。 苦労して覚えたテーブルマナーも、たまには使わないと忘れちゃうしね。 よしよし・・・そうしよう。 万全を期すためにも、早く眠って魔力を回復させなくちゃ!!」
クーとの豪華ディナーを想像して、眠れないかと思ったけど意外なほど早く眠りに落ちてしまった。
どの位眠ったのだろう?
部屋の中で人の動く気配を感じた。
「クーなの?」
私は、ぼんやりしたまま上半身を起こす。
「あ、ごめんなさい。 起こしちゃいましたか?」
「え? あー、うん。 クーはギルドに行くんじゃなかったの?」
「え? リア姉、もう夜だよ?」
「あれ? そうなの? ・・・確かに、久しぶりによく寝たって感じするわね・・・」
「そう? リア姉って普段眠りが短いから・・・よっぽど疲れていたんだね。」
「あ、あー・・・うん、そうだね。」
やはり、ルーナさま(仮)が長居した所為で、結構な魔力を消費してしまったのだろう・・・(仮)め・・・
「クーこっち来て?」
「はい?」
私は、近寄って来たクーを抱き寄せると、思い切りクー吸いを行う。
ほのかに香る石鹸の匂い・・・
「クー・・・もしかしてお風呂入って来たの?」
「うん。 クエスト行ってきたし、汗かいちゃったから・・・」
「そうなの?」
「うん、そうなの。」
「え~、じゃあ私は1人でお風呂入らないといけないの?」
「え? そうだけど?」
「・・・・」
「リア姉?」
「クーと一緒じゃないとヤだ~。」
「と、とりあえず夕ご飯に行きませんか? ゲオルグさんをお待たせしてしまいますので。」
「あ、はい。 そうですね、すみません。」
「なに? どうしたの?」
「いえ、クーがなんか冷たくなったような気がして・・・もしかして、私のこと鬱陶しく思ってる?」
「そんなことないっ! そんなことある訳がない・・・」
「あ、ごめん・・・」
「いえ・・・私が世界一好きなのは、ツバキお姉ちゃんだよ。」
「うん、ありがとうクー。 私もクーが一番大好きだよ。」
その後、ゲオルグを含めて3人で食事を取った。
食事の間に、今日のクエストのことを聞いてみたところ、王都から伸びる街道沿いの野獣駆除に参加したそうだ。
「ブルグマンシア関連のクエストって出ているの?」
「いや、少し前なら行方不明事件はあったらしいけど、王都では最近はそういった案件は出ていないみたいだぜ?」
「そうなんだ。」
「王都に出入りする際のチェックも厳しくなっているみたいだからな。」
「そう言えば、王都に入る際にも結構調べられたしね。」
「そうだな。 今は第7国や第10国の方が活動しやすいんじゃないか?」
「・・・・」
「クー?」
「いえ、なんでもありません。」
クーは、故郷である第7国のことが気になるのであろうか?
夕食の後、私が1人で公衆浴場に向かおうとしていたところ、クーも一緒に行くと言ってくれたので、2人で公衆浴場へ行った。
私の故郷八州国では、お風呂にタオルを入れるのはマナー違反だとされていたのだが、この国では、タオルを巻いて入浴するのが普通なので、これまで、私の最大のヒミツを晒さなくて済んでいた。
もっとも、服と違ってパッドを入れる訳にはいかないのだが・・・
幸いにもあまり人がいなかった浴場で、クーと並んで入浴している時に、例の話を切り出してみる。
「クー?」
「はい?」
「6月12日は、私の誕生日なんだ。」
「えっ!? そうなの?」
「そんなに驚く? 去年は、ちょうどアッパー・リブにいた頃だから、私自身も忘れていたんだけど・・・どうかしら? 2人で豪華ディナーを食べに行かない?」
「・・・・」
「どうしたの? ダメ?」
「あ、いいえ・・・是非私に祝わせてください。」
「うん・・・でも、何か気になる事でもあるの?」
「いえ、ミオお姉ちゃ・・・私の姉の誕生日も6月12日だったんです。」
「そうなの? なんか、奇妙な縁を感じるわね。」
「そうですね。 ディナーですけど、2人だけじゃもったいないから、ゲオルグさんも誘いましょう。」
「えっ!?」
「え? ダメですか?」
「いや・・・ダメってことは無いんだけど(本当はダメだけどね。)・・・ゲオルグってテーブルマナー知らないんじゃ無かった?」
「いえ、ゲオルグさんはテーブルマナーも心得ていますよ?」
「え? だって、前にアローストリングのお屋敷で・・・」
「ああー。 あの時ゲオルグさんは、リア姉に気を遣ってくれたんですよ。」
「そうなの!?」
「はい。 実は、以前にこっそり聞いたんです。 ゲオルグさんは、役割上そういうことも必要な時もありますからね。」
「なるほど・・・確かに、そう言われるとそうだね。」
(そっか・・・私は、クー以外の人間に興味が無かったから考えもしなかったけど・・・クーは、ちゃんと色んなことを気にかけていて、私よりも沢山のことに気付いているんだ・・・クーの方が、私よりもよっぽど大人なのかもしれないな。)
宿に戻り、ゲオルグにディナーの件を話すと、ゲオルグは私を恐れてか、最初の内は断っていたけど、クーのお願いにより了承。
またしても、クーの恐ろしさを見せつけられたような気がした。
そして6月12日
私たち3人は、レンタル衣裳屋でちょっとしたイイ服を借りて着飾った上で、王都でも結構有名な、お高いお店にて豪華ディナーをいただいた。
味は・・・正直言って良く分からなかったけど、ドレス姿のクーを見られただけで十分プレゼントだと思った。
ゲオルグも、見事に紳士に化けており、見事なテーブルマナーを見せつけられた。
ちなみに、ディナー代と衣裳代は、ゲオルグが出してくれた。
そう言えば、私への借金返済は未だに滞っているのだけど・・・?
宿に戻ると、クーからもプレゼントをもらった。
包みを開く・・・白銀の三日月型チャームの付いたネックレスだった。
やはり、ルーナグッズだったけど・・・このネックレスは気に入ったので、肌身離さず身に付けることにした。




