第12話
翌朝、ミオのベッドで目覚めた私が部屋から出ると、ちょうどシンシアも部屋から出て来た所だった。
廊下でバッタリと出会った私たちは、お互いにぎこちない笑顔を浮かべ、挨拶を交わす。
「お、おはようシンシア。」
「ええ、おはようクローエ・・・ちゃんと眠れたかしら?」
「うん。 結構ガッツリ寝ちゃったみたいだよ。」
「そう・・・私も意外なほどに良く眠れたわ。」
「・・・・・・」
「そ、それじゃあ・・・居間に行ってみる?」
「・・・そうね。 ほぼ確実に大惨事になっていそうで、ちょっと怖いわ。」
「うん、そうだね・・・でも行かないと。」
「そうね、行きましょう。」
意を決して私とシンシアは1階の居間に向かう。
1階から漂う異様な臭気は・・・無かった。
居間に付くと、床に敷き詰めていた布や紙は跡形もなく、昨晩端に寄せたテーブルは元の状態に戻されていた。
テーブルには、頭を抱えて突っ伏したまま、何かブツブツ呟いているエイミー。 その向かいには猫田さんが座っており、猫田さんの膝の上には、猫田さんに抱き付いたまま眠っているミオがいた。
「・・・お、おはようございます猫田さん・・・」
「・・・やあ、クロエ、シンシアもおはよう・・・」
「おはよう猫田・・・大丈夫?」
「ああ、少し眠たいけれど・・・問題ない、大丈夫だよ。」
「そう・・・それはなによりだったわ。」
「ああ、心配かけたね。」
「猫田・・・何があったのか聞いてもいいかしら?」
「グスタフが揃った後でも構わないかな?」
「ええ、そうね・・・2度手間になるしね。 それじゃあ、私グスタフを起こしてくるわ。 ちょっと待っていてね。」
「ああ、すまないね。 ありがとう、シンシア・・・」
「エイミーさん? どうしたんですか?」
「これは夢だ・・・夢だ・・・夢なんだよ・・・私があんなことを・・・夢だ、夢、夢、夢・・・」
エイミーは、殆ど聞き取れないほどの小声でありながら、高速で何かを繰り返し呟いている。
「エイミーさん? ひいっ!?」
エイミーは、私の呼びかけに答えて一度は顔を上げたが、すぐにまた頭を抱えて俯いてしまった。
一瞬だけ目に入ったエイミーの顔は真っ青で、その瞳には全く光が無かった。
私は、エイミーの瞳の中に『深淵』と呼ばれるものを見てしまったように感じた・・・
(あの明るいエイミーさんに一体何があったの!? 猫田さんは!? ミオさんは!? ああっ!! グスタフ早く来てぇ~~!!)
少し経つと、シンシアがグスタフを連れて居間に戻って来た。
皆がテーブルに着く・・・グスタフと私は自分の定位置に、シンシアは自分の場所にエイミーが突っ伏しているため、グスタフの向かい・・・猫田さんの席に座る。
猫田さんは、朝のままミオの席で眠っているミオを抱いたまま座っている。
「ミオは・・・起きないのか?」
「ああ、まだ大分寝足りないようだ。 寝かせておいて構わないだろう?」
「おう・・・まあ良いけどな。 猫田は大丈夫か? ずっとそのままだと重くないか?」
「問題ないよ、ミオは軽いからね。」
「そ、そうか・・・」
「じゃあ、早速だけど・・・猫田、昨日私たちが2階に上がってから一体何があったのか話してもらえるかしら?」
「ああ、昨日皆がいなくなった後・・・深夜2時くらいだったかな? ミオが目を覚ましたので、少し2人で話をして・・・自分がミオに交際を申し込んだのさ。」
「本当ですかっ!?」
「あ、ああ・・・本当だ。」
「で・・・ミオさんは承諾したんですか?」
「ああ、有難いことにね。 先日は、クロエにも迷惑をかけてしまって・・・申し訳なかった。」
「そうですかぁ~・・・それなら良かったです。 猫田さん、おめでとうございます。」
「ありがとう、クロエ。」
「そうなのね。 おめでとう猫田。」
「猫田よ・・・ちゃんと責任取るんだぞ。」
「シンシアもありがとう。 ミオのことは自分に任せてくれグスタフ。」
「そうだゾ、グスタフ。 ミオはネコタに責任取ってもらうからナ。」
いつから起きていたのか、突如ミオも会話に加わる。
「そうか・・・おめでとうミオ。」
「おう、ありがとうナ。 グスタフもシンシアをしっかり守れよナ。」
「お、おう・・・」
「それだけなの?」
「ああ、そうだけど? まあ、ごく簡潔に話したからだけど・・・それが全てだよ?」
「いや・・・猫田? エイミーはどうなっているのかしら?」
「あ・・・ああ、エイミーさんか・・・それは、ミオと話した後に・・・」
「ネコタ氏!?」
今度は、エイミーが起き上がり猫田さんの話を遮った。
エイミーの顔には、焦りと悲壮感のようなものが感じられる。
「エイミーさん、もう大丈夫かい?」
「ネコタ氏!! 何を普通に皆に話そうとしているんですか!?」
「え!? だって、シンシアが聞いてくるから・・・」
「ネコタ氏~、誰かに話したら、私もネコタ氏に責任取ってもらいますからねっ!?」
「おい、エイミー!! 何を言っているんだナ!!」
「うるさいぞ、ミオ!!」
「なんだとお!?」
ミオとエイミーは同時に飛び上がり、テーブルの横で両手を組み合って力勝負を始めた。
「猫田・・・あなたエイミーに何をしたのよ?」
「いや、特に何をしたって訳では・・・」
「ネコタ氏ぃ~~!!」
「すまないシンシア・・・これ以上は話す訳には行かないようだ。」
「そ、そうみたいね。 じゃあ、聞かないことにしてあげるわ。 エイミーも朝食食べて行くでしょう?」
「は、はいぃ~! お願いします、シンシアさ~ん!!」
「エイミー!! いい加減手を離すんだナっ!!」
「お前が離せってんだよっ!!」
シンシアが、朝食の準備を終えて食卓に戻ってくる頃には、ミオとエイミーは疲れ切ってソファーに並んで座っていた。
「ミオ、エイミー、準備できたからテーブルにいらっしゃい。」
「お、おう。」
「シンシアさん、ありがとうございます。」
「お前ら、ケンカしないで食えよ。」
「おう、エイミーが大人しくしていればいいんだナ。」
「なんだとぉっ!?」
再び、2人は同時に立ち上がる。
「ミオ、食事は楽しく食べないとな。」
「はいっ!」
「エイミー、座って。」
「はいっ!」
ミオは猫田さんに、エイミーはシンシアに嗜められると、2人はスゴスゴと席に着いた。
それからは、しばらく静かな時間が流れた。
「それでは私帰りますね。 お迷惑お掛けしました。」
「ええ、まあ・・・迷惑はかけられたけどね。」
「おい、シンシア。」
「でも、またいらっしゃい。 今度はお酒飲んでいない時にね。」
「はい、本当にスミマセンでした。」
「じゃあ私、エイミーさんを送ってきますので。」
エイミーと私がホームから出る際に、エイミーは猫田さんに近づき、再び「ネコタ氏ぃ、アノ事誰かに言ったら、本当に責任取ってもらいますからね。」って言っていた。
猫田さん、一体エイミーに何をしたんだろう?
エイミーの家に向かう途中で、私は「アノ事」とは何なのか聞いてみたけど、エイミーは物憂げな顔をするだけで教えてはくれなかった。
それからは、治癒士のスポット募集に応じてくれた人が現れるたびに、シザース高地での討伐クエストや採取クエストに向かった。
私は、クエストの合間に鍛冶を行い、猫田さん用の新しい槍、片鎌槍「丙の拾式」を制作したほか、ガルシア商会の納品するために十文字槍の穂先を作成した。
キュートラ事件から2か月ほど経った後、私たちのパーティ「星夜の灯火」は、スポットに応じてくれた治癒士の中から1名を正式メンバーに迎えて、沿岸部の町や村を回りつつ、ロアー・リブ市を目指す長い旅に出発することになったんだ。
~第9章 クロエとミオ5 終わり~




