ヴェルサルユス様と私に言うのは冗談でも辞めてと前から言ってるわよね?
「私に依頼ねえ」
ヴェルサルユスはラトムに近づきながら口を開く。
「それなら話す相手が違うでしょう」
ヴェルサルユスはラトムの肩に置いて続ける。
「私はラトムの騎竜、即ち彼の力よ。であるのであれば頼む先は私ではないわよね?」
「いえ。しかし、ラトム君も竜騎士候補である以上ヴェルサルユス様も騎竜候補、そもそも仮契約すらまだなはずです」
「私が契約を提案しラトムがそれを受け入れたのに何か問題でもあるの?」
(俺は受け入れた覚えはないんだけど……まあヴェルの方が気使わないで良い分楽ではあるけどね)
と連合軍将校が聞いたら卒倒しそうな事をラトムは心の中で呟く。
ヴェルサルユス相手に気使わくて良いと思える連合軍将兵は彼ぐらいな物である。
「これは言いにくい事ですが仮契約と本契約を最終的に判断するのは学院ですし、双方の実力が釣り合わないと認められません。それに学院がすでにヴェルサルユス様の契約相手候補の選定に入っていると言う話も……」
「へえ~それは良い事を聞いたわ。あのぼんくらども、またつまらない小細工弄しているのね」
ヴェルサルユスが冷たい声でロエヌ駐留軍司令官の言葉を途中で遮る。
ラトムは彼女の声色と態度からヴェルサルユスがそうとうお怒りである事を悟った。
「ヴェル……じゃなかったヴェルサルユス様」
ラトムがヴェルサルユス様と言いかえるとヴェルサルユスは不機嫌そうに言う。
「ねえ、ラトム。ヴェルサルユス様と私に言うのは冗談でも辞めてと前から言ってるわよね?」
「そう不機嫌にされてもここは一応公の場だ……ですので。出来れば俺の立場も考えてくれると嬉しいか……です」
ラトムが珍しくヴェルサルユスに対し不慣れな敬語を使うとヴェルサルユスの機嫌がさらに悪くなる。
「リュベルの評議会でも駐留軍司令部でも私に対してタメ口だったじゃない?今更なんなのよ」
「リュベルの場合は俺とお前……じゃなかったヴェルサルユス様との仲は知っている人が結構いましたから。でもここでは違うでしょう?」
ラトムが説得(?)するがヴェルサルユスが聞き入れる様子はない。リュベルではラトムとヴェルサルユスが彼らが仲が良い事を知っている上層部や駐留軍の将校は知っており、また彼を利用してヴェルサルユスを動かす事もあったため、ラトムのヴェルサルユスに対する態度が容認されていたと言う事情もあり、その事はラトムも理解していた。
ラトムも軍に入った時一度それで良いのかとヴェルサルユスに尋ねたら
「あなたの安全が買えるのなら安い物よ。まあその代わり、たまにはご飯奢りなさいね。」
と特に気にする様子もなく軽く笑って答えている。
「ラトムは私の友人である以上私と対等じゃない?肩書も私の騎手にもなった訳だしね」
「それは……」
ラトムは反論しようとしたが
「今まで通りで構わぬよ、ラトム君」
とロエヌ駐留軍司令官が止めに入る。
「良いのですか?」
ラトムの言葉にロエヌ駐留軍司令官ローン将軍は苦笑を浮かべて答える。
「ヴェルサルユス様の機嫌を損なうよりはるかにマシであろう。違うかね?」
司令官の言葉にラトムは
「……そうですね」
と言いながら頷いた。
確かにロエヌ駐留軍司令官からすればヴェルサルユスの機嫌を損ねるのと比べればラトムのみが彼女にタメ口を聞くぐらいどうでも良い問題である事をラトムも気づいたのである。




