こういう上司は持ちたくない
「これは何事かな?」
最後に入ってきた男の言葉にロエヌの冒険者ギルト長パコが驚いたような表情を見せる。
「ローン将軍、何故ここに」
「ヴェルサルユス様とその契約者候補がここに訪れていると言う情報が入ったのでな」
ロエヌ駐留軍司令官は周りを見渡しながら続ける。
「パコギルト長、ところでこの騒ぎは毎回起きているのかね?」
「いえ。めったに起きませんが新人冒険者がベテラン冒険者に喧嘩を売ってしまい……うん、待ってください。ヴェルサルユス様とおっしゃいましたか?」
ギルト長の顔が青くなる。そして、その数秒後ヴェルサルユスに声をかけた冒険者グループの顔は真っ青になる。
「そうであるが、冒険者登録の時に確認しなかったのか。」
「新人冒険者が登録したとしか聞いてませんでしたが……直ぐにレイナを呼べ」
「はい」
ギルト長の後ろにいた秘書が急ぎ足で離れて行った。
数分たつとギルト長の女性秘書がラトムの対応をした受付嬢を連れてきた。
っして、受付令嬢の顔は青ざめていた。
ラトムは若干同情するような視線を向ける中、ギルト長は受付嬢に対し糾弾を始めた。
「何故ラトム君の騎竜がヴェルサルユス様であると報告しなかったのか!?」
「申し訳ありません。まさかヴェルサルユス様であると思っておりませんでした」
受付嬢は頭を下げながら答えるが、ギルト長の怒りはおさまる気配はない。
「であると言うのはどういう事だ!?冒険者登録の時に名前や身元を確認するはずだろう!」
「騎竜の確認はしておりません。ヴェルサルユス様が『私が冒険者登録する必要ないでしょう。私はあくまでもラトムの騎竜なのだから』と冒険者登録されませんでしたので」
「見ればわか……いやこれは解らない事もあるな。しかし、何故騎竜の確認をしなかった!?」
(気づかなった事は自分も突っ込まれるから見れば解ると言うのは避けたな。)
ラトムは心の中で突っ込む。
「竜騎士の冒険者登録は前例がいくつかありますが、その時は騎竜の冒険者登録がない場合は特に確認されておりません」
「それは君の怠慢を誤魔化すための詭弁であろう。それともギルトの規則にそのように書かれているのかね?」
「それは……」
書かれてはいないのだろう、受付嬢は言葉を詰まらせた。
「君のその怠慢が新しく冒険者になったラトム君の権利を著しく損なう事につながった。到底許されることではない!」
(権利を侵害しようといていたのは受付のお姉さんではなく絡んで来た連中とお前)とラトムが心の中で突っ込みながら、一瞬それを言葉にしようかと悩んだ瞬間、彼の隣にいるヴェルサルユスが「ねえ」と口を開く。
ギルト長の醜い責任の擦り付けにヴェルサルユスも怒りに覚えたのかとラトムは思ったのであるが、続いた彼女の言葉は
「ギルト内部のごたごたは後で私達が見えない所でやってくれないかしら?見ていて良い気はしないから」
であった。
もっともヴェルサルユスからすればラトムと強いて言えばメイド長の老婆以外の人間がどうなのうが知った事ではないだけであるのであるが……
「しかし」
とヴェルサルユスは続けた。
「私達にいちゃもんをつけようとしていた罪はどう償うのかは考えて欲しい物ね」
ヴェルサルユスの言葉にギルト長は再び顔を青くしながらも答える。
「無論です。新たな夜明けは厳しい処分をくだし、私は責任者として三ヵ月分の給与を返納してそれを慰謝料としたいと考えています。」
「そう。まあ、正式に決まったら伝えにきなさい」
「承知致しました」
ギルト長が頭を下げるとヴェルサルユスは興味がなくなったらしく、新たに入ってきた男達に視線を向ける。
「それで、あなた達は?」
ヴェルサルユスが尋ねるとローン将軍とギルト長に呼ばれていた男は媚びるような笑みを浮かべて
「申し遅れました。ロエヌ駐留軍司令官のローンと申します。この度はヴェルサルユス様にどうしても受けて頂きたい依頼がございまして、それをお願いするために参りました」
と答えたのである。




