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冒険者ギルトでのお約束

 冒険者登録を終えたラトムはギルト内にある酒場の席の一つに腰を下ろしてルールブックを呼んでいた。

 対面にはヴェルサルユスが不機嫌そうな表情を隠す事なく座っていた。


「ヴェル、どうしたの?受付辺りから機嫌が悪そうだけど……」

 ラトムは冒険者のルールブックから目を離さずに普通に尋ねる。ちなみにヴェルサルユスにこのように普通に尋ねられる人間はヴェルサルユス宅の年老いたメイド長かラトムぐらいの物である。


「あなた……」

 ヴェルサルユスはため息をついて続ける。

「本当、鈍感なのか鋭いのかわからないわよね。」


 ラトムはヴェルサルユスの答えになっていない言葉を聞いて苦笑を浮かべながら

「それって褒めてるの?」

 と尋ねる。


「これで褒められていると思うのなら人生をもう一度やり直してきた方が良いわよ。」


「怖~。もう少し優しさと言う物を持った方が良いと思うけどな。」


「何言ってるの。あなたにここまで付き合ってあげている私は聖女のように優しいと思うけど」

 これに関してはラトムも反論出来なかった。文字の読み書きは育ててくれた両親が簡単には教えてくれたものの、竜騎士試験に受けられる程の教養を身につけられたのはヴェルサルユスのおかげであるし、さらに彼女には肉体強化など簡単な魔術も教わっている。

「聖女かはともかくヴェルにはとても感謝しているよ。」

 ラトムが礼を言うとヴェルサルユスは

「そうなんだ。そう思ってくれているのならたまには形にして返して欲しいわね」

 と微笑を浮かべて答える。


 ラトムは読んでいたルールブックから目を離してヴェルサルユスに目を向ける。

 彼の表情には若干迷いがある。

 彼の頭の中ではレーベルに行くための資金やレーベルについた後の費用(学費や食費等は軍負担であるがそれ以外は個人負担)と所持金と今後冒険者と言うバイトで稼げる金でどこまで余裕が出来るのかを必死で考えていたが、すぐ結論が出る。

「わかったよ。じゃあ、今日の夕飯は少し豪勢に行こうか。俺の奢りで」

 と言っても騎竜の面倒は竜騎士が見るものと言われて旅費は全額ラトムが負担しているのであるが、それをラトムは考えない事とした。


「まあ、少しは期待しているわよ」

 ヴェルサルユスは素っ気なく答えるが、とても嬉しそうなのは雰囲気でラトムは感じた。

(機嫌も直ったようだな)

 とラトムが内心ほっとしている所で彼らに声をかける集団がいた。


「お嬢ちゃん。そんな男置いといて俺達と一緒に食べに行こうぜ」


 最初はヴェルサルユスも無視しようとしたが

「そうだぜ。そんな冴えない男と一緒にいるより俺達についてきた方が余程良い思いが出来るぜ」

 とラトムを侮辱した辺りでヴェルサルユスも反応した。

 無視しておけば良いのにとラトムは思うのであるが、その思いは彼女に通じなかった。

「この私を口説けるなんて思い上がりも甚だしいわよ。あなた達豚にも劣る家畜はあば擦れどもに金を払って楽しむのがお似合いじゃないかしら?」


(俺が言われた事よりひどい事を言ってるよ……と言うかさりげなく娼婦の人達にも喧嘩売っててないか)

 ラトムは心の中でそのような事を呟いて現実逃避に入っているが、現場はヒートアップしていた。


「ちょっと美人だからって調子乗るんじゃないぞ。俺達はB級やC級ランクで構成されているパーティ、新たな夜明けのメンバーなんだからな」

 絡んできた冒険者がそのような事を顔を怒りで赤くして言うが、ヴェルサルユスにはそのような脅しは通じない。

 ヴェルサルユスは立ち上がりながら

「群れないと女に手を出せない豚どもが少々良いと思い込んでいるパーティーに入れて思いあがっていると言う図式かしら。」

 と挑発している。

 それに乗った男の一人がヴェルサルユスに殴りかかるが、それをヴェルサルユス華麗に回避して自分の拳を男のみぞにぶち込むとその男は壁まで吹き飛ばされる。


「てめえら!」

 男達は剣なり杖を構える。そして、ラトムは

(俺、何もしていないんだけど)

 と心の中で呟きながら巻き込まれないようにヴェルサルユスの傍から全力で離れる。

 男の一人が斬りかかるが、先程殴りかかった男と同じ末路を辿る。

 魔術師らしい男が炎弾を放つが、それは全て突然現れた黄金の壁に弾かれ、逆にヴェルサルユスから黄金の弾を右手で放つと、その魔術師に直撃して、その魔術師は倒れ込む。

 またたく間に半数以上がやられた冒険者達の顔は青ざめている。

 そして、ヴェルサルユスはストレス発散出来たのかすっきりとした表情となっていた。

 冒険者達は襲いかかる勇気はすでになく、ヴェルサルユスはヴェルサルユスで正当防衛で処理しようと考えていたため、自分から攻撃する事はなく膠着状態に陥っていた。


 そんな中

「何をやっとるか!」

 と声がかかる。

 その声を発したのは傷だらけの顔にムキムキの筋肉ダルマと言う歴戦の勇士と言う雰囲気を醸し出すロエヌの冒険者ギルト長パコであった。彼の後ろには美人の女性秘書が従っている。


 何が起きたのかをラトムは早速と絡んできた冒険者グループ、そしてそれを見ていた第三者の説明を受けたパコは早速裁定を下した。

「新たな夜明けのメンバーにも多少問題はあったが、ラトムとその騎竜により大きな問題がある。」


「問題?」

 その言葉を聞いたヴェルサルユスの眉が吊り上がる。


「その通りだ。」

 ギルト長は頷いた。

「正当防衛と言いたいのであろうが……先に挑発したのはそちらであると思われるし、過剰防衛とも言える。」


 ギルト長のこの言葉でラトムは彼の本心が読めた。

 いくら、喧嘩に勝ったとは言え新人冒険者とでは実績が違う。ギルトから見て新人冒険者とベテラン冒険者、どちらを残したいかと考えるとベテランの方である。新人の方が竜騎士候補生のバイトとなれば猶更である。


 どうやって冒険者ギルトの処罰を軽くするか、ラトムが必死に悩んでいると冒険者ギルトの扉が開かれ、そして多数の衛兵達が入ってきたのである。

 そして、最後に入ってきた男が

「これは何事かな?」

 と口にした。


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