あんた、何でもっと早く騎竜になってくれなかったんだい!?(上)
翌日の朝、朝食として黒パンを食べ終わったラトムとヴェルサルユスはロエヌの市場に向かっていた。主な目的は道中で食べる食料の補充である。
時々欠伸をしているヴェルサルユスに向かってラトムは
「ヴェル、調子が悪そうだけどどうした?昨日はベットが悪いとかで余り眠れなかった……とかか」
半分冗談を交えながら尋ねる。
「あんたね。心配するのか、それとも喧嘩売るのかのかどちらかにしなさいよ。リアクションに困るじゃない」
ヴェルサルユスはジト目でラトムを見るが、ラトムは気にする様子もなく続ける。
「どちらかと言えば心配しているんだけど……」
「どちらかってどういう事よ?」
「心配6、からかいが4と言った所かな。」
ラトムの答えを聞いたヴェルサルユスはため息をつきながら
「あなた、良くも悪くも私に敬意を全く持ってないわよね」
と続ける。
「ヴェルは俺に敬意持って欲しいの?」
ラトムの問いにヴェルサルユスは白く奇麗な指を顎に手を当てて考えながら
「そうね。たまには持って欲しいなと思う時があるけど……敬語でも使われた日には一日中イライラしてそうだから、いらないかな。」
と答える。
「そうだろう。まあ俺は持って欲しいけどな。」
ラトムの言葉を聞いたヴェルサルユスは小悪魔のような笑みを浮かべて
「そう。じゃあ、ご主人様。今からどこに行きましょうか?」
と続ける。
「やっぱ良い。お前にご主人様と言われると気色悪くて鳥肌が立ってしまう。」
とラトムが肩をすくめながら答えると
「でしょう。私もそれが原因でイライラしてくるのよ。少しは私の気持ちも解ってくれたかしら?」
とヴェルサルユスは苦笑を浮かべながら尋ねる。
「まあ、少しはね……あ、ここか」
ラトムは目当ての雑貨店を見つけて、そこに入った。
雑貨店に入ってみると、椅子に植わった少し太ったおばちゃんが
「いらっしゃい。あれ、お客さん見ない顔だね。」
と声をかけてくる。
「俺達は旅をしながら冒険者をやっている者です。」
「へえ~。このご時世に良くそう言う事が出来たわね。」
おばちゃんの皮肉とも取れるような言葉にヴェルサルユスがむっとするが、ラトムはまあまあと宥める。
そういういきの良い若者は大抵軍に徴兵される。現状魔族との全面戦争を行っている以上、軍も兵員が慢性的に不足しており、ここ西部戦線もローベラ要塞陥落にてこれからかなり押し込まれる事を考えて今後さらに徴兵が進められている。すでに西部戦線を担当する西部方面軍の軍管でも徴兵する年齢下限を大幅に引き下げられ13歳以上とされており、既に13歳の少年兵も最前線で戦っていると言う有様なのに、さらに徴兵年齢上限の引き上げや徴兵期間の延長が検討されていると言う噂もラトムはヴェルサルユスから聞いていた。
このおばちゃんの子供とかが軍に徴兵されていた場合、自分が気軽に冒険者しつつ旅をしていれば皮肉の一つも言いたくなるだろうなと言うのもラトムも解ったからだ。まあ、おばちゃんの子供が実際兵役についているかは解らないが……
「冒険者と言ってもレーベルに向かうまでの間ですけどね。俺竜騎士候補ですので……」
ラトムがそう答えると雑貨店のおばちゃんは嘲笑いながら続ける。
「じゃあ、そこの美しいお嬢さんはあんたの従者かい?竜騎士候補に選抜されると言う事は大抵貴族らしいし」
「ねえ、ラトム。これ、消して良いかしら?」
ヴェルサルユスは隣にいる騎手候補にしか聞こえない声で呟くが、あまりの血の気の多い発言にラトムはヴェルサルユスの耳元で呆れながら
「何でお前はそう物騒なんだよ」
と囁く。
ラトムは雑貨店のおばちゃんの方を向いて柔らかい笑みを浮かべて
「いえ。彼女は俺の騎竜候補です。そもそも俺はリュベルのスラム街上がりですからね」
と柔らかい笑みを浮かべて続ける。
「リュベルのスラム街上がり……」
そう呟いたおばちゃんはヴェルサルユスの方に視線を向ける。
「もしかして……あなたはまさかヴェルサルユスかい?」
「そうだけど何かしら?」
ヴェルサルユスは挑発するような口調で尋ね返すと
「あんた、何でもっと早く騎竜になろうとしてくれなかったんだい!?」
と雑貨店のおばちゃんは語気を強めながら返したのである。




