あんた、何でもっと早く騎竜になってくれなかったんだい!?(下)
雑貨店のおばちゃんが口にした
「あんた、何でもっと早く騎竜になろうとしてくれなかったんだい!?」
との言葉にヴェルサルユスは反応する。
「今まで私に相応しい者が竜騎士候補がいなかったからよ。それとも何?誰でも良いから契約しろ言いたい訳」
「あんたほどの強さがあれば騎手の実力等関係ないはずだ!」
「店の販売員の貴女に竜騎士と騎竜の戦いがどういう物なのか解るの?」
「戦死した私の息子が言っていたわよ。ヴェルサルユス様が誰でも良いから契約してくれれば劣勢に陥った西部戦線を覆してくれるって」
「まあ、言いたい事は色々あるけどまずあなたの言葉を一つ修正させてもらうわ。」
「修正?」
ヴェルサルユスは見下すような笑みを浮かべて続ける
「局地戦ならともかくここまで大規模な戦線の戦況を大きく動かすと言うのは流石の私でも不可能よ。個人の強さで大勢が覆る程簡単な戦争ではなくなっているから。」
「何言って……」
「もし個人の力でどうこうなる戦争であれば15年もかからず終結しているわ。まあ、これを信じる信じないかは貴女の自由だけどね……」
ヴェルサルユスは一息ついて「さて」と続ける。
「本題に入るけど良いかしら?……まあ勝手に入らせてもらうけど」
「なら私に確認する必要ないじゃないの」
と雑貨店のおばちゃんが突っ込むがラトムも
(確かに)と心の中でそこは同意する。
ただヴェルサルユスはその突っ込みに関しては不敵な笑みを浮かべて無視して続ける。
「私ほどの強さがあれば騎手の実力等関係ないと言うのは戦力的に考えれば事実よ。契約者で若干の戦力の上下はあるだろうけどそれは誤差の範囲だから。でもね、私にだって騎手を選ぶ権利だってあるんじゃないかしら?」
(いやお前、俺が竜騎士なるって言わなかったら騎竜になる気なんて最初からなかっただろう)
とラトムは心の中で突っ込む。流石にこの雰囲気でそれを口に出す度胸は彼にはなかった。
「竜騎士候補から選べばよかったんじゃないの!?貴女ならばより取り見取りでしょう」
「不十分。私が騎竜になって良いかなと思ったのは一人だけ。だから彼が竜騎士候補になると決めた時に私も彼の騎竜になる事にしたのよ。ラトムの騎竜は私以外相応しくないから」
(俺にも騎竜を選ぶ機会はないんだろうか……まあヴェルは気を使わなくて良いから楽だけどさ)
とラトムが心の中で突っ込んでいると雑貨店のおばちゃんが
「ふざけないで!そのあなたのわがままで何人死んだと思っているのよ!私の息子だって……」
と叫び出す。
「騎手がいない状態でもリュベル防衛の任について人間の為に尽くしてるでしょ。それともあなたは私が全てを捧げて人間に尽くさねばならないと言いたいのかしら?少し善意を見せると勘違いしてそれ以上を要求するバカって居るものね。」
ヴェルサルユスの挑発を受けたおばちゃんがさらに怒り出し
「私の息子だって人類のために命を捧げてあなた以上に尽くしているわよ!ふざけた事言わないで!それにリュベル防衛って最前線じゃないじゃない!?それで何故そこまで威張れるのよ。」
「お言葉ですがヴェル……じゃなかったヴェルサルユスがリュベルの防衛についてくれたからこそそこに竜騎士を駐留させる必要がなく最前線にその戦力を回せました。それにリュベルは巨大な港を持ち西部戦線にある連合軍部隊の補給を担う重要拠点であり、ここが陥落すれば西部戦線は崩壊します。最前線で武器を持って戦うだけが戦争では……」
ラトムが割って入るが
「ヴェルサルユスに気に入られて良い人生を送ってきてろくに苦労をした事がない若造が偉そうに言うんじゃないわよ!」
と逆効果であった。
(これ、何言っても無駄だな。とりあえず店変えるか。そこが無理だったら駐留軍から食料買えないかな?)
とラトムが計算していると
「不幸なのはあなただけではないし、第一ラトムもあなたが言う程幸せな人生を送ってきた訳ではないわ。まあそんな事はもうどうでも良いけどね。私の騎手を侮辱した罪をあがなってここで死ぬのだから……」
と彼の騎竜候補が背後に魔力で出来た数本の黄金の槍が出来ており、おばちゃんに向かって投射しそうな雰囲気であった。
「ヴェル止めて。」
ラトムが慌てて止めに入る。
「何言ってるのよ。ここまで侮辱されて悔しくないの」
と反論するがラトムはもう一度強く制止する。
「良いから止めてくれ。」
「わかったわよ。」
ヴェルサルユスは渋々背後に展開させていた黄金の槍を消した。
それを確認したラトムは恐怖で膝が震えている雑貨おばちゃんの方を向き
「私の騎竜『候補』が失礼しました。人類の勝利のために我々は粉骨砕身して参りますので今日の事はお忘れください。では……」
ラトムが敬礼した後踵を返して歩き出すとヴェルサルユスは後ろに続く。
店を出るとラトムは
「ヴェルありがとう。俺のために怒ってくれたんだろう?」
と自分の騎竜候補に礼を言う。
「……まあ私の騎手が侮辱される事は私が侮辱されるのと一緒だからね。あなたのためだけに怒った訳ではないのよ。その辺りは勘違いしないでね」
「はいはい。」
ラトムは苦笑を浮かべながら歩き出す。
彼に続きながらヴェルサルユスは話始める。
「それはそうと何であれ見逃したの?別にあれを消した所で軍はなかった事として扱ったわよ。」
「何でお前はそう物騒なんだよ。まあ実際そうなるんだろうけど」
大戦勃発後連合軍は慢性的に戦力が不足しており、竜騎士が民間人等に暴行事件を起こしても一部の例外を除いて大抵見逃される事が多いし、彼もそれを実際経験していた。それが圧倒的な戦力となるヴェルサルユスとなると猶更罰される事はないだろう。
「でも別に俺は怒ってはないしね。」
ヴェルサルユスが肩をすくめながら
「あそこまで侮辱されて何故怒りがわかないのか……本当理解できないわ。」
と口を開く。
「まあ、俺も経験してるからね、自分の大切な人達が理不尽に奪われる苦しみと憎しみは。他人に八つ当たりしたくなる事も理解できるし、俺だって……あっ」
ラトムの言葉を聞いたヴェルサルユスは微笑を浮かべながら
「成程ね。まあ、だいたいわかったわ。あなたが竜騎士を目指した理由が……」
と続けた。
ラトムはしまったと頭を抱えるが、ヴェルサルユスは苦笑を浮かべながら
「大丈夫よ、ラトム。私は誰にも言わないから」
と続けた。




