私はすでに十分な報酬をもらっているもの
ラトム達は少し宿屋でくつろいだ後、宿屋に案内していた兵士から教えてもらっていた酒場兼食堂に向かった。
兵士が言うには味はそこそこで値段は安い、しかもビールも飲めるとあれば、ラトムからすればそこを選ばない理由がなかった。
酒場についたラトムとヴェルサルユスは店員の案内を受けて席に座り、食事とビールを注文する。
頼んで5分後にビールが入ったジョッキが到着し、さっそくラトムはそれを口にする。
「ラトムってお酒飲めるようになってたの?」
ヴェルサルユスは端整な顔を微笑ませながら尋ねる。毎回のごとく男性客の注意を集めるが、彼女は彼らの事など眼中にないように無視していた。
「仕事の付き合いがあったからね。やっぱ飲めた方が便利だし……」
ヴェルサルユスはからかうような笑みを浮かべて
「成程。そして日常的に飲むようになったと……」
と続ける。
「普段は飲んでないぞ」
ラトムが反論するが
「でも飲めたら飲みたいんでしょう?」
と返され、ラトムは言い返せず黙まらざるを得なかった。
ラトムがふっと視線をずらした時、自分の冒険者登録をしてくれた受付嬢が遠くの席に座っている事に気が付いた。彼女の対面には別の女性が座っている。
受付令嬢が泣いていて対面に座っている女性が慰めているような感じである。
気になったラトムはそこを軽く指さしながら
「ヴェル、あそこの会話聞き取れる?」
と尋ねる。
「はい?私今食事中なんだけど……まあ良いわ」
と嫌そうに言うが
「後で何かおごりなさいよ」
と続ける。
ヴェルサルユスは指先から飴玉より小さなスライムのような物を作り出し、ラトムに言われた席に向かわせる。
ヴェルサルユスは目をつぶって、一時してから目を開き
「どうやらあなたが鼻の下伸ばしてた受付嬢クビになったみたいね」
と口にした。
「鼻の下は伸ばしてない……ってクビ?まあここで彼女見つけた時嫌な予感はしてたけど」
「どうする事も出来ないわね。まあ、そもそも私が助ける義理も義務もないけど」
ヴェルサルユスは平静に言うが、ラトムには割り切る事は出来なかった。彼女のクビは自分達に関係しているからだ。
ラトムは頭をかきながら
「女性には優しくしろと母さんに言われてるしな……」
と口にした。
「なら私に対しても優しさをもう少し持って欲しい物だわ」
ヴェルサルユスはジト目でラトムを見る。
「ヴェルは親友だから別に良いかなと」
「何、その差別。」
ヴェルサルユスは呆れるように言う。
ラトムは苦笑を浮かべながら
「差別なのか、これ。」
と続け、真剣な表情に変わる。
「それはまあ置いておいて……ヴェル、あれで彼女の家まで追跡できる?」
「それは問題ないわ。それにしてもあなた相当損な性分してるわよね。」
ラトムが苦笑を浮かべて
「これに特に文句言わず付き合ってくれるヴェルもたいがいだと思うけど」
と答えるとヴェルサルユスは優しく微笑んで
「私はすでに十分な報酬をもらっているもの。」
と答える。
ラトムは首を傾げながら
「いつ、もらったんだ?前金すらもらってないぞ」
と尋ねると
ヴェルサルユスは笑みを崩さず楽しそうに
「ロエヌ駐留軍にも冒険者ギルトからももらってないわよ。そもそも金銭ですらないし……」
と答える。
「わけわからん。」
「本当こういう所は鈍いわよね。まあ、少しは考えてみなさいな」
ヴェルサルユスの言われた通りラトムは一生懸命考えてみたが結局解らなかった。
☆☆☆☆☆☆
食事が終えたロエヌ駐留軍司令官ローン将軍が自室に戻ると若干ドアが開いているのに気がついた。
「鍵は閉めて出たのだがな」
とローン将軍は呟きながら、自室に入った。
彼には自室に入っている者に心当たりがあったからだ。
将軍の予想通り銀髪の美少女がベットの上でくつろいでいた。
「お帰りなさい。」
「只今戻りました。アエリア様、此度はどのような要件で?」
アエリアと呼ばれた少女は真っ赤な瞳をローン将軍に向ける。
「私自ら動く理由は彼以外にありえないでしょう。ラトム様とヴェルサルユスは彼の元に誘導してくれたかしら?」
ラトムの名には敬意をヴェルサルユスと言う名には敵意を隠さず彼女は述べた。
「はい。予定通り彼らはこちらが用意した依頼を受けてくれております。」
「それなら良いです。」
アエリアと呼ばれた女性はベットから立ち上がり、窓の方に視線を向け夜空を見つめる。
「ラトム様、母なる神に見せつけてください。貴方が契約者にふさわしい者である事を……もっとも一番のお気に入りは今の所あなたなのですけどね」




