お嬢さんも大変ね
(さてどうしたものかな)
ラトムが悩んでいると報告書を読み終わったヴェルサルユスが顔を上げる。
ラトムは早速ヴェルサルユスに視線を向ける。
それを見たヴェルサルユスは頷いた。
『これ問題ない?』
『特に大きな問題はないわよ』
みたいなやり取りを無言で行ったのだ。
この二人は付き合いが長いので、これぐらいの言葉を用いないコミュニケーションも楽勝である。
「ではこの依頼を受けさせて頂きます、司令官閣下」
ラトムがそう言うとロエヌ駐留軍司令官は嬉しそうに頷く。
「そうか。ラトム君本当にありがとう」
その後細かい条件をいくつか詰めてロエヌ駐留軍司令官との話も終わり、解散となった。
冒険者ギルトを出たラトムとヴェルサルユスは駐留軍将兵の案内を受けてそ安宿の割にはしっかりしている宿屋に向かっていた。
その時に値段は安くてそこそこ食べられる酒場兼食堂の場所を教えてもらっている。
宿屋に到着し、案内してくれた兵士にラトムが礼を言って別れた後宿屋に入り受付に向かう。
受付にいるおばさんが営業スマイルを浮かべて
「いらっしゃいませ」
と挨拶してくる。
「すみません。一泊したいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。」
受付のおばあちゃんは宿帳を出しながら
「こちらに名前等の記入と身分証のご提示をお願いしたいのですが宜しいですか?」
と口にする。
「解りました。」
ラトムは身分証2つ(竜騎士候補と冒険者)をおばちゃんに渡しながら、宿帳に自分とヴェルサルユスの名前に記入する。
「竜騎士候補様と冒険者ですか?」
おばちゃんも言葉にラトムは答える。
「レーベルに向かうまでの旅費等を冒険者で稼ごうと思いまして。旅費が一人分増えてしまいましたし」
「成程。竜騎士様になるのも大変ですね。そちらのお嬢さんが騎竜候補ですか?」
受付のおばちゃんの
「一応そうですね」
ラトムの言葉にヴェルサルユスが反応する。
「一応って何よ?私に何か不満があるわけ?」
「そうじゃなくて……ほら、契約も学院の了承がいるんだろう。だったら一応になるんじゃない?」
「あんな馬鹿ども気にする必要はないわよ。がたがた騒ぐなら潰すだけだから」
ラトムが頭をかきながら
「良いの、それ。」
と半ば呆れるように呟くと受付のおばちゃんが苦笑を浮かべながら
「仲が宜しいんですね?」
と言葉にする。
「幼馴染と言う名の腐れ縁ですよ」
それを聞いたヴェルサルユスは頬を膨らませながら「腐れ縁って何よ……」と小さな声で呟いていたがラトムは無視した。
受付のおばちゃんも成程と頷いた後
「部屋はいくつ借りられます?」
と尋ねる。
「そうですね」
と言いながらラトムは迷う。
お金の事を考えれば1室で済ませたい所であるが、竜であるとは言え女性と1室で一緒に泊まると言うのも心理的に抵抗もある。
(今回の賞金は高額だしここは2室頼むか。今日はヴェルの機嫌損ね続けたみたいだし、機嫌を取っておこう)
「2室で……」
とラトムが言いかけた所で
「1室でお願いするわ」
とヴェルサルユスが遮る。
「良いの?」
ラトムが尋ねるとヴェルサルユスは苦笑を浮かべながら
「旅に出てから同じテントで寝てるのに今更良いも糞もないわよ。旅費は出来る限り抑えたいんでしょう?」
と答える。
「そりゃあ、俺にとってはそっちの方が助かるけどな。でも今日ヴェルは不機嫌みたいだったし、別室の方が良いのかなと思ったんだけど」
「私とあなたが別の部屋に泊まるのと、私が今日不機嫌なのが何で関係があるのよ?」
ヴェルサルユスの問いにラトムは苦笑を浮かべながら
「いや……多分怒らせたのは俺なんだろうし、俺の顔を今日はあまり見たくないかなと気を使ってみたんだけど」
と答える。
「自覚はあったのね」
ヴェルサルユスはため息をついて続ける。
「でもあなたの顔を見たくないと言う事は絶対にありえないから安心して。むしろ、ずっと……」
ヴェルサルユスは途中で声が細くなっていき、最後の方はラトムの耳まで届かなかった。
「ごめん。最後の方が聞き取れなかったんだけど……」
顔を真っ赤にさせているヴェルサルユスにラトムが尋ねるが
「空気読みなさいよ!このバカ!」
と答えが返ってきた。
その様子を見ていた受付のおばちゃんが
「お嬢さんも大変ね」
と苦笑を浮かべながら呟いた。




