少し先の未来
入学から約1ヶ月が経過した頃。
「手伝って欲しい」
「任せて」
私の要望に、願望に即答で了承してくれたのは、クラス、部活が共に同じのミサだった。
私が彼女に頼んだのは、彼女が彼のストーカーだからだ。
まぁ、ストーカーの件については既に語られているようなので、ここでの説明は省くとしよう。
「で、何を手伝えば良いの?」
それを聞く前に了承してしまうのは、やはり少し無防備が過ぎるというか・・・
「あー大丈夫、私はあなた以外の願いは一切叶えないから」
それはちょっとかなり人間がねじ曲がっている。
「まぁ、そんな事は捨て置き、聞くわ、あなたの願いを」
そんな神様みたいな言い方・・・
まぁ良いか。
「私ね、橘を助けたいの」
「うん!オーケー!良い・・・って、え?」
え?
「あれ?あーちゃんは橘君の事が好きなんじゃないの?」
「えっ、それは、その、まぁ、うん」
「じゃあ告白しよう」
え?
「えっと・・・ミサ、どうしてそうなった?」
「今の橘君には彼女が必要なんだよ!」
あー、えー、うん、理解した。何故そうなる?
「ごめんミサ、やっぱり分かんない。説明して」
「えっとね、まず、橘君が小学生の時にいじめられてたの知ってるよね?」
其は勿論。
「知ってるよ」
「でもね、今の彼の現状の原因はそれじゃない訳。understand?」
最後のがかなり挑発的だったのはそういう意図だったのか、もしくはさっき叫んだ影響で頭がおかしくなったからなのかは解らないが。
「え、違うの?私はてっきり今でもいじめられているのかと」
小学五年生の時に一旦は解決はしていたが、すぐにまた始まるだろうとは思っていたのに。
「いや、今でもいじめられてるよ」
いじめ自体はやっぱりあるのか・・・
「じゃあ何故今も彼があんなことになっているかと言うと・・・」
「言うと?」
「・・・」
「引っ張ろうとしないでよ?」
「ぇっ・・・中学受験に落ちたから!」
いま小さな声で"えっ"て言ったなこいつ。
引っ張るつもりだったのか・・・
それはそうと。
「中学受験してたんだ」
「あれ?知らなかった?」
「うん、ミサとは違って私はストーカーじゃないから」
「・・・橘君はね、受験を合格できなかったことで落ち込んでるの」
あ、無かった事にしたな。
まぁいいか。
「でも中学受験でしょ?そんなに落ち込むこと無いんじゃない?」
「多分だけど、『あと3年もこいつらと一緒なのか』とか思ってるんじゃない?」
何か適当だな。
中学に嫉妬してるとか?流石にそれはない、筈・・・
「あれ?でもそれが橘に彼女が必要な理由になるの?」
「えー、まだ分かんないかなー」
「また引っ張るつもり?」
「そ、そんなわけ無いじゃん・・・ココロノヨリドコロが彼には必要だってことだよ」
心の拠り所・・・か。
私が、彼の支えになるのか・・・
そうすれば、彼の恩人に成れるのかも。
いや、恩人なんて、そんな恩着せがましい言い方は違うかな。
私は、彼を助けたい。
ただそれだけ。
「ねぇ、ミサ」
「なに?アヤメ」
ここで私は迷った。
こんなことを言うのは、間違ってるんじゃないかって。
さっきまでのミサの言葉を思い出す。
・・・やっぱり言えない。
この言葉は、言うべきじゃない。
「私は、橘の恋人になれるかな?」
そう、私が言うべき言葉じゃない。
少なくとも、今の私には言う権利すらないと思う。
「うん、なれるよ!きっと」
ミサはそう言った。
私はそれが嬉しくて、その時のミサの表情を見ていなかった。
見なかった方が幸せだった。
彼女の、嫉妬と後悔が垣間見える作り笑顔なんて。
「じゃあ私帰るね。有り難う、相談に乗ってくれて」
「気にしないで、私はあーちゃんの力になりたいんだよ」
そう言った彼女の表情は、幸福に満ちていた。
まるで"私の力になることが幸せだ"と言いたげだった。




