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私(ストーカー)の恋  作者: Tokimine
メインストーリー
12/19

愛する人

女子トイレに声が響いた。


「そこまでよ、馬鹿な真似はもうやめて、あーちゃん」


私は大声で叫んだ。

なるべく彼女が怯むように。


「み、美沙?!どうして・・・」


菖蒲が明らかな動揺を見せたその隙に、私は仕切りの上から降り、彼女の持つナイフを蹴り落した。


「あっ、しまっ」


その言葉が終わらない内に、彼女に向かって倒れこむようにして両腕を封じた。

更に武器を隠し持っていても大丈夫なように。

しかし、彼女も抵抗する。


「やめて、美沙、私は、私は!」

「諦めなさい!黛菖蒲!!」


私は叫んだ。

トイレ中に私の声が響いた。

誰も聞いていませんように―――と頭の片隅で祈りながら、彼女に投げかける言葉を探してゆく。

菖蒲は抵抗を諦め、落ち着いた様子になった。


質問

「何で、こんなことしたの」

「彼の事が好きだからよ」


「ちゃんと告白しなかったの?」

「したよ、でも断られた」


「いつ告白したの?」

「さっき」


「なぜ殺そうとしたの?」

「彼をあなたに渡したくなかった」


「あらかじめセッティングしていたという事は、断られると分かっていたってことよね、

諦めきれなかったの?」

「そうよ」


「じゃあ・・・」


もう一度、頭の中で考えを巡らせる。


「じゃあ、私が諦めさせてあげる」


そう言って、私は彼に駆け寄った。


「ごめんね」


小さな声で彼にそう言って、私は自分の唇を彼の唇にそっと当てた。

つもりだったのだが、勢い余ってか、もしくは初めてだったせいだろうか。

歯がぶつかってしまった。

初キスでやらかしてしまった事に後悔しつつ、菖蒲に向き直った。


「橘君は、いま私が奪った」


彼女は絶句していた。

“奪う”という言葉は彼女にとっては効果てきめんだった。

過去のトラウマに漬け込むようで気が引けるが、今はそうも言っていられない。


「・・・やめて」


菖蒲が苦しそうな声を上げる。


「私の大切なものを奪わないで」


その声は聞き取りにくいほど小さくて、枯れていて、儚げで、孤独だった。

―――だめ、同情はいけない、それでは、解決しない。


「違う、彼は、橘君は、あなたのものなんかじゃない」

「分かってるわよ、そんなこと!!」


いつの間にか個室の前に立っていた菖蒲の手にはいつの間にか、ナイフが握られていた。

―――しまった、ナイフを確保しておくんだった。


「邪魔、しないでっ――!」


彼女は、右手にナイフを握ったまま突進してきた。

刺される―――!

その時、背後の空気が動いた。


「させるかー!」


突然飛び出したのは、縛られていたはずの彼だった。

それに驚いた菖蒲が一瞬ひるんだ隙に、彼は彼女の手首をつかんだ。


「旭日、黛の武器を取り上げるんだ!」

「う、うん、わかった!」


私は、今度こそナイフを取り上げた。

そして、完全に諦めたのか、菖蒲は足の力が無くなったのか、崩れるように膝をついた。


「旭日、俺の鞄が外に落ちてるだろうから取ってきてくれないか?」

「うん、わかった」




彼の鞄を持って個室に戻ろうとすると、その個室から二人の声が聞こえた。

何かを話しているようだが、よく聞こえない。

まぁ、いいか。

きっと、私抜きで話す必要があったのだろう。

そのために、私に鞄を取りに行かせたのだろう。


「橘君、鞄持ってきたよ」


私に気付いた彼は、少し遠い目をしていた。

何かを思い出していたとか?


「あぁ、サンキュー」


彼は自分の鞄を探り、筆箱を取り出した。


「この中にハサミが入っているから、取り出してこの結束バンドを切ってくれ」

「わかった」


結束バンドを切って、ふと、疑問が浮かんだ。


「橘君、縛られていたのに何で動けたの?一体どうやって・・・」

「片手がふさがっていても縛ることが出来るようになっていたのはお前も見ただろ?

あの結び方は“もやい結び”って言ってな、確かに片手で絞めやすいんだが・・・」


彼の言いたいことが分かった私は、確認をとるように口をはさむ。


「その分、解けやすい・・・ってことなのね」

「ご名答」


だから動けたのか。

でも、そんなことに彼女が、頭が良い“あーちゃん”が気付かないはずがない。

じゃあどうして、あえてそんなことをしたか・・・

いや、本当は分かっている・・・つもりだ。


彼女はきっと、こんなことを望んでなんていなかった。

むしろ、止めたかったのだろう。

でも、もう一人の彼女が許さなかった。

既に殺された筈の彼女が。


未だ死んでいなかった。


だからあえて、抜け道をつくった。

大切な人を殺すという、残酷な運命から、友達の幸せを願い、見守るという運命への。


そうなんだったとしたら、これから応援してくれる親友のために、感謝の気持ちで、こう述べるとしよう。

眠ってしまっている彼女の横にいる、わたしのラヴァーに向けて。


「あ、お母さんから早く帰って来いってメールが来たから、私帰るね。

あーちゃんの事よろしくね、じゃ、また明日」


彼の困った顔をしり目に、私は公園を後にした。




んん・・・ここは・・・

わたしは・・・そういえばわたし・・・かれを・・・

あっっ


「橘君!!!」

「お、やっと起きたか」


あれ、死んでない・・・生きてる・・・ということは・・・


「止めてくれたのね、橘君が」

「俺はほとんど何もしていないさ、旭日のお陰だよ」

「・・・そう」


とにかく、殺さずに済んだんだ、彼は今もこうして私の前で生きている。

そういえば、ミサの姿が見当たらない。


「ミサは、どうしたの?」

「あいつなら先に帰ったぞ」


えぇっ?!なんで?!!


「そ、そうなのね・・・」

「顔が引きつってるぞ・・・」


気まずいにも限度ってものがあるでしょ!!

全くあの子は・・・


「一体何がしたいんだろうな、あいつ」

「さ、さぁ」


私も分からない。

まぁ、きっと仲直りとかそんなことを考えているのだろう。


「とりあえずここから出ようぜ、そろそろ女子トイレは辛い・・・」

「あ、ごめん・・・」


私は、いつの間にか座っていた椅子(と言っておこう・・・)から立ち上がり、彼と共にトイレを後にした。

外は真っ暗で、人の気配がまるでない。


「ごめん、ずいぶん待たせたみたいだね」

「全くだ、今度こそジュースおごれよな」

「うん、わかった」


こんな、他愛もない会話ができるのも、二人のお陰だ・・・

ジュースじゃ足りないな、ほんと。


そういえば気を失う前に、彼にとても大事なことを聞いたような気が・・・

そうだ、おもいだした。


「ねえ」

「何だ」

「あれ、本当の事なの?」

「あれって?」


私は、その言葉を口にすることを躊躇った。

このまま、忘れるべきじゃあないのか。

こんなに、こんなに酷い"オチ"を受け入れてしまって。

それじゃあ、私が彼を好きになったことが間違いだったみたいじゃないか。


過去の記憶がよみがえる。

あの、鮮血の記憶が。

父と母の面影、そして、一人の男の影。

やはり、このままにしておくわけにはいかない。

知るべきだ、私は。


「君の父親が、私の両親を殺したって本当?」

彼は、少し間を置いてから口を開けた。

「本当だ」


そして、あの時の続きを語った。

「あの事件の数日後、ニュースで父親の名前を聞いた俺はびっくりした、

というか、絶望したよ、

父親が指名手配犯ってことでいじめられていた俺だけど、

あのこれまでにない程の大々的な報道のお陰でいじめは更にエスカレートした」

「じゃあ、君は今でもいじめを受けているの?」

「いや、小5のときに収まったよ、かなり強引だったけどな。

その時からだったかな、俺に付きまとってくる奴が一人いた。

普通なら嫌だと思うし、俺だって最初は そう思ったさ。

でも、父親の事で精神がかなり疲弊していたあの頃の俺にとっては、気分を紛らわせてくれるそいつの存在が嬉しかった。

ストーカーに感謝していたと思うとおかしく思えてくるがな。

まあ、そのストーカーにコクられた時には、何の冗談だよって思ったな」

「気付いていたのね、ミサのストーカーに」

「まあな」

「じゃあ、ストーカーに恋をしたのね、私の思い人は」

「そういう事になるな」


彼は照れ臭そうにそう言った。


「そういえば、今気になったんだけど」


今更のようにも思えるが。


「なに?」

「ミサは、何で私の行動に気付いたんだろう、私の過去は彼女にも誰にも話したことが無いのに、もしかして、君が教えたの?」

「まさか、俺はお前の企みなんて知らなかった」

「じゃあなんで・・・」

「おいおい、分からないのかよ。友達なんだろ、旭日の」


まさか・・・


「そのまさかだよ、きっと」

「ストーカー」

「正確にはリサーチかな。

お前の気持ちを悟ったあいつは、過去に見た記憶のある殺人事件を調べ上げたんだろう。

そうしてあの事件の真相を知ったことで、お前が行動する可能性にたどり着いた。そんな所だろう」

「それが本当なら、ミサってすごい子なんじゃないの?」

「実際すごかったじゃないか、飛び降りて、飛び掛かって、まるで映画のアクションシーンみたいだった」

「私はあんまり覚えていないんだけどね」

「そうなのか」

「ねえ、ミサは何で、身の危険を冒してまで助けようとしたんだろう」

「お前をか?」


え?どういうこと?

彼女は君を助けに来たんでしょ?


「まあ、もちろん俺も助けてもらったけどさ、あいつが本当に助けたかったのは、お前なんじゃないか?

本当の、殺されたはずのお前を、あいつは助けたかったんだと俺は思う」


そうか、だから私を置いて先に帰っていったのか。


「まったく、お人好しなんだから」

「そうだな、でもそれだけあいつは優しいんだよ」


そうだ、彼女は優しいんだ。

優しくて、勇敢で、かわいくて、私の友達で。


「まあ、ストーカーだけどな」


その言葉に最も彼女らしさを感じてしてしまったのは、きっと彼も同じだろう。

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