#1 What Do You Think?⑤
目が痛くなるほどに激しく明滅する光と、鼓膜が破けそうなほどに鳴り響く爆音の中に、二人の少女は晒されていた。
「……なっ……!?絶対今の当たってたって!」
「……っ、このボタン押し辛いのよ……!」
並んで椅子に座る二人は、それぞれの目前にある筐体に文句を吐きながら、そのレバーとボタンを激しく、そして素早く捌いていく。
「……くっ…………あっ!」
「…………!」
アイシャは自身の筐体に表示されたWINの文字を確認すると、小さく拳を握りしめた後、隣に座るカトレアの方を誇らしそうな顔で見た。
「はい、私の勝ち……!」
「いやっ!絶対あの必殺技当たってたって!おかしいよこのゲーム!」
「はいはい、言ってなさいよ。弱すぎて話にならなかったわね?」
「なっ……!?そっちだって、後二、三発で負けだったくせに!」
「その二、三発が当てられてないから負けたんでしょう?負け惜しみも程々にしてほしいわね」
「〜〜〜っ!!そっちだって、ついさっきまで負け越してたくせに!久しぶりに一回勝っただけで調子乗っちゃって!!」
「……っ!!もう一回!もう一回よ!」
煽り合う二人の背中を眺めていた少女は、恐る恐る二人の側へ近寄っていく。
「…………あの〜……」
「なにっ!?」「何よっ!?」
「あっ、いえ……!何でもないです……!」
再び筐体に硬貨を入れる少女たちのもとから、茶髪の少女はそそくさと元いた位置へ戻っていった。
三人がゲームセンターに入ってからかれこれ一時間の間、延々と繰り広げられるほぼ同じような風景を、茶髪の少女は黙ったままでずっと眺めていた。
そんな様子を見ていた少女は、
「……不思議な人たち」
そう小さく呟いた。
額に汗をかくほどに熱くなりながら筐体を操作して、その画面に表示される結果に一喜一憂して、さらにはその結果のことで子供のように互いを貶したり罵ったりして、挙げ句の果てにはまたコインを入れ直して。
自身を助けてくれたときの、あの黒衣の能力者たちの面影なんてまるでない少女たちのことを、茶髪の少女は、あたかも二人の母親であるかのような佇まいで見守っていた。
「ふふっ」
そんな風に少女がもの思いにふけていると、騒がしかったアーケードゲーム機の前が急に静かになった。
「…………はあ……はあ……し、しんどい……」
「……ねえ……もうやめにしない……?私……だいぶ疲れたのだけれど……」
「……さ、さんせ〜い……」
息を切らしながらレバーとボタンの上に突っ伏していた二人は、やがてよろよろと立ち上がると、茶髪の少女の方へよろめきながら歩いてくる。
「お二人とも、お疲れ様でした」
「ええ……悪かったわね、ずっと放っておいて」
「いえいえ、見てる分にも楽しかったですから」
「……そう、なら良かったわ」
近くにあった長椅子に力なく座り込んだ二人は、乱れた呼吸を整えると、先ほどまで座っていた辺りとは逆の方に並ぶゲームの筐体を眺めていた。
「あっちの方にはクレーンゲームとかが多いのかな?……あっ!写真撮れるやつもあるよ!みんなで撮る?」
「撮らない」
「……ぶ〜」
口を尖らせるカトレアを無視して、アイシャは高い位置に掛けられた壁時計を確認する。
「あと一時間ちょっとくらいね」
「え、嘘……!?もうそんな経ったの!?」
「あんたがさっさと負けを認めないからよ」
「…………最初に勝ったのは私だけどね?」
何かの予感を察知した茶髪の少女は、慌てながらたった今二人が見ていた方に指を指す。
「わ……私、あっちも回ってみたいです!」
「クレーンゲームやりたいの?」
「やりたいというよりかは、どんな景品があるんだろうって……」
「ふ〜ん?…………でも、そう言われたら私もちょっと気になってきたな」
大きく背伸びをしながらカトレアは座っていた長椅子から立ち上がると、隣に座っていたアイシャの腕を掴んで引っ張る。
「ほら、行くよっ!」
「私はいいわ。あんたたち二人で行ってきなさい」
「も〜!またそういう面倒くさいこと言う!」
「……面倒くさくないし」
そう言って、アイシャはカトレアたちがいない方へぷいっとそっぽを向いた。
カトレアはそれを見ると、少しムッとしてから
「ほら行くの!……行くの行くの行くの行くの行くの行くのっ!!」
掴んでいたアイシャの腕を思いきり上下に振り回した。
「ちょっ……やめなさいっ……!…………分かった!行くわ!行くわよ!」
それを聞くと同時に、カトレアは満面の笑みを浮かべてその手をぱっと離した。
「よかった!やっぱりみんなで行かないとね!」
「…………あんた……」
怖いものを見るようにカトレアへ視線を向けるアイシャだったが、そのうちに、何かを諦めたのか長椅子からその重い腰を上げた。
そうして歩き始めた三人は、座っていた長椅子から見えていた、クレーンゲームが多く並ぶ一帯へと足を運んだ。
「お菓子にフィギュアにぬいぐるみに……結構いろんな景品があるね〜」
隣り合う筐体の中身を見比べながら、カトレアはゆっくりと足を進める。
「そうですね。こんなに沢山の景品を揃えるの、すごく大変そう……」
カトレアの歩く速さに合わせて、茶髪の少女は一つ一つの筐体の中身をじっくりと眺めていく。
「……ねえ!せっかくだしさ、何か一つ取って帰ったら?」
「え……でも、私……」
「大丈夫大丈夫!お金は出してくれるから……ねっ?」
そう言ってカトレアはアイシャの方に顔を向ける。
「……別に良いけれど、あんたも私と同じくらい持っているでしょう?」
「え〜?どうだろうな〜?」
おどけた調子で白を切るカトレアは、様々な景品に見入っている茶髪の少女の肩に軽く手を置いた。
「ほら!早く決めないと、タイムリミット来ちゃうよ〜?」
「え、あっ、ちょっと待ってください……!」
急かされた少女は、ほんの少しだけ見て回るペースを上げて、色々なおもちゃやお菓子を吟味していく。
そのうちに、
「…………あっ」
少女の足がぴたりと止まる。
「……?どうしたの?」
「…………いや……」
急に立ち止まったまま黙り込む少女を不思議に思いながら、カトレアは少女の視線を釘付けにしているものに目を向けた。
そこにあったのは、
「…………くまの、ぬいぐるみ……?」
少女が抱き抱えるには少し大きいような、ベージュ色をした熊のぬいぐるみだった。
「これがいいの?」
「…………」
カトレアの問いに少女は答えない。
どこか寂しそうな、あるいは懐かしそうな表情をする少女を見たカトレアは、
「…………」
静かに少女の側を離れる。
そしてアイシャに目配せをすると、未だ立ったままの少女に向かって声を掛けた。
「焦らないでゆっくり決めていいよ。私はアイシャちゃんと他のとこを見て回ってるから、取る景品が見つかったら教えてね」
そう言って、カトレアがアイシャと共に別の台を見て回ろうとしたそのとき、
「これがいいです」
茶髪の少女は二人の顔を見てはっきり言った。
「……本当にそれでいいの?」
「…………はい」
「……そっか」
何かの覚悟を決めたような顔をする少女を見て、カトレアは穏やかに笑顔を作る。
そして、
「じゃっ、張り切って取らないとね!」
元気よくそう言った。
「……!はい!」
「ほらほら!早くお金ちょうだい!」
「……あんた、私のことを財布か何かだと思っていない?」
そう言いながらアイシャは財布から硬貨を数枚取り出すと、茶髪の少女の手のひらに並べる。
「……足りなさそうだし、少し両替してくるわね」
「はーい!……よーし、それじゃあがんばろー!」
「おー!」
カトレアと共に掛け声を上げた少女は、渡された硬貨を意を決して投入口の中に入れた。




