SS級冒険者
それから数日後、俺たちは50階層のボス部屋にいた。
この50階層を踏破したのはかれこれ50年以上前らしく、いくつものパーティーが合同で討伐し踏破という偉業を成し遂げた。
それから今日までの間1度たりとも50階層を攻略したパーティーはいなく、ギルドでボスの情報だけは一応聞いてきたのだが、また食材ではなかった。
虚空が渦巻く玉座の間で、玉座に鎮座していたのは虚空王ゼノス。
ゼノスが重々しく立ち上がると空間が震え、周囲の重力が歪んだのがわかった。
「よくぞ辿り着いた人間よ。この50階層を……」
「長い」
ゼノスが長々と言葉を紡ぐ最中だった。
王というだけあって流暢に喋るんだなこいつ。これが美味い食材ならやる気も出たというのに…
リックは独り言のように呟きゼノスに向かって歩き出し、手にはいつもの愛剣が握られている。
フェンは食べられないことに苛立ち、八つ当たりかのように敵意を剥き出しだ。
言葉を遮られたゼノスが苛立ちを見せ、空間そのものを圧縮する衝撃波『虚空の収束』を解き放つ。
「なっ…、速い!予見している……だと?」
実際はただ歩き、見てから回避しただけなのだがゼノスが驚愕する暇すら与えず、フェンとリックは地面を蹴りあげていた。
「『終わりだ』」
たった一言。
フェンがゼノスの懐へ飛び込み鋭い爪で切り裂き、リックが剣で一撃。
もはやただの処刑に近かった。
「王も呆気ないもんだな」
『せめて美味ければな』
俺は玉座に座り一息ついた。
「お、宝箱。今回は何が入っているか」
【星喰らいの首輪】
自身の攻撃に次元切断の効果を付与することができ、対象の攻撃や対象物を虚空に追放することができる。
どのような防御障壁も効かない。
【虚空の結晶】
世界のどこかに存在する秘宝の位置を虚空を介して視認できる。
なるほど……すごくいい物だと思うし貰えるだけでもありがたいんだが、1つだけ言わせてくれ。
なぜ首輪なんだ。そこはブレスレットでもピアスでもなんでもいいじゃないか、なぜよりにもよって首輪にした。
「フェン、首輪を着ける気はあるか……?」
『む、我に首輪を着けようとしているのか?我は神狼だぞ』
「そうだよな、いくらフェンでも首輪は嫌だよな。食べたモンスターの骨や死骸、買った食べ物のゴミが虚空に捨てられるようになっても嫌だよな」
『それを早く言え!我に首輪を着けられるのは主だけだからな』
こいつはチョロい狼だ。
「よし、じゃあギルドに戻るぞ」
『うむ!』
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「リックさん、私の聞き間違いでしょうか?今50階層を攻略してきたと聞こえたのですが」
俺たちはギルドに帰還し、サブマスに50年振りの攻略を告げた。
「そうですか……いや疑っている訳ではないんです、この王が着けていたとされる鎧の提出とギルドカードに踏破の情報が出ているので」
ダンジョンを攻略したらギルドカードでわかるのか、それは是非全部攻略して踏破の文字を刻みたい。やりたいことが増えてしまった。
「やはり我々は少し勘違いしていたみたいですね」
「何がだ?」
「リックさんのことですよ。確かに強くてそれなりになんでも出来ると思ってはいたのですがまさかここまでとは。50年前の踏破だって100人近い合同パーティーで挑戦し3分の2は犠牲になっているのですよ」
「1人の王に100人もいるか?手持ち無沙汰で絶対何人かは暇なやつがいるだろうそれ」
「各県のギルドマスターたちと限られたサブマスでリックさんのランクについて見直しを話し合いまして、今回の横浜ダンジョンを単独踏破した際にはSS級に昇格という決断に至りました」
「え、何故だ?Sのままではだめだったのか?」
「今各県、それに各国どこにもS級はいませんが正直この先S級になりそうな人物はいなくもないのです。その方たちももちろん強いのですが、その方たちとリックさんを比べてしまうとどうしても差がありすぎるというか一緒にされるその方たちが可哀想と言いますか」
「仕方ない、SS級になろう」
「助かります。よく考えてください、普通S級になったとしても各県を走って移動はしませんし、緊急の救出要請だとしても数分でダンジョンの最下層に行きサクッと竜を倒してきたり、伝説の海龍蛇と友人になったり、100人規模でようやく倒せたボスを涼しい顔して単独踏破は出来ないのです」
「わかった、わかったからそんなに追い打ちをかけるようなことを言わないでくれ」
仕方ないではないか、出来てしまうのだから。
そして今まで金色のギルドカードだったが漆黒のカードに変わりフェンの毛並みとお揃いだな、と少し嬉しくなって帰宅した。
ここに初めてのSS級が誕生した瞬間だった。
「な、なあ。俺聞き間違いかな?50階層踏破って聞こえたんだけど」
「ああ、俺も聞き間違えたのかも。だって100人近く合同で半分以上犠牲者を出して討伐したボスを単独で……?」
「い、いやほら狼がいるし…」
「そもそもあの人本当に人間かも怪しくなってきた」
「俺たちには花妖精のメリルちゃんだけが癒しだよ」
「ねえ、あの人の受け取ったギルドカードの色が黒かったんだけど…」
「「「「──え?」」」」
こうしてリックたちがいなくなったギルドではリックの話で持ち切りだった。




