怪しい影
あれから数日、俺たちは簡単な依頼を受けたり街で買い物したりのんびりした日常を送っていた。ベヒモスを倒した翌日は浅草支部にて踏破報酬を貰ったり、盾役の弘樹に宝箱から出たベヒモスの守護指輪を渡し、そのお礼に食事を奢ってもらったりと少しのんびりしすぎたのかもしれない。
ダンジョンソロ踏破だ、それなりに噂になることは覚悟していたが。
「はぁ……」
『どうしたのだ主よ』
「主さま元気ないのです」
「さっき冬弥から浅草支部の周りで俺たちのことをコソコソと嗅ぎまわってる怪しいやつがいるって連絡がきてな、それは別にいいんだが他の冒険者とかにまで迷惑かけてるんだったらちょっと面倒だなって思ってな」
『我らのことを嗅ぎまわってどうするというのだ』
そこなんだよな、嗅ぎまわったところで何がしたいのかが全くわからないのだ。真羽みたいに弟子になりたいとかそういう雰囲気ではなさそうだし、ソロで踏破出来るわけがないとかそういうバカならいいんだがな。
とりあえず数日は浅草に行くのを控えて様子を見るしかないか。
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俺たちはついている。
普段は埼玉の冒険者ギルド川越支部で活動している俺たち“漆黒の剣”だが、たまたまいつもとは違うダンジョンにでも挑戦してみようと4人全員で浅草支部に来ていた。
ここは長年踏破されていなく序盤から出てくるモンスターも強い、俺たちBランク冒険者がAに上がるためには丁度いいと思ったんだ。
それなのに何故か支部の連中が連日お祭りムードなのが気になった。なにをそんなに浮ついているんだ?
──ありえない。どうやらソロでダンジョンを踏破したやつがいるらしい。いくら従魔がいるとはいえソロでベヒモスを討伐だと?
だがここにいるやつらは討伐されたベヒモスをみんなで食べたと話してやがった。
くそっ、それだと俺らがAランクになったところで大した噂にもならねえ。
だが、支部全員に肉を食わせられるほどどうやって持ち帰ったんだ?
そして俺は気付いた、高性能のアイテムバックを持っているのだと。
そいつをちょっと脅してアイテムバックを奪えば今後の俺たちのダンジョン探索がもっと進むことは間違いないし、売って金にするのもありだ。それだけで数年は暮らせるだろう、そして運が良ければ討伐したベヒモスの素材もあるかもしれないときた。
抵抗されたらダンジョンで待ち伏せして殺せばいい、死体は残らないからな。
やはり俺たちはついている。
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ん?浅草支部の熊のおっちゃんから連絡だ、珍しいな。
「バーベキュー以来だなギルマス、元気にしてるか」
「ああ、俺は元気だ。それと残念な報告だが、ギルドの諜報部員によるとコソコソと嗅ぎ回ってた怪しいパーティーはBランク漆黒の剣、普段は別の支部で活動しているがたまたまこちらに来ていてお前さんのソロ討伐の噂を聞いたんだとよ」
「それでなんで嗅ぎ回ってたんだ?」
「ベヒモスを持ち帰れるほどの高性能なアイテムバック目当てだ。ソロ討伐も従魔のおかげだと思ってやがるし、抵抗されてもBランク4人いれば勝てると思ってる。最悪ダンジョンで待ち伏せして殺して奪うと話していたらしい」
随分舐めた真似を。たかがBランクごとき4人集まったところで手も足も出ないというのに。
「こちら側はどう対応したらいい?」
「──本来なら警察に連絡して応援を呼んだりするんだが、必要なさそうだな。可能であればダンジョンなどで奇襲されてからの捕縛が一番ありがたい。問答無用で牢屋行きだからな」
「わかった、それでいこう。情報助かった」
「いや、こちらこそすまねえな。ダンジョン踏破した英雄だっていうのにこんなことになっちまって、横浜の警察本部に一言伝えておこう。奴らの受け渡しがスムーズになるだろうよ」
「ああ、今度酒でも奢るよ」
なるほどな、そんな理由で人を殺そうとするバカもいるんだな。
異世界では俺の名前が広まりすぎてそんなことをするやつはいなかったが、有名じゃないとこういうこともあるんだな、覚えておこう。
「フェン明日から少しダンジョンの上層で怪しいやつをおびき寄せるぞ」
『うむ、仕方あるまい。全くバカなやつらだ、我がいなくとも主は強いというのに』
「2人とも気をつけてくださいなのです!」
そして俺たちは毎日怪しいやつが来るまで横浜ダンジョンの上層で狩りという名の準備運動をしていた。
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「リーダー、あいつじゃないか?狼連れのソロ冒険者って」
「──確かに、噂で聞いた風貌に似てるな。しかも運良くダンジョンで見つけるとはやはり俺たちはどこまでもついているらしい」
「これであたし達もアイテムバック使えるようになるんだね!」
「ベヒモスの素材でお金が手に入ったら宝石でも買おうかしら」
リックたちにおびき寄せられてダンジョンに来ているなんて思いもしない漆黒の剣はすでに勝てると思っているのか呑気にそんな話をしていた。
「なあ、フェン。あいつらはバカなのか?いやバカなんだろうけどさ、大した隠れもせずに普通に話しててこちらが気づいているとは思わないんだろうか」
『思わないからバカなんだろう』
本当によくこれで今まで冒険者を続けてこれたなと逆に関心するレベルである。
いくら上層とはいえ隠れもせずモンスターにも無関心で自分たちの話ばかりだ。そんな奴らがようやく俺たちに近づいてきた。
「おい、そこのお前!お前が浅草ダンジョンを踏破したとかいうリックってやつか?」
「ああ、そうだが」
「へっ!バカなやつだ、違うと言っていれば少しは長生き出来たかもしれねえのにな!お前らやれ!」
どっちがバカなんだか。
「はぁ、フェン殺すなよ。手足の1本ぐらいはいいぞ」
『承知した』
──なんかこれでは俺たちが弱いものいじめしているみたいではないか。手足の1本ならいいぞとフェンに言ったからか、本当に爪で切り裂き相手は戦意喪失してしまった。血が流れすぎて死なれては困るので回復魔法で止血はしたが、全員粗相はするし涙やら鼻水やらで汚い。
俺たちは縄で縛った奴らを空間に入れ、警察本部に向かった。
「すまない、リック・ハンストンS級冒険者なんだがダンジョンにて襲いかかってきた奴らを捕縛した。冒険者ギルド浅草支部のギルドマスターから連絡がいっているはずなんだが」
「少々お待ちください、先日ギルドマスターから連絡がありすでに牢屋の準備が出来ているとの事でそちらまで警察官が案内致します」
すげえ、ギルマスの一言でここまで警察が動くのか日本って飯だけじゃなくてこういうところもすごいんだな。
「お待たせしました、ご案内致します」
俺は二人の警察官の後ろを着いて行きながら周りを見渡していた。本来なら冒険者が牢屋なんかに来ることはないだろう、そんだけSランクというのが凄いのか熊のおっちゃんが凄いのか。
そして俺は狭い牢屋に1人1人空間から出していった。こちらを化け物を見るような目で見てくるが、手を出したのはお前たちだと言ってやりたい。
「一応患部は止血してあるので死ぬことはないと思いますが、もしポーションが必要とかであればいつでも声をかけてください」
「いえ、その必要はありません。ダンジョンで殺意を持って襲いかかっただけでこの先牢屋から出てまともに生活することはできません。良くて薬の治験とかで使われるぐらいですかね」
「そうなのか」
「こいつらもBランク冒険者とはいえバカですね、唯一のSランク冒険者に手を出すなんて」
「え……S、ランク?」
反応したのはリーダーらしき男だった。
「そん、なの……知ってたら手なんか出さねえよ」
「そこで反省することだな」
これでようやく元の日常に戻れるな。ここ数日はいつ来るかと気が張ってたし、フェンとメリルにも迷惑かけたな。熊のおっちゃんにも差し入れしたいし、明日はとことん美味い飯を食ってのんびり休むか。




