出会った新人冒険者
今日は冬弥たちから連絡があった新人冒険者が横浜支部にやってくる日だ。
午前中との事だったから朝食を食べたらギルドに向かおう。当分はグルメダンジョンには行かず、近場のダンジョンか街中の依頼を受けながらたまに新人冒険者に指導をするぐらいでいいか。
「ん〜そういえばどんな奴か聞くのを忘れたな」
ギルドに着いたがどんな顔をしているかわからず冬弥に連絡しようとした時、声がかかった。
「あ、あのリックさんですか!?」
「──ん?そうだが、よくわかったな。冬弥たちが言ってた冒険者か?」
「はい!!大きな狼を連れているからすぐわかると言っていたので!」
なるほど、それで声をかけてきたのか。それにしても若いし元気だな…
「とりあえず朝食は食ったか?朝早いからまだ来ていないかと思ったんだが」
「お待たせするわけにもいかないので、朝一番に来て待ってました!朝食ぐらい食べなくても平気です!」
「いいから朝食は食え。ギルド内の酒場に行くぞ、食堂もやってるから簡単に腹に入れろ」
俺たちは酒場まで移動してサンドイッチを注文した。フェンには竜肉のハンバーガーとメリルには蜜を入れた紅茶だ。
──さっき朝食を食べたはずなのにな。
「あの、俺は夜桜真羽18歳です!パーティー希望の光の皆さんから強い冒険者がいると聞いて弟子にしてほしくて来ました!」
「ああ、冬弥たちから話は聞いている。今は弟子を取るつもりはないが時々指導をするぐらいならいいぞ」
周りの冒険者たちがコソコソと話している。
「真羽……あれはライオンっていうより犬だな」
「ええ、シッポと耳が見えるわ。大型犬ね」
「あの、リックさんに弟子入りとか羨ましいような気もするがよく頼み込んだな、俺なら命何個あっても足りねえよ」
なんて声が聞こえてくるが、そうか。真羽の由来はライオンなのか…確かに犬だな。ワンコだ。
「ワンコ、とりあえず毎日泊まるためにも依頼を受ける必要があるだろう。休みの日に訓練場で訓練だ」
「はい!ありがとうございます師匠!」
「まだ弟子を取ったつもりはない」
はあ、本当に大丈夫だろうか。ワンコ呼びでなぜか嬉しそうにしている真羽は放っておいて、とりあえず今日は顔合わせだけのつもりだから連絡先を交換して俺は帰宅した。
次の日何か依頼を受けようかとギルドに向かった。フェンは留守番でメリルは俺の肩に座っている。
「おはようございます師匠!今日は薬草採取に行ってきます!」
「ん、ああ。おはようワンコ」
すでに依頼を受けたようで元気よく薬草採取に出かけて行った。相変わらず朝から凄く元気だ。それよりこのギルドまた花が増えてないか?
「おはようございますリックさん、今少しよろしいでしょうか?」
「どうしたんだサブマス」
こちらをどうぞお箱に入った大量のお菓子や果物を渡された。なんでこんなに?
「他の冒険者の皆さんがメリルさんにと用意された物で貰ってあげてください」
メリルはここの支部のほとんどを誑かしたみたいだ。今も他の冒険者にありがとうなの!と手作り花冠を手渡している。
怖そうな顔をしている男たちまでも花冠を付けているというシュールな状態になってしまった。特に効果などはないんだがな…
なんか簡単な依頼でもないか掲示板を見に行こう。
「あれ、今日は大きい犬はいないのか?」
「ああ、さっき薬草採取に向かったよ」
「──いや、従魔のほうだが」
そっちか、ややこしいな。大きい犬は従魔だけで十分なんだがな。冒険者は声をあげて笑っていた。もう真羽は犬という枠でみんな共通みたいだ。
これにしよう、レストランからの依頼でオーク肉3体の提供だ。ダンジョンに行って狩ってこよう。
「師匠お疲れ様です!」
「うるさい、声が大きい」
「はい!!」
俺はダンジョンでオークを狩り、ついでに10階層ボスのミノタウロスも狩ってきた。
その宝箱からまた同じ剛力の腕輪が出たのでさすがに2個目は売ろうと思ったのだが真羽にあげるのもいいかと思いギルドにやってきたら、丁度よくうるさい真羽がいたというわけだ。
「ワンコ、腕をだせ」
「はい!!」
こいついつか誰かに簡単に騙されそうだな?
ここが異世界アステリアなら簡単に隷属の首輪を付けられ奴隷にされてそうだ、よかったなここが日本で。
俺は真羽の腕に剛力の腕輪を付けてやった。
「っ……!これすごいです、師匠!」
「10階層ボスを倒すと手に入る腕輪だ。割と簡単に手に入るが今のお前なら結構いい値段はするからな、筋力と身体強化がアップする。だからといって訓練は怠るなよ」
「はい!!」
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それから数週間がたった。
毎日毎日懲りずに弟子にしてくださいと元気よく挨拶してくるのがギルド名物になりつつあるが、時々ダンジョンに着いて行きゴブリンやコボルト、リザードマンとの戦闘の仕方などを教えている。前に比べると日に日に上手くなっていってる。
「師匠のおかげでCランクになれました!」
ギルドに向かうと真羽が元気よく報告してきた。元々真羽は冒険者学校を卒業したばかりの新人で、普通ならEランクからスタートするところを冒険者学校の卒業生はDランクスタートで開始できるのだ。それが1つあがりCになったということだろう。
「1人でオークも倒せるようになったので、今日からCになりました!師匠のおかげです!」
「俺はそんなに大したことは教えていない」
ダンジョンでの訓練を他の冒険者が見れば、どこが大したことないんだ!と言いたくなるが本人には自覚がない。
「ワンコ、訓練場に行くぞ」
「っ……はい!」
それは初めての事だった。今までダンジョンなどでのモンスターに対する指導はあったが、対人戦での指導が初めての真羽は緊張からかガチガチになっていた。
「本当にあの人が相手するのか……」
「いくらCランクになったからって荷が重すぎるだろう」
周囲の暇な冒険者や受付嬢たちが呟く。何人かはぞろぞろと訓練場まで着いていくのだった。
「じゃあ始めるか」
「は、はい!」
リックは剣すら持たない。開始直後、真羽が全力で斬りかかる。
「遅い」
リックはその場から動きもせず身体を少し捻らせてかわすだけだ。
次の一撃もその次もずっと。30分経っても一撃どころか掠ることすらできなかった。
「全く当たらねえ……」
「触れることすらできてないぞ」
「あの若造も悪くはないんだがな…」
周囲の冒険者が呟く中、真羽は考えていた。
速さでもダメ、正面からもダメ。
「なら……!」
わざと大振りを見せ、リックが避ける方向を予測した。それを目掛けて一撃。もちろんリックに当たることはなかったが、リックがニヤッと笑った。
「ほう。今のは考えたな」
「──っ!」
ただ振るだけじゃなくなった、考えながら振るようになったなとリックは真羽の成長に少し嬉しくなった。
数分後、もうとっくに限界に近いはずなのに何度転ばされても汗だくになりながらも何度でも立つ真羽に、リックは問いかける。
「なぜそんなに立ち上がる」
「強くなりたいんです!」
「それだけか」
「師匠みたいに人を助けられる冒険者になりたいんです…っ」
リックは壁に立てかけてあった木剣を手に取り構えた。
「おい、あの人が構えたぞ…!」
周囲がザワザワとしだした。
「最後だ、死ぬ気で一撃入れる覚悟で来い」
「はい!いきます!」
当然、当たりはせずその場で転がされた。
──だが、
「筋は悪くない。少なくとも頭を使うようになったな、明日も来るか?」
「っ……はい!ありがとうございます!皆さん聞きましたか!?師匠から褒められました!」
「ああ、聞こえてるよ。本当に弟子入りしちまうとは…」
接しているうちにリック自身、真羽のやる気と訓練も怠らないその真面目さに弟子を取るのも悪くないかと思い始めていたのだ。
いずれ成長して真羽が誰かを引っ張っていけるような存在になることを期待するのも悪くないか、と。
「師匠!それではまた明日よろしくお願いします!」
「ああ、また明日な真羽」
急に真羽が泣き出して周囲の冒険者たちが慌て出す中、真羽が嬉し泣きだとみんなを落ち着かせた。
「っ、初めて名前を呼ばれたんです。いつもワンコだったのに……!」
それに他の冒険者たちも気付き、“うおおおおおお”と少しお祭り騒ぎになったことにリックは気付かなかった。
「さて、帰って飯食うか」




