7階層へ行く
階段を見つけ7階層に降りてきたリックとフェン。
さっきより更に視界が暗くなった。通路の先はぼんやりとしか見えない。
『暗いな』
「この階は奇襲系が多そうだな」
リックがそう呟いた直後、鋭い鳴き声が聞こえた。暗闇から黒い影が飛び出した。
シャドウバット。
大型の蝙蝠型モンスターだ。群れで襲いかかり、暗闇の中で獲物を狩る厄介な奴だ。
───だが、
「遅い」
リックの剣が閃く。1匹、続けて2匹。
斬り裂かれたシャドウバットが床に落ちる。
さらに背後から迫った個体へ、フェンが前脚を振るった。
──轟音。
壁へ叩きつけられたシャドウバットは絶命していた。
『脆すぎないか』
「お前基準で言うな」
そのまま8階層に降りてきた。ここはさっきと違い広くなっていた。通路だけではなく、巨大な空洞が増えていた。
その中央、重い足音と共に現れたのは巨大な人型モンスター。
オーク。
分厚い筋肉を持つ怪力モンスターだ。手には棍棒を持っている。まともに受ければ人間程度なら簡単に潰れるだろう。
オークが咆哮をあげながら突進してきた。
床が揺れるがリックは動かない。
振り下ろされた棍棒を回避し、そのまま足元へ滑り込む。膝裏を切り裂き、体勢を崩したオークへ追撃。首筋に剣が突き刺さり、巨体が地響きと共に倒れた。
『うむ、肉が多そうだな』
「さては、食うことしか考えてないな?」
9階層は更に空気が張り詰めた。
リックは通路の途中で足を止めた。
「囲まれてるな」
静かだが複数の気配、確実に近付いている。
次の瞬間、青灰色の影が飛び出した。
ブルーウルフ。
通常種より素早く、群れで連携する危険なモンスターだ。
1匹が正面、もう2匹が左右へ回った。
完全な連携攻撃。
───だが、
『遅いぞ』
フェンが一歩前に出た途端、ブルーウルフ達の動きが止まった。
格上の捕食者、本能的恐怖。その隙をリックは見逃さない。一閃、さらに一閃。
剣が青い毛並みを裂き、瞬く間に3匹が倒れた。
───静寂。
リックは剣に付いた血を払う。
「そろそろ10階層のボス部屋か」
『主よ』
「ん?」
『帰ったら肉だな!』
リックは思わず吹き出した。疲労は浅いが、連戦続き。確実に集中力は削られていく。
10階層にはボスがいる、無理に進む必要はないな。
『帰るのか?』
「ああ、帰って飯食うぞ」
『──よし』
嬉しそうなフェンである。
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帰宅したリック達だが、フェンはすっかり家の中に入り定位置に。リックは面倒だが庭でオークとブルーウルフの解体を済ませていた。
ブルーウルフの肉は異世界ではあまり食用として売られていない。臭みが強くて硬いし、まともに調理できる人もいない。
──だが俺は知っている。血抜きと下処理をきちんと行い日本の調理技術と調味料があればこの肉は美味くなる。
キッチンに向かい解体したばかりのブルーウルフの肉を取り出した。
『狼を食うのか?』
「──嫌か?」
『いや、美味そうだ』
一瞬焦ったじゃねえか。そういえば共食いになるかな?とか考えたがうちの従魔は割とドライな性格らしい。
この肉は赤身だからローストビーフならぬ、ローストウルフにしよう。そうしよう。
まず塊が大きすぎたので切り分ける。筋を落とし、余計な脂も取り除いていく。
次に、塩胡椒を結構強めに振る。にんにくチューブとローズマリーを肉へ擦り込むと野性味のある香りが少しずつ変わっていった。
『草を塗っているのか?』
「臭み消しだよ」
『肉は肉の匂いでいいだろう』
「ほんとそういうところだぞ」
肉を少し休ませている間に、フライパンを火にかけた。じわじわと熱されたフライパンにバターを入れる。
溶けた瞬間、ブルーウルフの肉を置いた。
────ジュウウウッ!
激しい音と香ばしい香りが一気に広がった。
『───!!!』
フェンの耳もピクピクしているが見なかったことにしよう。
表面の焼き色がつく、何度も触らない。片面ずつ、じっくりじっくり肉汁を閉じ込めるように焼いていく。
焼き色が付いたところで火を弱める。溶けたバターをスプーンですくい、肉にかけていく。…すでに美味そうだ。
香草の香り、肉の焼ける匂い。静かな部屋に、ジュウゥゥ…と肉の焼ける音だけが響いていた。
『拷問か?』
「まだ食えないぞ」
『理不尽だぞ』
焼きあがった肉はすぐには切らず、アルミホイルで包んでおく。
その間に付け合せのじゃがいもや人参、キノコ。軽くソテーされた野菜を皿に並べていく。
最後に肉を薄く切り分ける。断面から透明な肉汁が静かに溢れる、美しいローストだった。
「いただきます」
肉を1切れ口に運ぶと、最初に来るのは香ばしさ。次に赤身の濃い旨み。噛むほどに肉汁が広がり、香草の香りが後から抜けていく。
「───当たりだな」
フェンも待ちきれない様子でかぶりついた。
『─────』
「どうだ?」
『野性の味がする』
「褒めてる?」
『美味い!』
シッポが激しく揺れていた。
──窓の外はすっかり暗くなっていた。
次は10階層のボスとの戦いが待っている。だが、今だけはそんなことを忘れられた。
美味い飯を食い、隣には肉を頬張っているフェンもいる。明日もきっといい1日になりそうだ、とリックは小さく笑った。




