6階層へ行く
すき焼きを食べた日から2日後の朝。
「フェン、前のダンジョンの続き探索しにいかないか?」
『うむ、いいだろう。前は我が出るまでもなかったからな』
────今回も出る幕があるかはわからないが黙っていよう。
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前回と同じ横浜ダンジョンまで来た。
どこのダンジョンも仕組みは同じなのだが、入口の転移陣に乗り念じると自分が行ったことある階層までなら転移できるようになっている。
「フェン、前回行った5階層までは転移で行くぞ」
『うむ』
リックとフェンは5階層には用がないといわんばかりにモンスターをスルーしながら6階層への階段を見つけた。
階段を降りた瞬間、リックが少し目を細めた。
「────空気変わったな」
湿った冷気で壁には苔が増え、通路には浅い水溜まりができていた。
ぽちゃん、とどこかで水滴が落ちる音。5階層までとは違う、初心者向けの空気はもう薄い。
周囲を歩く冒険者達も静かだ。武器を抜いたまま進む者や、パーティー同士で距離を確認し合うもの。
────全員、警戒している。
『ここからが本番か?』
隣を歩くフェンが呟く。
「まだ入口みたいなもんだ」
リックはそう返しながら通路の奥へ視線を向けた。その時、気配察知に殺気が引っかかった。
────ちゃぷん。浅い水を踏む音。その直後、鋭い突きが暗闇から放たれた。
リックは半歩横へずれる。暗闇の奥から現れたのは、緑色の鱗を持つ異形。
二足歩行の蜥蜴だ。縦に裂けた瞳が獲物を射抜くように細められている。
リザードマン。
片手には鉄槍、もう片方には丸盾。低層のモンスターとは一線を画す“戦士”だった。
リザードマンとは、鱗による高い防御力に加え、武器を扱う知能も持つ。単純な身体能力も高く、特に危険なのが槍だ。
不用意に距離に入れば一方的に串刺しにされる。
リザードマンが踏み込んでくる。
──速いな。
低層のモンスターとは比べ物にならない鋭さで槍が突き出された。
喉、胸、腹。的確に急所だけを狙ってくる。
だが、
「甘い」
リックは槍の軌道へ手を添えるように流し、そのまま懐へ潜り込んだ。一閃。
剣が鱗の隙間を裂く。
リザードマンが呻き声を漏らし崩れ落ちた。
『───弱いな』
「いや、普通は強い部類だぞ?」
リックは倒れたリザードマンを見下ろす。
実際、初心者冒険者なら苦戦して当然だ。
鱗は硬いし、武器も使う。しかも単独行動も少ない。
────その証拠に、さらに複数の気配が近付いてきていた。
暗闇から現れたリザードマンは3体。槍持が2体に後方には弓を構えた個体までいる。
『ほう』
フェンがわずかに目を細める。
「6階層らしくなってきたな」
次の瞬間、矢が飛んできた。
一直線、狙いはリックの頭部だ。だがリックは避けなかった。
甲高い音。
剣によって弾かれた矢が壁に突き刺さったと同時に左右から2体のリザードマンが踏み込んできた。
挟撃。
槍の穂先がまるで示し合わせたように同時に迫ってきた。
『──連携しているな』
フェンが感心したように呟いた。
「6階層からこういうのが増えるぞ」
リックは一歩、床を蹴り前に踏み込んだ。
槍の間へ身体を滑り込ませる。
「────っ!?」
リザードマンの瞳が見開かれた。
近すぎて最も槍が扱いにくい距離だ。
リックの剣で一撃。まずは1体、そのまま返し刃でもう1体。槍が床に落ちリザードマンは崩れ落ちた。
だが、後方の弓持ちが再び矢を放つ。しかも今度は1本ではなく2本だ。
「悪くない」
リックがそう呟いた次の瞬間、巨大な影が前へ出る。
─────バンッ!
フェンの前脚が矢を叩き落としていた。
『鬱陶しい』
金色の瞳が弓持ちを射抜く。その瞬間、リザードマンは硬直していた。
本能的な恐怖、格の違い。弓持ちが一歩後退りした。
『威嚇しただけだ』
リックは苦笑いしながら弓持ちの方へ向かって歩く。リザードマンは弓を構えるもその手はわずかに震えていた。
リックの踏み込みは一瞬だった。剣が鱗の隙間を裂き、崩れ落ちるリザードマン。
────静寂。
水滴の音だけが、再び通路に響いていた。
リザードマンの討伐証明の喉元にある逆鱗と、解体はめんどくさいけどいつか使うかもしれないと鱗を何枚か収納し7階層に向けて歩き出した。
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「───今の見たか?」
少し離れた場所で戦っていた冒険者パーティーが呆然と立ち尽くしていた。
6階層のリザードマンをほぼ圧倒的に倒していた。しかも、あの大きな狼までいる。
「あいつ……何者だ?」




