すき焼き
スーパーから帰宅するとフェンが玄関で出迎えてくれた。
『主よ、遅かったな』
「ごめん、調味料見てたら時間あっという間だった」
何もないならいいとフェンはリビングに戻った。心配してくれたのか?可愛いやつめ。
キッチンに行き買ってきたものを閉まっていく。冷蔵庫よりインベントリの方が優秀なので野菜とかはインベントリのままだが調味料や細々したものは棚に置いておく。
「さて、すっかり昼ごはんを作る時間になってしまった」
夜は買ってきたもので作りたい料理があるので昼は昨日のシチューをアレンジして、“なんちゃってクリームパスタ”だ。
「夜は肉だから、昼は昨日のアレンジだけど一緒に食べよう」
フェンは夜が肉と知り機嫌が良くなったのかペロッと完食していた。ごちそうさま。
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フェンとすっかり昼寝をしてしまい気付いたら夕方になっていた。夜寝れるだろうか…?
まあ、いいかと思い夕食前にフェンと一緒にお風呂に入った。
『うむ、やっぱり風呂上がりはこの“コーヒー牛乳”よ』
フェンの最近のお気に入りは風呂上がりのコーヒー牛乳だ。さすがに毎日風呂には入らないかと思っていたのだが、コーヒー牛乳飲むためにほぼ毎日入っている狼だ。
入らないよりはいいんだけどね…。
「よし、夜ご飯の準備するか!」
リックはキッチンに向かい必要な材料を取り出した。
白菜に長ネギ、椎茸や豆腐、しらたきなんかもある。─────そしてドンっと大量の薄く切られた牛肉を取り出した。
『───肉だ!!』
「今日はすき焼きだよ」
『すきやき』
初めて聞く単語にフェンの耳はピクピクして、すきやき…すきやき…と覚えるかのように呟いていた。
まず、白菜をざく切りにし長ネギは斜めに切っておく。他にも豆腐や椎茸を切るが食べるのは自分たちなのだ、切り方は適当でいい。こういう所が大雑把なのだと思う。
その横ではフェンが落ち着かないのかソワソワしながらこっちを見ていた。
『それ全部入れるのか?』
「鍋料理だからな」
『──肉だけでは駄目なのか』
「バランスってもんがあるだろ」
ちょっと納得していない顔だが、気にしない。
卓上コンロに火をつける。今回はレシピで調べた“関西風”とやらの作り方にする。次は関東風でもいいな。
熱された鍋に牛脂を入れる。じゅわりと音を立てながら脂が溶けた。
そこに牛肉を入れ、割り下を注ぐ。途端に甘い香りがぶわっと部屋中に、割り下が煮立つ音と共に食欲を刺激する匂いが一気に広がった。
『──────』
フェンが完全に鍋に釘付けだな。
「まだだぞ」
『わかっている、待てる』
そう言うがシッポは激しく揺れているけどな。
肉の色が変わり始め野菜も入れていく。
ぐつぐつと音を立て煮えた野菜が沈み、鍋いっぱいに旨みが広がっていく。
「よし、食べるか」
リックは小皿に溶き卵を用意する。それをフェンがじっと見ていた。
『主、それはなんだ?』
「卵だよ」
『──生だが』
「つけて食うんだよ」
フェンは理解できないというような顔をしている。
リックは肉を卵にくぐらせ、1口食べる。
甘辛い割り下に柔らかな牛肉、そこへ卵のまろやかさが絡み…
「───うますぎる」
『早く寄越せ!』
フェンは恐る恐る卵にくぐらせた肉を食べた。
─────数秒の沈黙。
『なんだこれは……』
「どうした?」
『肉が消えた』
「は?」
『──柔らかすぎる!甘いのにしつこくない。そしてこの白い粒がうまい!』
「米な」
フェンは夢中で米をかき込んだ。
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満腹になったフェンはいつもの定位置で伏せて丸くなっていた。
『───すきやき、危険だ』
「何がだよ」
『戦う気力が失せるのだ』
リックは思わず吹き出した。確かに、と思う。暖かい部屋で腹いっぱいのご飯、隣には気の許せる存在。
もう、異世界で命を削っていた頃にはきっと戻れない時間だった。




