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桜迎夢(サクラゲーム)  作者: 城火 涼


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4/5

悪夢〜生存シロ〜

 …和み屋の扉の前にキクを除く四人が揃う。

「はあ、ついにこの日が来たのか」

 イナホの声はいつになく沈んでいる。無理もない、そろそろ日付を替えなければ、店の食材がないのだ。ゲームに入って、体感5日目だ。ゲーム内で六時間に一回大音量の鐘が鳴る。それをベースに生活しているが、未だに慣れない。

 太陽の上がらないと体内時計が狂う。それに、気持ちもなんとなく沈んでくる。さらに言えば、足が筋肉痛で歩く度に痛む。原因はわかっている。発電だ。



「も…、はあ……はあ……は、無理…」

「しばらく休んだら?」

「…そ、そうする…」

 隣で自転車を降りたイナホが床に崩れる。船が停電してから俺達は一度寝た後、ひたすら発電の為に自転車を漕ぎ続けている。

「二人とも、お疲れ様です。お茶を飲みますか?」

 液体の入った瓶を両手にアズキが現れる。瓶には水滴が付いており、冷えてそうだ。

「やった!そういえば、アズキは何してたの?」

 イナホが即座に飲み物に飛びつく。

「街を探検してますよ。東の方に市場、北の方には貿易港、西の方は住宅街でしたね」

 確か、この場所は南に位置する。近くには、家具屋や服屋が並ぶ。食べ物買うなら東、物を買うなら南といったところか。あとは、占い屋なんかも近くにあったはずだし、和み屋もあるくらいだから、胡散臭い系も南なのだろう。

「結構遠くまで行ったんですね」

「いえいえ、ぐるっとお城を一周しただけなので、詳しくは見てませんよ。…それより、キクは?」

「声掛けたんですけど、一人でクリアするって…。扉越しに情報共有とかはしてるんですけど…」

「えっ、ウチが声掛けたら『煩い』しか返ってこなかったよ」

「いや、俺も毎回ちゃんとした返事が返ってくる訳じゃないからなあ。まあ、数打ちゃ当たるってね」

「…要はキクが、相当の気分屋って事でしょ」

「うーん、キクについては私から何か話すより、マッチャにお願いした方が良さそうですね」

「はは、俺の力で何か変わるとも思えませんけどね。ただ今後も情報は共有していくつもりです」

「十分です。ありがとうございます」



「では、そろそろ入りましょう」

 アケボノの声で意識が現実に戻される。『和み屋』と書かれた扉の先、10畳ほどの広いスペースに一つの机。その上に水晶玉が置いてあるだけだった。出入口以外には扉はない。つまり、この水晶玉をどうにかして悪夢と戦うのだろう。

 最後にイナホが入ると扉がゆっくりと閉まった。そして、部屋がスゥッと薄暗くなった。辺りを見渡すと、正面の壁に光の文字が浮かんだ。


『夢ハ六ツニ分ケラレル。

一、夢ノ主ガソノママ夢ニ入リ、夢ノ中ダト気付イテイル。

二、夢ノ主ガソノママ夢ニ入リ、夢ノ中ダト気付イテイナイ。

三、夢ノ主ガ別ノ誰カトナリ、夢ノ中ダト気付イテイル。

四、夢ノ主ガ別ノ誰カトナリ、夢ノ中ダト気付イテイナイ。

五、夢ノ主ガ全体ヲ眺メ、夢ノ中ダト気付イテイル。

六、夢ノ主ガ全体ヲ眺メ、夢ノ中ダト気付イテイナイ。』


「何これ?」

イナホは最後まで読まずに尋ねる。

「毎回出てくるんですよ。悪夢に入るメンバーで水晶玉を触れば、お題が出てきます」

 アケボノが光の文字に触れると、文字は小さな粒となって弾けた。そしてまた、粒が集まって、元の文字となる。

「お題…?」

「クリア条件、と言ったところでしょうか。おそらくですが、アズキの特殊能力もお題の後に使えると思いますよ」

 そういってアケボノはゆっくりと移動し、出入口の前に立つ。そこから動く気はないようだ。

「アケボノは行かないの?」

「ええ、私が居ても何も出来ませんから」

「待って待って、安心感が全然違うから。行こう。お願い!ほら、説明してもらいながらの方が安全そうだし、ね?」

 イナホのお願いにアケボノは優しく微笑む。数日でかなり懐いたみたいだ。

「百聞は一見にしかず、です」

「えー」

「イナホ、行きましょう」

「はーい…」

 アズキの呼び掛けに渋々返事をする。


 アズキ、マッチャ、イナホが水晶に触れると何処からか煙が出てきた。煙はどんどん濃くなり、あっという間にお互いと水晶以外は何も見えなくなった。

 煙は三人を飲み込むと、それ以上広がらずに球体のような形を保っている。アケボノの方はというと、煙の外側からその様子をじっと眺めている。


『生存シロ』

 ふと頭に声が響いた。重くて、低い、でもはっきりとした声だ。

「え、お題ハードすぎない?てか、これじゃあどんな悪夢かわかんないじゃん!」

「イ、イナホ。落ち着いて…」

「あ、…」

「先生?どうしました?」

「ああ、どうします?」

「え?何をですか?」

「………もしかして、今の声は聞こえていませんか?」

「生存シロってやつですよね?」

「ええ、それからその後に『服装ヲ選べ』と」

「それは俺には聞こえていないですね。イナホは…」

「無理だ無理だ無理だ…」

 イナホを見れば、小声でぶつぶつ呟いている。今まともに会話するのは難しいだろう。

「えーと、とにかく、先生の特殊道具の力ってことですよね。それで、服装はどうするんですか?」

「いざ選べと言われても、お題がお題ですからね。どんな悪夢が待ち受けているやら」

「生存シロって事は死ぬ場面若しくはこれからそうなる場面ってことですよね?」

「ええ、後者の方が回避できる可能性が高そうですね」

「では、前者であると思って準備した方がいいですね」

「では次にどんな死ぬ場面か、というところですね。死、といっても様々ありますしね」

「はい。溺死って事で、夢に入った途端海の底だったりして…」

「若しくは処刑真っ只中かもしれませんしね」

「…ゾンビが来るとか?……無理無理無理無理…」

 いつの間にか話に参加していたイナホは、自身の言葉でまた落ち着きを失った。

「……挙げ出したらキリが無いですね。では、今それぞれが挙げた死を回避する服装にしましょうかね」

「え、俺たちの服装も出来るんですか?」

「ええ、そのようです。マッチャは潜水服、イナホは自衛隊の服、私は死刑執行人とします」

「何故、先生はその服なんですか?」

「死刑の回避方法が思いつかず、『本当の死刑囚は別にいる!』と言って誤魔化そうかと」

 マッチャとイナホの顔に、不安という文字が浮かぶ。

「死を回避出来た者は、他の者も助けること。いいですね?」

「はい」


『デハ手ヲ離セ』

 頭の中に響く声に従い、三人が水晶から手を離すと服装が変わり、煙が晴れた。気がつけば水晶もない。いや、それよりも、何よりも……落ちている!


「え、な、ど、どういう事!」

 下を見れば雲に隠れて地面が見えない。

「みんな外れてしまいましたね。ははは」

「先生、笑い事じゃないですよ…」

「何で!二人とも呑気なの?ひー、無理無理無理無理。高いとこは好きだけど、落ちるのは無理ー!」

「地面に着くまでに何とかしないとな」

「そうですね…私の特殊道具は事前(・・)でなければ使えないようですし、お二人は?」

「俺のも、記憶関係なので無意味ですね。あ、先生はコケたって事にすれば、生存可能では?」

「確かに、出来ますかね?」

 アズキがそう言った途端、消えた。

「え?アズキは?」

「…おそらくだけど、先生はお題クリアって事だろうね」

「え、一人一人居なくなっていく感じ?」

「みたいだね。で、イナホの能力って暴食だっけ?」

「う…うん。認めたくないけど。かといって、ずっと空腹って訳じゃないからね。ずっと腹八分以上いかないってだけで普通だから!別に食べ物食い尽くしたりしないから!」

「あ、う、うん。わ、わかってるよ。うん、凄い能力だよね」

 イナホの勢いに押される。

「はぁー、あとは夢の中で皿出せるってだけ。あーあー。ウチもアズキみたいに、身体が強化されるやつがよかった。てか、いつまで落ちるんだろ………………無理無理無理無理無理無理…」

「………それだ!」

「無理無理無理無理…」

「イナホ!」

「無理無理無理」

「イナホってば!」

「な、何!下ヤバい。地面見えた。無理、もう無理」

「皿出して!」

「え?」

「出来るだけ大きくて強い紙皿。無理なら沢山出して!」

「だ、出し方分かんな…っておお!」


 イナホの横に、中華料理屋さんの出前のような銀ボックスが現れる。イナホが中に手を入れ、思いっきり引っ張ると皿が出てきた。その銀ボックスに入っているとは思えないほど大きな紙皿が。マッチャはすぐさま縁を掴む。

「イナホ!お皿から手を離さないで!」

「り、了解!」

 マッチャは皿を挟んでイナホの真反対へ少しずつ移動していく。二箇所から柔らかい紙皿を抑える事で、どんどん半分に折れていく。

「イナホ!もう一枚」

「う……了解!」

 紙皿がもう一枚現れ、二人は元の一枚に重ねようとする。イナホは紙皿を出す時、片手になる。その上、二枚目を一人で保持している為、長時間は保てない。マッチャもまた、二枚目の紙皿が風に煽られ、掴めずにいた。

「も、もう無理…」

 イナホの声は小さく、マッチャにも届かない。イナホの力が抜けかけた時、イナホの身体の落下速度が落ちた。少し浮き上がったのだ。

「そうか、力を抜けば…」

 すぐさまマッチャも力を抜く。すると一枚目の皿が広がり、落下スピードが低下した。その隙にマッチャが二枚目も掴む。

 二枚重なった皿は折れ曲がる事なく空気を受ける。二人が要らない力を抜いた事もあり、落下は一気に弱まった。



 次の瞬間には、水晶玉の部屋に座り込んでいた。服装はもとの民族衣装に戻っている。手を見れば、疲労か恐怖からか、震えていた。



〜キク〜

 もう、今頃全員悪夢退治に行ったはずだ。今のうちに、和み屋の中を調べておくか。

「…なさい。……ですね……」

 どういう事だ?話し声が聞こえる。声からして、アケボノとアズキか。

 キクは扉にそっと近づくと、耳をあてた。

「まさか、悪夢が空中ジャンプだとは思いませんでしたよ」

「夢は人それぞれですから。しかし早かったですね。流石です。貴方達なら、今度こそクリア出来るかもしれません」

「…アケボノ、貴方、まだ何か隠していますね。いえ、隠しているというよりも、話していない事がありますよね」

 ゴクリと喉がなり、キクは慌てて息を殺す。


「クリアするた…は、ある悪夢を退…けれ…………りま……」


 は?どういう事だよ?……その話が本当なら、誰か一人最低でも犠牲にしないと、桜は咲かない。つまり、ゲームクリア出来ない。

 いや、オレには関係ねーな。もともと一人でクリアする予定だ。他の人がクリア出来ようが出来なかろうが、どっちでもいい。

 ……とはいかないか。だって、誰かを犠牲にしなければならないから。表向き協力しつつ、深入りしない。それがクリアする上で一番現実的だな。



〜アズキ〜

 キクが扉の前から去った後も話は続いていた。

「他にも聞きたいことがあるのでは?」

「はは。お恥ずかしい。実は、ずっと聞きたかった事があります」

「ええ。私も先が長くはありません。聞けるうちに聞いてください」

「それでは。『ひとみ』という名をご存知でしょうか」


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