第二部 第47話「戦後と帰還」
第二部 第47話「戦後と帰還」
ボスが倒れたあと、戦場に残ったのは、静寂と荒れた地形だった。
落とし穴はほとんどが崩れ、踏み固められていたはずの地面は掘り返され、そこかしこに死骸が転がっている。
勝利ではあった。
だが、綺麗なものではない。
リックはその光景を一度だけ見渡し、次に視線を動かして周囲の気配を探る。
逃げたザコの気配は、すでに遠い。
追う必要はない。
「……終わりだな」
小さく呟き、それ以上は深く関わらない。
やるべきことは、もう戦いではなかった。
「回収に入れ」
短く指示を出す。
それだけで、ザクトの護衛隊が動き出す。
死骸から素材を剥ぎ取り、使えるものを選別し、手際よくまとめていく。
その中には、見慣れない素材も混じっていた。
今回の規模だからこそ手に入るものだろう。
リックはそれを確認するが、特に手を出すことはない。
「全部、持っていけ」
一言だけ告げる。
護衛の一人が顔を上げる。
「……いいのか?」
当然の疑問だった。
だが、リックは迷わない。
「実際にやったのはお前たちだ」
それだけだった。
無駄な言葉はない。
だが、その一言で十分だった。
護衛隊の空気が変わる。
納得と、わずかな高揚。
その中で、一人が倒れたボスの方へ視線を向ける。
「……これは別だ」
ゆっくりと口を開く。
「これだけは、旦那が持ってくれ」
周囲も頷く。
異論はない。
リックは一瞬だけボスを見て、軽く息を吐いた。
「……分かった」
それだけで決まる。
象徴としての分配。
その意味を理解している者だけが、静かに受け止めていた。
その後、目立った戦闘はなかった。
警戒は続けたまま、隊列を維持しながら進み、やがてザクトの村の外に設けられた仮の拠点へとたどり着く。
すでに人は集まり始めており、簡素ではあるが、休むだけの環境は整えられていた。
「戻ったか」
ザクトがこちらを見る。
その視線はすぐに状況を読み取り、深くは聞かない。
リックは短く報告する。
「問題ない。終わった」
それで十分だった。
ザクトは鼻で笑う。
「だろうな」
それ以上の言葉はない。
すでに理解している。
リックはそのまま村人たちの方へ向き直る。
「集まれ」
声は大きくない。
だが、確実に届く。
全員が自然と集まる。
「ここは仮の拠点だ」
その一言で、空気がわずかに揺れる。
だがリックはそのまま続ける。
「二日か三日、ここで休め。まずは体を戻す」
疲労は隠せない。
無理をさせる理由はなかった。
「そのあとで移動する」
視線を全体へ向ける。
「最終的には、新しい村を作る。そこに来てもらう」
期待と不安が混ざる。
だが、リックは言葉を濁さない。
「最初から整っているわけじゃない。建物は掘っ建て、区画も未整備だ」
現実をそのまま出す。
「不便になる」
はっきりと言い切る。
だが――
「その代わり、守る」
短い言葉だった。
「ここまでみたいなことにはならない」
その一言で、空気が変わる。
誰もが理解する。
ここに来るまでに何があったのかを。
「だから、まずは休め」
それで終わりだった。
余計な説明はしない。
だが、迷いもない。
そのあとを、マグロンが引き継ぐ。
「皆さん、安心してください」
柔らかい声が響く。
「食料や水は確保していますし、こちらでもできる限りの準備は進めています。無理に動く必要はありません」
言葉を補うように続ける。
「新しい村についても、段階的に整備していきますので、最初からすべてを背負う必要はありません」
不安を削るような話し方だった。
「私の方でも、町づくりに関してできることは手配していきます」
軽く頭を下げる。
その姿勢に、村人たちの表情が少しだけ和らぐ。
マグロンはそれを見て、内心で息を吐いた。
リックの言葉は正しい。
だが削られている。
必要な部分だけを残している。
だからこそ、自分が補う。
それが役割だと理解していた。
「……どうにか、なるか」
小さく呟いた、その直後。
「おい」
横から軽く小突かれる。
「っ……何ですか」
振り向くと、ザクトが立っていた。
「お前、美味しいとこだけ取ってくなよ、バカ野郎」
呆れたような声。
だが、どこか笑っている。
マグロンは苦笑する。
「取ったつもりはないんですがね」
「どうだかな」
ザクトは肩をすくめる。
「大事なとこは全部あいつがやって、最後だけお前が持ってったように見えるぞ」
視線の先にはリックがいる。
すでに次のことを考えている。
「……そう見えるなら、そういう役割なんでしょう」
マグロンは静かに返す。
ザクトは鼻で笑う。
「まあいい。あいつだけじゃ足りねぇのは確かだ」
短い言葉。
だが、それは認めたということだった。
マグロンはわずかに視線を落とす。
「分かっていますよ」
小さく答える。
前に立つ者と、支える者。
その形は、すでに出来上がっていた。
ザクトはそれ以上何も言わず、その場を離れる。
「ちゃんとやれよ」
背中越しの一言。
マグロンはわずかに笑う。
「言われなくても」
その言葉には、もう迷いはなかった。
リックは少し離れた場所から、その一連の流れを一瞥する。
何も言わない。
だが、止めもしない。
それでいい。
すでに、形はできている。
「……ここからだな」
小さく呟く。
戦いは終わった。
だが、本当の意味での仕事は、これからだった。




