第二部 第41話「信頼と決断」
第二部 第41話「信頼と決断」
リックはザクトとマグロンに向き直ると、その場で指示を出した。
「準備ができ次第、すぐに村人を迎えに行ってほしい。それと、村の外に仮の拠点を作る。そこにも人を分けてくれ」
要点だけを簡潔に伝える。
ザクトは迷わず頷いた。
「分かった、旦那。すぐ動かす」
リックは続ける。
「あと、安全だけは最優先で頼む。人を助けに行って、そっちが死んだら意味がない」
短く、はっきりと告げる。
ザクトは軽く息を吐き、口元を歪めた。
「分かってる。無茶はしねぇよ、旦那」
軽い調子だが、言葉は確かに受け止められている。
リックはさらに言う。
「仮の拠点ができるまでは、お前の店を拠点にさせてほしい。何かあったら、とりあえずそこに集まる形にする」
ザクトは短く頷いた。
「構わねぇよ。好きに使え」
リックはマグロンへ視線を移す。
「そっちも同じだ。ザクトと同行する分と、仮拠点に常駐する分で人を分けてほしい。その間はザクトと密に動いてくれ。できれば店の方に来てもらった方が助かる」
マグロンは状況を整理するように目を伏せ、それから静かに頷いた。
「承知しました。食料と人員、両方で分けて手配いたします。ザクトさんのもとで連携を取ります」
それで十分だった。
話はすでに動き始めている。
リックは背を向け、そのまま拠点へ向かった。
足は止まらない。
やるべきことは、すでに決まっている。
拠点に戻ると、そのまま全員を呼び集めた。揃ったのを確認した瞬間、間を置かず口を開く。
「村がやられた」
短い一言で、空気が変わる。
全員の視線がリックに集まる。
「稲作の情報を仕入れようとしてた村だ。壊滅状態らしい。生き残りはいるが、散り散りに避難していて、まとまった状態じゃない」
簡潔な説明だったが、意味は重い。
理解しようとする気配と同時に、疑問が浮かぶ。
「……それで、どうするの?」
率直な問いだった。
「正直、関係ある話なの?」
別の声が重なる。
無理もない。縁もゆかりもない村であり、関われば危険もある。助ける理由は見えない。
リックはその視線を受け止めた。
「分かってる」
一度、全員を見渡す。
「関係ないっていうのも、その通りだ」
否定しない。だからこそ、次の言葉に重みが乗る。
「でも、必要なんだ」
静かに落とされた一言に、誰もすぐには反応できない。
リックは続ける。
「稲作は、これから必要になる。安定して食料を確保できる手段だ。このままだと、いずれ限界が来る」
視線が変わる。
理屈として理解できる話だった。
「村ごと来れば、人も技術も揃う。拠点も強くなる」
現実的な理由が積み上がる。
それでもなお、言葉は続く。
「……必要なんだ」
同じ言葉。
だが、今度は意味が違う。
理屈も計算もすべて含めたうえで、それでも譲れないという意思が込められていた。
沈黙が落ちる。
その中で、リックは一歩前に出ると、ゆっくりと頭を下げた。
「頼む」
全員の動きが止まる。
命令ではない。
強制でもない。
対等な立場でのお願い。
その重さは十分だった。
沈黙が続く。
だがそれは迷いではなく、受け止めるための時間だった。
やがて、一人が息を吐く。
次に、もう一人が頷く。
空気が少しずつ変わっていく。
疑問は消えていない。
それでも、それ以上に納得と覚悟が広がっていく。
ここまで示されて、断る理由はない。
全員の意志が揃う。
リックはゆっくりと頭を上げた。
もう言葉はいらない。
そのとき、静かな声が入る。
エレノアだった。
「……どう動くの?」
感情ではなく、判断の声。
すでに次の段階へ進んでいる。
リックは短く頷いた。
「決めてる」




