第二部 第40話「動き出す三つの役割」
第二部 第40話「動き出す三つの役割」
ザクトの店を出た直後、リックは迷わなかった。
足を止めることもなく、そのまま言う。
「マグロンのところに行く」
短い。
だが十分だった。
後ろを歩くザクトは、特に何も言わない。ただ当然のようについてくる。話はもう始まっている。
向かう先は決まっている。
マグロンの店だ。
扉を押し開ける。
中はまだ明かりがついていた。
リックはそのまま声をかける。
「まだやってるか」
奥からすぐに反応が返る。
「ええ、問題ありません」
マグロンが姿を見せる。
だが、その表情は普段よりわずかに硬い。
空気が違う。
リックは無駄な前置きをしない。
「ザクトから聞いた」
それだけで通じる。
マグロンは小さく頷き、言葉を選ぶように口を開いた。
「……村は、ほぼ壊滅状態です」
淡々とした説明だった。
だが、内容は軽くない。
「生存者は確認されています。ただ、散り散りに避難しており、まとまった状態ではありません」
続ける。
「住む場所もなく、食料も十分とは言えない状況です。安全も保証できません」
事実だけを並べる。
それで十分だった。
状況は理解できる。
リックはそこで止まらない。
「受け入れる」
即答だった。
マグロンの動きがわずかに止まる。
だがリックは続ける。
「村ごと引き取る」
迷いはない。
説明もない。
必要がない。
マグロンは一瞬だけ黙る。
頭の中で条件を並べる。
人数。
移動距離。
食料。
安全。
維持。
どれも簡単ではない。
それでも、否定はしない。
目の前の男は、そういう選択をする。
「……現実的には、相応の準備が必要になります」
そう返すのが限界だった。
リックは頷く。
「分かってる」
短く返す。
そこでザクトが口を開いた。
「移動と安全は俺がやる」
あっさりと言う。
「金も出す。リックの旦那に噛ませてもらってる以上、それくらいはやらねぇとな」
軽い口調だが、決めている。
迷いはない。
マグロンはその言葉に視線を向ける。
ザクトは肩をすくめる。
「覚えとけ」
短く言う。
「こいつはこういうやつだ」
説明ではない。
断定だった。
マグロンはわずかに息を吐く。
完全には理解していない。
だが、受け入れ始めている。
「……それでは、私は食料を用意します」
言葉にする。
「持ち込む分と、到着後の備蓄分、両方を手配します」
さらに続ける。
「調理ができる者も派遣いたします。戦闘はできませんが、生活の維持には必要かと」
現実的な提案だった。
リックは頷く。
「それでいい」
十分だった。
ザクトが軽く笑う。
「いい分担だな」
自然に役割が分かれていく。
誰が何をやるか。
もう決まっている。
リックが口を開く。
「受け入れはこっちでやる」
拠点周辺。
場所はすでに決めている。
「一度、村の近くで集める」
そこから動かす。
一気にはやらない。
「分けて運ぶ」
混乱を避けるためだ。
「現地の判断は俺がやる」
短いが、それで十分だった。
さらに続ける。
「仮の建物も用意する」
住む場所はすぐに必要になる。
「形は簡単でいい。木はそのまま使う」
時間はかけない。
まずは住める状態を作る。
そしてザクトを見る。
「人も出してくれ」
ザクトは即答する。
「任せろ、旦那」
迷いはない。
マグロンも続く。
「こちらからも数名出します。調理と補助であれば対応可能です」
これで揃った。
移動。
安全。
食料。
受け入れ。
すべての役割が埋まる。
三人の役割は、すでに決まっていた。
リックが土台を整える。
ザクトが流れを動かす。
マグロンが支える。
不足はない。
あとは動かすだけだった。
ザクトが小さく息を吐く。
「でかくなるな、リックの旦那」
ぼそりと呟く。
否定の色はない。
マグロンは静かに頷く。
「……リックさん、この規模になりますと準備も相応に必要になります」
すでに受け入れている。
覚悟は決まっている。
リックは二人を見て、短く言った。
「動くぞ」
その一言で、すべてが決まった。




