第二部 第39話「流れの先」
第二部 第39話「流れの先」
リックたちは回収した素材をまとめ、そのままバルドの鍛冶屋へ向かった。扉を開けると、熱気と金属の匂いが一気に流れ出てくる。いつもと変わらない光景だったが、持ち込んだ素材の量だけが違っていた。
炉の前に立っていたバルドは、足音に気づくと振り返る。
「来たか」
短く言う。リックは頷き、無駄な前置きもなく収納から素材を取り出して床に並べた。皮、鱗、骨、そして龍の皮。量も質も揃っている。
バルドの目つきが変わる。ゆっくりと近づき、しゃがみ込んで一つ一つ確認していく。指で押し、重さを測り、質感を確かめる。その動きに迷いはない。
「……揃ってやがるな」
低く呟く。評価はそれで十分だった。
リックは簡潔に告げる。
「必要分と予備だ。多めに置いていく」
「残りはどうする」
「回す。依頼もある」
バルドは顔を上げる。
「ギルドか」
「ああ」
短いやり取りだった。バルドは鼻で笑う。
「まぁ、あそこなら高く引き取るだろうな」
現実的な判断だ。リックは頷きつつ、内心では別の流れも考えている。すべてをギルドに流すつもりはない。一部はザクトに回す。表と裏、両方を使うことで流れを分散させる。
「仕上がりはどうする」
「任せる」
それで話は終わる。無駄がない。リックは立ち上がり、軽く手を上げる。
「また来る」
「ああ」
短い返答が返るだけだった。
リックたちはそのまま冒険者ギルドへ向かう。中はいつも通りの喧騒に包まれていたが、リックたちが入った瞬間、わずかに空気が変わる。視線が集まるが、気にせず受付へ進む。
受付に立っていたのはセレナだった。リックの姿を確認すると、表情がわずかに引き締まる。
「本日のご用件は」
事務的な口調だが、視線はすでに手元へ向いている。リックはそのまま討伐証明となる尻尾を出した。
数が多い。
セレナの手が一瞬止まるが、すぐに持ち直す。
「……確認いたします」
奥へ下がり、しばらくして戻ってくる頃には、明らかに対応が変わっていた。
素材もまとめて出す。量も質も申し分ない。買い取りは滞りなく進み、周囲の視線も強くなる。
その最中、奥から一人の男が姿を現した。
ドルガン。
リックを見ると、口元をわずかに緩める。
「相変わらずだな」
それだけだった。驚きでも賞賛でもない。ただの確認だ。
リックは何も返さない。必要がない。取引を終え、金を受け取ると、そのまま背を向けてギルドを後にした。
次に向かうのはザクトの店だった。扉を開けると、いつも通りの空気が流れている。だが、どこか違う。
リックは収納から素材を取り出そうとする。
その動きをザクトが手で止めた。
「いい、後でいい」
短いが、はっきりしている。
リックの手が止まる。ザクトが素材を後回しにするのは珍しい。それだけで、この話の重さが分かる。
ザクトは腕を組み、視線を少し外す。
「……先にこっちだ」
低く言う。空気が変わる。
ザクトは説明しない。この話の方が先だと、すでに決めている。理屈ではない。計算でもない。ただ流れが来ていると感じている。
先を読む男だった。腹で判断し、張るべき場所を外さない。結果として、それが金になる。
「マグロンから回ってきた話だ」
リックは何も言わず、続きを待つ。
ザクトは一度だけ息を吐く。
「稲作の情報を仕入れようとしてた村、あっただろ」
確認ではなく、共有だった。
「これから重要になり得る場所だった」
淡々とした口調だが、意味は重い。
そして続ける。
「……あそこ、やられたらしい」
短い一言で空気が止まる。
リックの視線がわずかに動く。
「壊滅状態だとよ」
それで終わりだった。
店の中が静まり返る。素材は、まだ出されていない。だが、今はそれどころではなかった。可能性だったものが消え、未来に繋がるはずだった流れが一つ途切れた。
リックはわずかに目を細めた。




