第二部 第27話「補給と鍛冶」
第二部 第27話「補給と鍛冶」
ネブラから戻った直後、リックは休息を挟まずそのまま次の行動に移った。中央部で得た鉱石と素材は放置すべきものではなく、最優先で処理する必要があると判断したためであり、向かう先は決まっていた。
「バルドのところへ行く」
短く告げ、そのまま鍛冶場へ足を向ける。
炉の熱と鉄の匂いが混じる空間に入ると、作業の手を止めたバルドがこちらを見て、すぐに眉をひそめた。
「来たか、顔が違うな、何かあったか」
リックは言葉を返さず、収納から巨大な黒い鉱石と複数の素材をまとめて取り出し、床へと置く。
その瞬間、バルドの動きが止まる。
「なんだこれ」
近づき、触れ、叩き、感触を確かめるように観察する。
「密度がおかしい、こんなの見たことねえ」
低く呟き、さらに力を込めて叩く。
「普通の鉱石じゃねえぞ」
他の素材にも一度視線を向けるが、すぐに戻る。
「こっちも質はいいが比べ物にならねえな」
明らかに別格だった。
リックは短く言う。
「使え」
バルドは一瞬言葉を失い、それから苦く笑う。
「全部かよ、まあいい、やってやる」
そこで思い出したように背後へ手を伸ばす。
「そういや出来てるぞ」
差し出されたのは新しいハンマーだった。
リリアがそれを受け取る。
バルドは続ける。
「前のより重いが、その分打撃の通りは段違いだ、電気もよく通る」
軽く振るだけで空気が震える。
「これ、相手選ばねえな」
リックが問う。
「対人にも通るか」
バルドは迷いなく答える。
「通る、生きてるなら関係ねえ」
リックは頷く。
「リリアに鍛冶をさせる、鉄を回せ」
バルドは目を細める。
「自分で打たせる気か」
「素材はある」
バルドは一度だけ頷く。
「分かった、鉄は融通してやる」
短いやり取りで話は決まる。
バルドは再び鉱石へ視線を落としながら言う。
「奥はどうだった」
リックは簡潔に答える。
「壊滅、中央部確保」
バルドは頷きかけたところで動きを止める。
「人型は」
「いた」
「レイン」
その名を聞いた瞬間、バルドの手が止まる。
「本当に見たのか」
「見た」
バルドはしばらく黙り込み、やがて低く言う。
「俺は見たことねえが、関わるなって言われてる類だ」
視線が鉱石へ落ちる。
「それ、あいつの場所のだろ」
「中央部」
バルドは息を吐く。
「なら余計だな」
続ける。
「その鉱石、ただのもんじゃねえぞ」
帰り際、バルドが声をかける。
「なあ」
リックが振り返る。
「そいつ、本当に何もしてこなかったのか」
「何も」
バルドは納得しきれない顔のまま頷く。
「そうか」
リックはそのまま鍛冶場を後にする。
拠点へ戻ると、すぐに内部の確認に入る。生活エリアに破損はなく、設備も正常に稼働しており、残していたゴーレムたちも所定の配置で機能している。監視、巡回ともに問題はなく、防衛体制は維持されていた。
畑へ向かうと、薬草の一部が減っていることを確認する。消耗は想定内だったが補充は必要であり、植え替えと水やりを行いながら状態を整える。食料も減っており、追加確保が必要だった。
「森へ行く」
補給のため外へ出る。
森は静かだった。異様なるものの気配はほとんどなく、ネブラの影響が明確に出ている。だが警戒は緩めず、木材、水、獣、魚を順に確保していく。
その途中で空気の流れが変わる。
音はない。
だが確かに存在がある。
リックは視線を動かす。
そこにレインが立っていた。
「やあ、また会ったね」
軽い声だった。
「この前の大きい鉱石、あれは君へのプレゼントだよ、必要だったら使ってね」
続ける。
「またちょくちょく顔出すから、その時はよろしく」
リックは短く問う。
「目的は」
「特にないかな、面白いかどうか、それくらい」
そう言ってから、両手を胸の前で合わせ、軽く頭を下げる。
この世界にはない動き。
だがリックには意味が分かる。
レインは笑う。
「同郷、だろ?」
リックは答えない。
レインはさらに続ける。
「さっき魚獲ってただろ、今度食わせてよ、俺料理下手でさ」
肩をすくめる。
「分かるだろ?」
そのまま言葉を続ける。
「今は攻撃する気はない、好きにやっていいよ」
軽く手を振る。
「じゃあまたね」
次の瞬間、姿は消える。
完全に消えた。
背後から声が漏れる。
「お兄ちゃん、今の何」
リックは答えない。
「観察」
短く言い、拠点へ戻る。
準備は進んでいる。
だが状況は確実に変化していた。




