第2部 第25話「中央部と帰還」
第2部 第25話「中央部と帰還」
ネブラの奥、中央部へと足を踏み入れた瞬間、それまで感じていた圧の偏りが嘘のように途切れ、広がった空間には不自然な静けさだけが残っていたが、その静けさは安全を意味するものではなく、むしろ“すでに何かが終わっている”ことを示すような、どこか空白に近い感覚を伴っていた。
リリアが周囲を見回しながら口を開く。
「……なんか、あっさり来ちゃったね」
確かに、ここまでの道のりは想定よりも軽く、途中で現れた異形も数が少なく、そのほとんどが弱体化しており、抵抗というよりは流されるように処理された印象が強かった。
エレノアが静かに状況を整理する。
「戦闘密度の低下は顕著です。先ほどの存在による影響と考えるのが自然でしょう」
ルナが短く言う。
「……減ってる」
セレスティアも周囲の流れを感じ取りながら言葉を重ねる。
「押さえられてるね、この一帯そのものが」
その視線の先、中央に“それ”はあった。
巨大な黒い鉱石。
ただそこに存在しているだけで、空間の密度そのものを変えてしまうような圧を放っており、その質はこれまで回収してきたどの鉱石とも異なり、明らかに別格の存在であることが一目で分かる。
リリアが思わず呟く。
「……でっか」
エレノア
「高密度反応、これまでの素材を大きく上回ります」
ルナ
「……濃い」
セレスティアが静かに言う。
「これ、中心だね……間違いなく」
しかし、それ以上に違和感があった。
守るものが、いない。
リリアが周囲を見回しながら言う。
「これさ、普通こういうのって守られてるよね?」
エレノア
「防衛構造、反応ともに確認できません」
ルナ
「……いない」
つまり、この鉱石は“守られていない”。
あるいは――
すでに守る必要がなくなっている。
リリアが思い出したように言う。
「さっきのやつ、これ取りに来たんじゃないの?」
セレスティアが首を振る。
「でも持ってかなかったよね」
ルナ
「……違う」
リリアが少し考えながら言う。
「もしかしてさ、あいつ収納とかないとか?」
エレノアがすぐに反応する。
「可能性としては存在します。これほどのサイズを通常の手段で運搬することは困難です」
リックは短く言う。
「運べない」
確かにそれなら説明はつく。
だが――
セレスティアが静かに言う。
「でも、それならわざわざここまで来る理由なくない?」
その一言で、その仮説は崩れる。
エレノアが補足する。
「目的が回収ではない場合、この行動は説明できません」
ルナ
「……見てただけ」
リリアが苦笑する。
「それが一番気持ち悪いんだけど」
結論は出ない。
だが、はっきりしていることが一つある。
あの存在は――
“取りに来たわけではない”
リックは短く言う。
「持つ」
その一言で方針は決まる。
収納が開き、巨大な黒い鉱石がゆっくりと浮き上がると、そのまま何の抵抗もなく内部へと消えていく。
リリアが感心したように言う。
「やっぱそれ便利だね……規模おかしいけど」
鉱石が消えた瞬間、わずかに空気が変わる。
エレノアが即座に反応する。
「……反応低下を確認」
ルナ
「……軽い」
セレスティア
「中心だったのは間違いないね」
周囲に残るのは、まだ使えそうな鉱石や素材の数々であり、小型から中型程度のものが転がるように点在しているが、そのどれもが先ほどの巨大鉱石には及ばず、質も規模も一段階落ちることが明確だった。
リリアが周囲を見渡しながら言う。
「これも使えそうなの結構あるね、あとで取りに来てもよさそう」
エレノア
「資源としての価値は高いです。時間をかければ回収は可能です」
リック
「後」
今は優先事項が違う。
未知の存在。
あれが何なのか。
その情報が最優先だった。
セレスティアが頷く。
「だね、今は情報優先」
ルナ
「……戻る」
リック
「戻る」
ネブラを離脱する。
帰還は速い。
余計な戦闘はなく、そのまま街へと戻ると、迷うことなくギルドへと向かった。
扉を開けると、セレナが顔を上げる。
「おかえりなさい……って、その様子だと、かなり奥まで行かれたんですね」
リリアが軽く手を振る。
「まあね、ちょっと拾い物してきた」
セレナが首を傾げる。
「拾い物……ですか?」
リックはそれ以上説明せず、短く言う。
「ギルマス」
セレナはすぐに理解し、姿勢を正す。
「少々お待ちください」
奥へと消える。
しばらくして現れたのは、ドルガンだった。
ドルガンはリックたちを見るなり、その空気の変化を察したように眉をひそめる。
「……ただ事じゃねぇ顔してるな」
リックは無駄を省いて言う。
「人型」
それだけで、場の空気が変わる。
エレノアが続けて説明する。
足跡、異形との非干渉、ゴーレムの制御停止、そして接触と会話。
すべてを簡潔に。
ドルガンは黙って聞いていた。
そして――
「……それ、本当に見たのか」
低い声だった。
だが、確実に“知っている側”の反応だった。
リックは短く言う。
「知ってるな」
沈黙。
数秒。
やがてドルガンがゆっくりと息を吐く。
「……ああ」
肯定。
リリアが思わず前に出る。
「何なの、あれ」
ドルガンは一瞬だけ目を閉じ、そして開く。
「それはな……」
そこで言葉が切れる。
⸻
続く。




