第2部 第18話「引き返す判断と検証」
第2部 第18話「引き返す判断と検証」
ネブラの奥を前にして、空気の密度が明らかに変わっていた。ここまでは押し切れていたが、その先は段が違い、流れは重く干渉も強くなっている。
ルナは奥を見据えたまま言う。
「……まだ濃い。ここから先、別」
セレスティアも流れを確かめながら続ける。
「このまま進むと崩れる。同調も維持も持たない」
リリアはハンマーを握ったまま間合いを測りつつ言う。
「押せば入れるけど、余裕はないね」
ルナが短く補足する。
「……行ける。でも崩れる」
エレノアも冷静に言う。
「維持が追いつきません。破綻点が出ます」
短い間を置いて、リックが判断を下す。
「戻る。ここまでで測れた。先は準備が要る」
ルナは小さく頷く。
「……戻る、正しい」
セレスティアも続ける。
「同意。現状は過負荷」
リックは手を上げる。
「離脱する」
転移を発動すると空間が歪み、先ほどまでの圧が一瞬で途切れた。次の瞬間にはグランディアの空気へと切り替わり、密度は安定し、干渉も弱くなっている。
リックはそのまま言う。
「ギルド」
そのまま移動し、ギルドに入ると、受付のセレナがすぐに姿勢を正してこちらを見る。
リックは簡潔に伝える。
「ネブラに入った。途中まで、奥は未到達」
セレナが確認する。
「状況は」
リリアが答える。
「手前は押せるけど、奥は段違いだった」
セレスティアも補足する。
「濃度差が大きく、このままでは維持が崩れます」
ルナは短く言う。
「……戻った」
セレナは頷く。
「判断は妥当です。深部は危険度が跳ね上がります」
リックは続ける。
「ギルマスを呼べ。話がある」
セレナは即座に応じる。
「承知しました」
やがて足音が近づき、ギルドマスターのドルガンが現れる。
「途中まで、で間違いないな」
リックは頷き、黒い鉱石を机に置く。
「そうだ。これの件だ」
ドルガンはそれを手に取り、重さと音を確かめながら言う。
「……似ているな。闇の結社の押収品と近い性質だ」
リックは間を置かず言う。
「譲れ」
ドルガンが問い返す。
「理由は」
リックは短く答える。
「奥に入るために使う。現状では足りない」
ルナが補う。
「……必要」
セレスティアが続ける。
「戦術強化が前提になります」
エレノアも言う。
「素材適性は高い」
ドルガンは少し考えた後、条件を示す。
「無償では渡せない」
リックは即座に返す。
「成果を返す。内部情報と回収物を優先的に回す」
ドルガンは確認する。
「範囲は」
リックは答える。
「取得分の優先権を与える」
ドルガンは頷く。
「成立だ。ただし条件を一つ、無茶はするな。回収不能は困る」
リックは短く返す。
「了承」
ドルガンは奥へ声をかける。
「例の箱を」
運ばれてきた箱を開けると、均質で高密度の黒い鉱石が並んでおり、ネブラで拾ったものより明らかに締まりが強い。
リックはそれを受け取り、確認して言う。
「使う」
ドルガンは告げる。
「結果を持ってこい」
リックは答える。
「分かった」
ギルドを出ると、リックはそのまま進路を変える。
「バルド」
工房に入ると、バルドが手を止めてこちらを見る。
「続きか」
リックは箱を置き、鉱石を出す。
それを見た瞬間、バルドの目が変わる。
「……別物だな。密度が段違いで、中の詰まり方が違う」
リリアが言う。
「見て分かる差だね」
エレノアも補足する。
「均一性が高く、加工痕も見えます」
セレスティアは分析する。
「法力は乗らないが、別系統で反応する」
ルナは短く言う。
「……溜まる」
リックは言う。
「器にする。ビリビリを溜めて叩く」
バルドは鉱石を叩きながら応じる。
「逃げにくいな。内部に留める性質が強い。容器として成立圏内だ」
セレスティアが問う。
「放出制御は」
バルドは答える。
「構造次第だ。閉じ切ると暴発するから、殻と通し道を分けて流路を作る必要がある」
エレノアは整理する。
「蓄積と放出の分離構造ですね」
リリアが言う。
「叩く瞬間だけ抜く形か」
バルドは頷く。
「それが理想だ。常時漏れない構造で、開放は一点にする」
ルナが言う。
「……制御前提」
リックは確認する。
「作れるか」
バルドはわずかに笑う。
「やる価値はある。この素材なら成立する。器と導路を作る。ゴーレム用ナックルにも応用できる」
リックは言う。
「預ける」
バルドは答える。
「任せろ。次は同系の鉱石をできるだけ持ってこい。選別はこっちでやる」
リリアが短く言う。
「数を持つ」
外に出ると空気は安定している。セレスティアは戦術を整理し、ルナは短く肯定する。
リックは前を見たまま言う。
「次は奥まで行く。削るだけじゃない、溜めて叩く」
準備は整い始めていた。続く。




