第2部 第17話「ネブラ内部」
第2部 第17話「ネブラ内部」
ネブラの入口は、ただの洞窟とは明らかに違っていた。
口を開けているだけのはずなのに、そこから流れ出てくる空気は重く、外で感じていた薄さとはまるで逆の圧を帯びている。
セレスティアが周囲を確かめるように息を整え、一息ついてから静かに言う。
「……濃いね、ここは」
ルナも視線を奥へ向けたまま、小さく頷く。
「……集まってる、全部」
リックは短く答える。
「中に寄ってる」
外で削った分が、ここへ流れ込んでいる。
その仮説は、もはや疑いの余地がなかった。
リックは手を軽く上げ、小型ゴーレムを前に出す。
「先に当てる」
暗い通路の奥へ、小型ゴーレムが音もなく進んでいく。
わずかな時間ののち――一体が消え、さらに続けてもう一体が消えたことで、前方の危険度がはっきりと示される。
リックの目が細くなる。
「……速い。距離も近い」
リリアがハンマーを握り直し、呼吸を整えながら前を見る。
「来るね、これはすぐだ」
その直後、異形が現れる。
出現と同時に間合いに入るほど距離が近く、外での戦いとはまったく違う圧が一気に押し寄せる。
「近い!」
通路は狭く、展開の余地がない。
リックは迷わず言う。
「分ける」
壁が出る。
通路に沿って無駄なく展開され、完全に遮断するのではなく、流れをわずかに歪ませることで動線を制御する。
小型ゴーレムが前に出て異形を引きつけ、その意識をずらした瞬間、中型ゴーレムが踏み込み、重い圧でそのまま押し返す。
流れが裂ける。
一体が外れる。
「出た!」
エレノアが即座に反応し、範囲を広げすぎないように面を維持しながら空間を抑える。
「このまま維持します、広げません」
ルナが一点を捉え、そのまま低く言う。
「……ここ、止める」
その個体だけが完全に動きを失う。
セレスティアが一息つきながら状態を確認する。
「同調は維持できてる、このままいけるよ」
リックは短く指示を出す。
「削れ」
「少し引き出すね」
光が差し込み、奥に引っ込んでいた部分が無理やり表へと引き出される。
シルヴィア
「対象、固定。石化」
完全に止まる。
リリアが踏み込み、体重を乗せた一撃を叩き込むと、鈍い音とともに石化した異形が砕け散る。
しかし間はない。
別方向からすぐに次が来る。
ルナがわずかに顔を向ける。
「……来る、別方向」
通路の奥から新たな異形が現れ、流れが一気に変わろうとするが、リックが壁の位置を即座にずらし、同時にゴーレムを差し込むことで動線を切り直す。
通路そのものを使って流れを分断することで、無理に止めるのではなく“通れなくする”形に持っていく。
戦闘は続くが、外とは明らかに違う負荷がかかる。
ルナが息を整えながら言う。
「……維持、きつい。このままだと落ちる」
エレノアも即座に対応する。
「範囲をさらに縮めます、維持優先でいきます」
セレスティアも一息つきながら判断する。
「引き出しは最小限にする、この濃さだと崩れる」
リックは短く頷く。
「いい、そのまま崩すな」
無理に押さない。
流れを切らさないことを優先する。
中型ゴーレムが前線を支え、小型ゴーレムが先に接触して流れをずらし、その隙に壁で動線を切ることで、ようやく安定した形を作る。
リックは一歩下がり、状況を見て言う。
「ここで止まる」
通路の角に陣取り、中型ゴーレムを前に立たせ、小型を外側に配置して一方向からしか来れない形を作ることで、簡易的な防衛線を構築する。
セレスティアが一息つき、法力を流す。
「少し強めるね、法力。弱いのは近寄りにくくする」
空気が整い、周囲の圧がわずかに落ちる。
リリアがハンマーを軽く下ろしながら、一息つく。
「……中、完全に別物だね、外とは比べにならない」
ルナ
「……濃い、全部ここにある感じ」
エレノア
「維持の負担も大きいです、このまま長時間は厳しいですね」
リックは周囲を見渡しながら言う。
「小型三体減。中型はまだ持つ、だが余裕はない」
セレスティア
「外で減らした分が、全部ここに寄ってる」
リック
「中心だな」
短く、それだけ。
そのまま視線を壁へ向ける。
「周囲も見る、残るものがある」
リリアが少しだけ視線を動かす。
「拾うの?」
リック
「使える」
壁の一部に違和感がある。
黒く、わずかに光る鉱石が露出している。
エレノアが距離を保ったまま観察する。
「これは普通の岩ではありません、構造が違います」
セレスティアが一息つきながら感知する。
「法力は乗らないけど……何か別の性質がある」
リックは即座に判断する。
「削る」
小型ゴーレムが前に出て、壁を削り始める。
鈍く重い音が通路に響き、削るたびに手応えの違いがはっきりと伝わってくる。
リリアがその音を聞きながら言う。
「……硬いね、これ。普通の岩じゃない」
削る速度は遅い。
だが確実に削れている。
表面が欠け、内部が露出する。
そこはさらに黒く、わずかに光を帯びていた。
セレスティアが目を細める。
「……奥の方が強い。表面より中身の方が性質がはっきりしてる」
リック
「続けろ」
小型ゴーレムが力を込める。
音が変わる。
バキ、と塊が剥がれ落ちる。
リリアがそれを拾い上げる。
重さを確かめるように手の中で転がす。
「……重い。でも、ただ重いだけじゃない」
軽く叩く。
芯のある音が返る。
「衝撃、逃げない感じだね。これ、使える」
エレノア
「密度が異常に高いです。単純な硬さとは別の強度があります」
セレスティア
「干渉も受けにくい。安定してる素材だね」
ルナ
「……残る理由、ある」
リックは短く言う。
「持っていく。量は少しでいい」
小型ゴーレムが追加で削り出す。
必要以上には持たない。
試せる分だけでいい。
リリアが塊を腰に収める。
「これ、ナックルにも使えそうだね」
リック
「後で見る」
それだけで終わる。
ルナ
「……ここに集まる。消えないもの」
リックは頷く。
「行く」
再び進む。
奥へ進むほど、空気はさらに重くなる。
前方の小型ゴーレムが――一瞬で消える。
反応すらない。
リックの目が細くなる。
「……速い、今までと違う」
次の瞬間、異形が現れる。
動きが明らかに速い。
リリアが踏み込む。
「こいつ、違う!」
リック
「止めるな、切れ」
壁を出すが、間に合わない。
ルナ
「……抜ける、この速度は止めきれない」
一瞬、流れが崩れる。
だがリックが即座に中型ゴーレムをぶつけ、強引に衝突させることで動きを止め、その一瞬の隙に壁を差し込んで流れを再構築する。
分断が戻る。
セレスティアが一息つく。
「同調、戻した。ギリギリ維持できてる」
リック
「出せ、今だ」
光が走る。
シルヴィア
「対象、固定。石化」
わずかに遅れるが、間に合う。
完全に止まる。
リリアが踏み込み、全力でハンマーを叩きつけると、重い音とともに異形が砕け散る。
静寂が戻る。
リリアが息を整え、一息つく。
「……まだいける、きついけど」
ルナ
「……いける、対応できる」
リックは奥を見る。
さらに濃い気配がある。
「進む」
ネブラの深部へ。




