第2部 第16話「切り分ける戦場」
第2部 第16話「切り分ける戦場」
朝は静かだった。
拠点の外に出た瞬間、空気の違いがはっきりと分かる。
いつもなら、肌にまとわりつくような重さがある。
息をするたび、わずかに引っかかるような感覚。
それが今日は、薄い。
完全に消えたわけではない。
だが確実に軽い。
まるで、何かが削られているような――そんな感覚だった。
リックはそれを確かめるように、一歩前に出た。
「来る」
短く告げる。
その直後、空気が歪み、異形が現れる。
数はいる。だが、密度が違う。
リリアがハンマーを肩に乗せたまま、ゆっくり息を整えた。
「……少ないね、前より」
ルナが視線を巡らせる。
「……薄い。押し返してる」
セレスティアは目を閉じ、流れを確かめる。
法力の揺らぎが、以前よりも穏やかだ。
一息ついてから言う。
「全体が少し静かになってる。ここだけじゃない、広い範囲で減ってる感じ」
リックは答えない。
ただ、異形を見ている。
一歩踏み込む。
「叩けば減る」
それだけだった。
だが、全員が理解する。
戦闘は始まる。
エレノアが面を抑える。
空間が歪み、異形の進行がわずかに鈍る。
ルナが一点を見据える。
次の瞬間、その場所だけが止まる。
動こうとしても、動けない。
セレスティアが流れを整える。
味方の動きが揃い、無駄が消える。
シルヴィアが静かに言う。
「対象、固定。石化」
異形の表面が、内側から固まり始める。
逃げようとした動きが、そのまま止まる。
完全に。
リリアが踏み込む。
地面を踏みしめる音が重い。
ハンマーが振り上げられ、迷いなく振り下ろされる。
鈍い音。
衝撃が伝わる。
石化した異形が砕けた。
割れ、崩れ、消える。
その場に残るのは、わずかな静けさ。
リリアはハンマーを肩に戻し、一息ついた。
「……やっぱり軽いね」
ルナも息を整える。
「……前より、止めやすい」
セレスティアが頷く。
「流れが弱い。押せば押すほど、全体が薄くなってる感じ」
リックは短く言った。
「ここだけじゃない」
その言葉には、確信があった。
拠点に戻ると、すぐに準備に入る。
小型ゴーレムが整然と並ぶ。
「各自一体。追加は前に出す」
「拠点にも三体残す。入口に置け」
小型ゴーレムが動き、通路の先頭へ配置される。
動きは滑らかで、以前よりも迷いがない。
リリアがそれを見て言う。
「なんか、動き良くなってない?」
セレスティアが一息ついて微笑む。
「反応が速いね。遅れがほとんどない」
リックは短く答える。
「慣れた」
中型ゴーレムが二体、前に出る。
地面がわずかに震える。
その存在だけで、圧が変わる。
リリアが横目で見る。
「ビリビリ、使う?」
「最後だけだ」
セレスティアが一息つく。
「使うと全部崩れるからね。法力も同調も切れる」
ルナ
「……固定、消える」
エレノア
「面も維持できません」
リック
「分かってる」
奥には大型ゴーレムが残されている。
動かない。だが、そこにあるだけで安心感がある。
リリアが振り返る。
「連れていかないの?」
「残す。ここが崩れたら意味がない」
セレスティアも頷く。
「戻る場所は必要だね」
ルナ
「……守り、必要」
出発する。
森を進む。
セレスティアが静かに法力を流す。
空気が整い、周囲が静まる。
リリアが周囲を見渡し、一息ついた。
「……ほんとに来ないね」
ルナ
「……弱いの、避けてる」
リック
「無駄は減らす」
やがて空気が変わる。
重い。濃い。
セレスティアが一息つく。
「ここからは来るよ。強いの」
その直後、前方の小型ゴーレムが一体消えた。
リックの動きが止まる。
「……一体、消えた」
一瞬遅れて、もう一体消える。
「前、濃い」
リリアが息を整える。
「来るね」
異形が現れる。
数は多い。しかも、まとまっていない。
バラバラに来る。
リリアが言う。
「これ、まとめられないね」
リックが即座に動く。
「分ける。俺が切る」
壁が出る。
完全に止めるわけではない。だが、流れが歪む。
小型ゴーレムが前に出て、異形を引きつける。
進路がずれる。
中型が踏み込み、押し返す。
流れが裂ける。
一体が外れる。
「一体、出た!」
エレノア
「範囲、抑えます」
ルナ
「……抜けるの、止める」
一点が固定される。
セレスティアが一息つく。
「同調、維持してる。崩れてない」
リック
「いい」
「少し引き出すね」
光が差し込む。
隠れていたものが、前に出る。
シルヴィア
「対象、固定。石化」
完全に止まる。
リリアが踏み込み、ハンマーを叩き込む。砕ける。
流れができる。
分断、固定、引き出し、石化、撃破。
繰り返す。
だが、数が増える。
ルナ
「……維持、きつい」
エレノア
「面、崩れます」
圧が強い。
リリアが一息つく。
「ビリビリ、使う?」
リックは首を振る。
「まだ崩すな」
中型ゴーレムが前に出る。
押し止める。
小型が割り込み、流れを乱す。
壁でさらに切る。
「耐える」
短い指示。
最後に一体。他より濃い。
セレスティアが一息つく。
「……奥にある」
「出せ」
光が走る。引き出す。
シルヴィア
「対象、固定。石化」
完全に止まる。
リリアが踏み込み、ハンマーを振り下ろす。砕ける。
静寂が戻る。
リリアが息を整え、一息ついた。
「……いけるね、これ」
ルナ
「……分ければ、いける」
リックは短く言う。
「まとめるな。切れ。それだけだ」
その先に、ネブラがある。
重く、静かに。
「中に入る」
続く。




