第2部 第11話「分散と、準備」
第2部 第11話「分散と、準備」
火は境界として保たれていた。洞窟入口に沿って並べた炎は空気の揺れを押し返し、この場所だけを“まとも”に留めている。だが外側に溜まる“ズレ”は消えていない。むしろ濃く、近い。
「……濃い」ルナが目を閉じたまま言う。「昨日より、近い」
「数も多いね」リリアが火の縁を見た。「見えないけど分かる」
エレノアが周囲を観る。「滞留が早い。密度が上がっています」
リックは炎の向こうの“圧”を見る。(境界は機能している。だが、押されている)
「分ける」
神殿へはリック、セレスティア、ルナ、エレノア。
「護衛はいらない。神殿は戦場じゃない」
ゴーレムはすべて拠点に残す。大型は入口に固定し第二の壁とする。中型は待機、小型は散開。リリアの周囲に中型一体と小型複数、シルヴィアには小型一体。さらに小型二体を畑の巡回へ。
「生活圏も見ろ。戦場だけ見てると見落とす」
小型がそれぞれの持ち場へ散る。
「行く」転移。
――神殿。揺れがない。基準がある。
ルナは一点を押さえ、エレノアは面を均す。セレスティアが同調を重ねる。三つが噛み合うと、空間の“戻ろうとする力”が強くなる。だが持続は短い。
「……ここ」ルナが指した一点だけが完全に止まる。
「高い適性です。点の維持に優れています」神官。
エレノアは呼吸を整え、広く薄く保つ。「……保てます」
「適性あり。面の維持です」
セレスティアが光を重ねる。「同調、合わせます」
安定は増す。だがすぐに落ちる。
「……短い」ルナ。
「維持が足りません」エレノア。
「重ねれば強くなりますが、負荷も増えます」神官。
リックは結論だけ置く。「分ける。ルナが点、エレノアが面。セレスティアは同調に専念、余裕があれば重ねろ」
「はい」
「戻る」
――拠点。揺れと圧が戻る。
「おかえり」リリアはすでに作業に入っていた。床には分解された部品。木枠、金属軸、擦過部。
「どうだ」
「一応、動く」
回す。パチッ。火花。
「弱いね」
「……足りない」リック。
リリアはすぐに分解する。「軸がぶれてる」削る。合わせる。小型ゴーレムが工具を持ってくる。「支えて」小型が固定する。
再度組む。回す。パチ……パチッ。
「……安定しない」
「接触が弱い」リック。「押し付けろ」
「摩擦増やす?」
素材を差し替え、柔らかい皮を挟む。
回す。バチッ!!火花が強くなる。
「お、きた」
直後、バチバチッ!!暴れる。
「うわっ!」リリアが手を離す。小型が即座に装置を押さえる。
エレノア「不安定です」セレスティア「同調、軽く入れます……少し収まりました」
リリアが息を吐く。「強くすると暴れるか」
リック「制御だ」
「……回転を均す」軸を見直す。削る、合わせる、締める。
小型に命じる。「回せ」
複数の個体が同時に同じ動きでハンドルを回す。
リックは目を細める。(一体に教えれば全体が動く……AIかよ)
「何?」リリア。
「なんでもない」
回転が整う。バチッ、バチッ、と一定のリズム。
「……揃ってる」ルナ。
「波形が安定しています」エレノア。
「これなら溜められる?」
「いける」リック。
鉱石へ接続。回す。火花が流れる。残る。
「……残ってる」ルナ。
「やっとまともになったね」リリア。
「まだ足りない」
「うん、分かってる」すでに次の調整に入る。
外では戦闘が続く。大型は壁を維持。中型はリリアの近くで待機。小型が飛び、接触を弾き、背後を守る。
「前に出るな。崩れるところだけ押さえろ」
ゴーレムは守る。人間が倒す。
シルヴィアは畑へ向かう。小型ゴーレムが一体、距離を保ってつく。火の境界から離れるにつれ、空気の軽さがわずかに変わる。
しゃがみ、土を指で崩す。水分、匂い、粒を確かめる。
「……問題なし」
薬草を選び、根ごと抜く。使える部分を分け、袋へ入れる。
小型が袋を差し出す。「……ありがとう」
ふと顔を上げる。
畑の先、低い森がある。視線を遮るには十分な密度。
風が葉を揺らす。
それだけだ。
だが――
「……魔獣」
可能性が浮かぶ。洞窟側とは別の脅威。
「……影響は、ない?」
答えはない。
小型も森を向いて静止する。
「……いい」首を振る。「後で、確認」
意識の一部を森に残したまま、作業を続ける。
拠点へ戻る。
「……多い」ルナ。
「圧が増しています」エレノア。
火の向こう、滞留が厚くなる。踏み込もうとしては退く動きが繰り返される。
リックは全体を見る。(揃った。点、面、同調。電気は補助、破壊は物理。だが持続が足りない)
「準備は進んだ」
一拍。
「だが、追いついていない」
ルナが奥を見る。「……来る」
火の縁、踏み込む。戻る。また来る。
「……抜けてくる」エレノア。
セレスティアが息を整える。
リリアがハンマーを握り直す。
大型が体勢を変え、壁を厚くする。小型がさらに散り、隙間を埋める。中型は静かに待つ。
それでも完全ではない。
静かに、確実に。
次は――内側へ来る。




