第6話 「冒険者ギルドへの初訪問」
朝の柔らかな光がシェルターに差し込む頃、リックはゆっくりと目を覚ました。
昨夜のことはまだ少し胸に残っていたが、朝の光を浴びると自然と気持ちが落ち着いてきた。
隣ではエレノアがすでに起きていて、焚き火の残り火を優しくかき回し、簡単な朝食の準備をしていた。
「おはようございます、ご主人様」
「……おはよう、エレノア」
リックは穏やかに微笑みながら返事をした。
エレノアも優しく微笑み返し、2人は静かな朝食を共に取った。
リックが切り出した。
「今日は街の冒険者ギルドに行ってみようと思う。
昨日聞いた素材の買取や依頼の話、詳しく知りたいし、登録も済ませておきたい」
エレノアは微笑みながら頷いた。
「はい、私もご主人様のサポートをします」
朝食を終えた2人は準備を整え、リックが転移を使って街の中心部へ移動した。
まず最初に、街の防具屋に立ち寄ってみた。
店内にはいくつかの革鎧や鉄の胸当てが並んでいたが、どれも古びていて質があまり良くなかった。
店主は肩をすくめて言った。
「最近、鍛冶師が人不足でねぇ。
数年前の大戦で多くの熟練の鍛冶師が戦場で命を落として以来、若い弟子が育たず、後継者が極端に少なくなっちまったんだ。
いい素材があっても、作れる人間が足りなくて、ちゃんとした防具が作れないよ。
魔獣の皮や鉄があれば自分で持ち込んで依頼するしかないけど、今日も鍛冶師はギルドの依頼で出払ってるらしい」
リックはエレノアと顔を見合わせた。
「素材なら俺たち、結構持ってるんだけどな……
鍛冶師の人不足か。じゃあ、まずはギルドで情報を集めてみよう」
街の中央にある大きな石造りの建物「冒険者ギルド」に到着した。
建物は2階建てで、1階は広いホールになっており、依頼掲示板が壁一面に貼られ、多くの冒険者たちが行き交っていた。
受付カウンターには親切そうな20代後半の女性職員が座っていた。
リックとエレノアがカウンターに近づくと、職員が明るく声をかけてきた。
「いらっしゃいませ! 初めての方ですか?
冒険者登録をお手伝いしますね」
登録は意外と簡単だった。名前と簡単な能力を申告すると、すぐにギルドカードが発行された。
職員はカードを渡しながら、丁寧にギルドのランク制度を説明してくれた。
「ギルドのランクはFからSまであります。
最初はほとんどの方がFランクからスタートします。
Fランクは簡単な素材持ち込みや草刈り、薬草採取などの依頼が中心です。
Eランクになると、弱い魔物の討伐や浅い洞窟調査が可能になります。
Dランク以上になると、本格的な迷宮探索や護衛依頼も受けられるようになります。
ランクアップは、依頼の達成数と難易度、貢献度で貯まるポイント制です。
ただし、ランクに見合わない危険な依頼を受けると警告やペナルティが出る場合もありますので、最初は無理をせず、Fランクの依頼から慣れていくのがおすすめです」
リックはカードを眺めながら頷いた。
「なるほど……まずはFランクからか。
素材の買取もここでできるんだな」
実際に昨日採ってきた素材を鑑定してもらうと、換金所より少し良い値段で買い取ってもらえた。
リックは予想以上のルピアを手にして満足した。
職員が追加で詳しく教えてくれた。
「ちなみに、ギルドでは薬草と回復薬の交換も積極的に行っていますよ。
主な回復薬は3種類あります:
• 初級回復薬:軽い傷や疲労回復に。薬草3〜4本で1本交換可能。
• 中級回復薬:切り傷や打撲、軽い毒にも効果的。薬草8〜10本で1本交換可能。
• 上級回復薬:重傷や大量出血にも対応。薬草20本以上必要で、交換できる量は少ないです。
特に探索では中級回復薬が人気ですね。
新鮮な薬草を持ち込めば、すぐに交換できますよ」
リックは目を輝かせ、エレノアに小声で言った。
「回復薬の種類がこんなにあるのか……
今度から薬草も意識して集めよう。
中級回復薬があれば探索がかなり安心だな」
エレノアは頷き、柔らかい目でリックを見た。
「はい。
ご主人様のアイテム収納があれば、たくさん持ち帰れますね。
これで探索の準備がしやすくなります」
その後、2人はFランクの簡単な依頼を1つ受けることにした。
受付職員が掲示板から1枚の紙を取って説明してくれた。
「こちらの依頼はどうでしょう?
『浅い洞窟『灰狼の巣』に生息する灰狼の牙を10個集めてきてください。
報酬は800ルピア。危険度は低めで、Fランクの方にぴったりです。
灰狼は群れで行動することが多いので、注意してくださいね』」
リックはエレノアと目を合わせて頷いた。
「これにしよう。ちょうどいい練習になりそうだ」
ギルド近くの浅い洞窟『灰狼の巣』へ向かった。
洞窟内は湿った空気が流れ、薄暗い通路が続いていた。
エレノアが風の加護で気配を探りながら先導し、リックが大地同調で地面を整えながら進む。
すぐに灰狼の群れと遭遇した。
リックが大地同調を発動させ、地面を柔らかくして灰狼の足を取る。
エレノアは風を纏った矢を連続で放ち、的確に仕留めていく。
「ご主人様、右側の2体をお願いします!」
「わかった!」
リックの土が灰狼の動きを封じ、エレノアの矢がそれを追い討つ。
連携は前回より明らかにスムーズで、10個の牙を無事に集めることができた。
依頼を達成してギルドに戻り、報酬の800ルピアを受け取った。
職員が笑顔で言った。
「お疲れ様でした! 初めての依頼にしてはとてもスムーズでしたね。
また何かありましたら、いつでもどうぞ」
拠点に戻った夜、焚き火を囲む頃。
リックはエレノアの横に座り、今日の出来事を振り返った。
「ギルドのランク制度、思ったよりしっかりしてるな。
Fランクからコツコツ上げていけば、大きな依頼にも挑戦できそうだ。
防具屋の件も、鍛冶師が人不足みたいだから、素材を溜めて後で依頼してみよう。
薬草と回復薬が交換できるのも知ったし、探索の準備がしやすくなった」
エレノアは焚き火の光に照らされながら、柔らかく微笑んだ。
「はい。
ご主人様の土魔法の成長にもつながりますし、私も風の加護を活かしてサポートします。
これから一緒に、拠点を強くしていきましょう」
その夜、2人は自然と寄り添うように過ごした。
エレノアはリックの胸にそっと体を預け、指先で肩を優しく撫でながら、
「今日はたくさん動きましたね……ご主人様の体、疲れていませんか?」と静かに尋ねた。
リックは彼女の髪を優しく撫で返し、
「少し疲れたけど……お前がそばにいてくれると、なんだか心が落ち着くよ」
エレノアは穏やかな笑みを浮かべ、リックの胸に頰を寄せた。
2人は言葉を少なくし、焚き火の温かい光の中で静かに寄り添い合った。
優しい沈黙と、互いの体温だけが、シェルターを穏やかに包み込んでいた。
焚き火の炎が、二人の影を長くシェルターの壁に映していた。
冒険者ギルドへの初訪問を終えた夜、
遅咲きの物語は、静かに次のページをめくり始めていた。




