第7話 「鍛冶師との出会いと、炎の少女」
朝の柔らかな光がシェルターに差し込む頃、リックはゆっくりと目を覚ました。
昨夜の穏やかな時間がまだ体に残っていたが、今日は気持ちが少し前向きだった。
エレノアはすでに起きていて、焚き火で朝食を温めていた。
「おはようございます、ご主人様」
「……おはよう、エレノア」
2人は簡単な朝食を食べながら、昨日ギルドで得た情報を振り返った。
リックが言った。
「ギルドで回復薬の交換もできるってわかったし、素材も高く売れた。
でも防具がまだ心許ないな……鍛冶師の人不足って言ってたけど、どこかで探してみようか」
エレノアは静かに頷いた。
「はい。素材は十分にありますから、良い鍛冶師がいれば依頼してみましょう」
2人は再び街へ転移した。
防具屋に立ち寄ると、店主がため息をつきながら教えてくれた。
「街の外れに住むドワーフのバルド・アイアンハンマーという鍛冶師がいるよ。
腕は確かだが、最近はギルドの依頼を減らして個人で仕事をしてるらしい。
数年前の大戦で熟練の鍛冶師がたくさん死んでから、後継者が育たず、人手が足りねえんだ。
だから今は選り好みして仕事をしてるよ」
リックとエレノアは街の外れにある小さな鍛冶工房へ向かった。
工房の前に着くと、鉄を叩く大きな音が響いていた。
中から出てきたのは、髭をたくわえた頑固そうな中年ドワーフ——バルド・アイアンハンマーだった。
「なんだ、客か? 今は忙しい。帰れ」
リックは慌てず、アイテム収納から上質な魔獣の皮、牙、魔石を取り出して見せた。
「これで防具を作ってほしい。俺と彼女の分、2セットだ。
質の良いものを頼む」
バルドは目を細めて素材をじっくり眺め、髭を撫でながら低く唸った。
「ほう……これは上物だな。
特にこの魔獣の皮は、魔力の通りが良くて珍しい。
俺の鍛冶技術は、ただ叩くだけじゃねえ。
素材の持つ魔力を読み取り、叩くリズムと温度で魔力を織り込むんだ。
大戦前はこれで名を馳せたもんだが、今は人手不足で後継者も育たず、こんな小さな工房で細々とやってるよ」
彼は少し考えてから続けた。
「条件がある。
良い素材を優先的に持ち込むこと。それと、もう一つ……
俺の知り合いの娘が奴隷落ちして、今、街の外れの闇市に落ちてるらしい。
ドワーフの娘で、リリアという。
お前らがその子を連れてきてくれたら、今回の依頼を特別に受けてやる。
どうだ?」
リックは一瞬驚いたが、すぐに決意を固めた。
「……わかった。その条件で頼む。
リリアを連れてくる」
バルドは頷き、
「なら半日待て。素材が良いから、俺の全技術を注いで作ってやるよ」
2人は工房を後にし、バルドから聞いた情報をもとに街の外れの闇市へ向かった。
薄暗い路地に小さな奴隷市場が開かれていた。
鎖に繋がれた何人かの奴隷が並び、商人が低い声で客を引き止めている。
その中に、赤みがかった茶髪を片側だけサイドテールにした、小柄で元気そうなドワーフの少女がいた。
彼女の目は少し怯えながらも、どこか負けん気の強さを感じさせた。
リックは鑑定で確認し、エレノアに小声で言った。
「あの子だ……リリア・ブレイズハート」
エレノアが風の加護で周囲の気配を素早く探り、
「今なら静かに連れ出せそうです。商人は油断しています」と囁いた。
リックは深呼吸をして奴隷商人に近づいた。
「そのドワーフの娘を、連れて行きたい」
商人は値踏みするようにリックを見て、にやりと笑った。
「へえ、上物だろ? 血筋がいいから値が張るぜ。
今は8,000ルピアだ。どうする?」
リックはアイテム収納から昨日集めた追加の魔獣素材と、残っていたルピアのほとんどを差し出した。
「これで足りるか?」
商人は素材を手に取り、目を細めて値踏みした。
魔獣の皮と牙の質に気づき、舌打ちしながらも了承した。
「ふん、ギリギリだな……まあいい。連れてけ」
鎖が外された瞬間、リリアは体を震わせながらリックを見上げた。
「……誰……?
お兄ちゃん……?」
彼女の声は小さく、怯えと少しの希望が混じっていた。
リックは優しく微笑みながら手を差し伸べた。
「大丈夫だ。もう奴隷じゃない。
俺のところに来い。一緒に暮らそう。
もう誰もお前を鎖で繋がない」
リリアは少し戸惑いながらも、リックの大きな手に自分の小さな手を重ねた。
その手はまだ少し冷たく、震えていた。
「うん……お兄ちゃん」
エレノアが優しくリリアの肩に手を置き、温かい風の魔力をそっと流した。
「これからは私たちと一緒にいましょう。
もう怖いことはありません」
リリアはエレノアの温かさに少し体を緩め、
「お姉ちゃん……?」と小さな声で呟いた。
3人で工房に戻ると、バルドはリリアの姿を見て少し驚いた顔をしたが、すぐに満足げに頷いた。
「よく連れてきたな。約束は守る。
素材が良いから、俺の全技術を注いで作ってやるよ」
半日後、完成した防具を受け取った。
• リック用:軽量で動きやすい土属性強化の胸当て+マント(魔力を織り込んだバルドの技術で、大地同調の安定性が向上)
• エレノア用:風の加護と相性の良い軽い革鎧+肩当て(矢の精度と索敵範囲が強化)
• リリア用:炎属性を活かした小型戦鎚と軽量の火耐性鎧(バルドが特別に急いで作った炎を増幅する逸品)
バルドは腕を組んで言った。
「どうだ? 俺の鍛冶はただの鉄を叩くんじゃねえ。
素材の魔力を読み取り、リズムと温度で織り込むんだ。
これで少しはマシになるはずだ。また良い素材を持ってこいよ」
リックは新しい防具を身に着け、軽く動いてみた。
「動きやすい……これなら次の探索が楽しみだ」
エレノアも肩を軽く回して微笑んだ。
「風の流れが心地よいです。ありがとうございます」
リリアは戦鎚を軽く振りながら目を輝かせた。
「お兄ちゃん! これ、すっごくいいよ!
私もお兄ちゃんの役に立つからね!」
拠点に戻った夜、焚き火を囲む頃。
リックは新しい仲間を見て微笑んだ。
「今日、リリアを迎えられて良かった。
これで少しずつパーティらしくなってきたな」
エレノアは穏やかに、リリアは元気よく頷いた。
リリアは少し照れながら言った。
「あの……私、鍛冶はまだ初心者だけど、家事は少しできるよ!
お兄ちゃんの拠点の掃除とか、簡単な料理とか……やってみる!」
リックは驚きつつ嬉しそうに笑った。
「本当か? それは助かるよ。
エレノアは建築が得意だから、リリアが家事を手伝ってくれると拠点がもっと快適になりそうだな」
エレノアも優しく微笑んだ。
「嬉しいです、リリア。
一緒に拠点を良くしていきましょう」
その夜、3人は焚き火のそばで静かに寄り添うように過ごした。
リリアは少し照れながらリックの隣に座り、エレノアは優しく2人を見守った。
焚き火の温かい光が、ゆっくりと新しい家族の影を長く壁に映していた。
遅咲きの物語は、炎の少女を迎えたことで、
また一歩、前へ進み始めていた。




