第2部 第8話 祈りと、異なる力
第2部 第8話 祈りと、異なる力
拠点の空気は明確に変わっていた。地下から伝わる“ズレ”は濃く、速く、重い。
「……速い」
ルナが言う。
シルヴィアが続ける。「干渉が増加。維持が限界に近いです」
エレノアが報告する。「地下構造に歪み」
リリアはハンマーを握る。「時間ないね」
セレスティアは頷く。
リックが言う。「神殿に行け」
「はい」
「転移で送る。精度は落ちている」
供えを渡す。
「深入りするな」
「承知しています」
空間が歪む。
「行け」
セレスティアの姿が消える。
視界が切り替わる。着地。神殿前。空気が安定している。揺れが弱い。中へ入る。変化が明確になる。音のズレがない。奥に神官。
「……来られましたか」
「訪問失礼します」
供えを渡す。神官が受け取る。
「外の異常について、でしょうか」
「はい」
神官が言う。「我々は“異質なる力”と呼んでいます。魔力ではありません。別の流れです」
セレスティアは問う。「原因は判明していますか」
「いいえ。ただ、過去にも類似の記録があります。周期的ではありませんが、完全に初めてではない」
「収束した例は?」
「あります。ただし、消えたのではなく、薄れただけです」
空間がわずかに整う。
「法力です。整えることはできますが、排除はできません」
「持続時間は?」
「維持している間のみです。止めれば戻ります」
「強めることは可能ですか」
神官はわずかに間を置く。「可能ですが、範囲はさらに狭まります」
揺れが弱まる。
「範囲は」
「神殿内と周辺」
「外では」
「効果は低下」
「侵入は」
「防ぎきれません。すでにわずかに入り込んでいます」
わずかな揺れが残る。
(侵食されている)
「……異質なる力に触れた者は?」
「感覚のズレ、判断の遅れ、消失例もあります」
短い沈黙。
「ありがとうございます」
一礼。
「無理はなさらぬように」
神殿を出る。外。空気が重い。差が明確。
(ここからは歩き)
揺れが強い。足元がわずかにズレる。
“いる”。
一体ではない。
二、三。
距離を保つ。
進む。
視界の端で歪みが増える。
(……増えている)
足を止めない。
背後で揺れが強まる。
追ってくる。
わずかに距離が詰まる。
(速い)
進路を変える。直線を避ける。
揺れが追従する。
完全には追えないが、離れもしない。
(引かれている……?)
確証はない。
さらに進む。
前方にも揺れ。
挟まれる形になる。
(囲まれる)
一瞬だけ足を止める。
最小限の火花を出す。
空間が弾ける。
前方の揺れが止まる。
その隙に抜ける。
背後の揺れが一瞬遅れる。
(やはり干渉する)
だが長くは持たない。
火花を止める。
再び追従が始まる。
数が増える。
五。
それ以上。
(長引けば危ない)
速度を上げる。
拠点が近い。
背後の揺れが一気に強まる。
圧が増す。
(……来る)
一歩踏み込む。
境界を越える。
拠点内。
揺れがわずかに鈍る。
完全には消えない。
「……来てる」
ルナが言う。
セレスティアが報告する。「神殿は安定しています。法力で異質なる力を弱めています。ただし範囲は限定的です」
「外では通用しない?」
リリア。
「効果は落ちます。完全な防御にはなりません」
シルヴィア。「魔力とは別系統」
エレノア。「干渉も異なる」
リック。「別系統か」
「排除は不可。抑制は可能」
セレスティア。
リリア。「叩くしかないね」
リック。「そうなる」
「使い分ける」
火花は固定。法力は安定。物理で破壊。
形が見え始める。
その瞬間、地下が揺れる。今までと違う。重い。深い。
ルナが目を開く。
「……来る」
一拍。
「違うのが」
沈黙。
誰も動かない。
だが全員が理解していた。
次は――これまでと違う。




