第2部 第7話 単独と、別の流れ
第2部 第7話 単独と、別の流れ
拠点の空気は張り詰めていた。地下の奥から伝わる“ズレ”は昨日より明確で、数も増えている。
「……多い」
ルナが言う。目を閉じたまま動かない。
シルヴィアが続ける。「干渉が強まっています。維持が難しくなっています」
リリアはハンマーを担ぐ。「このままだと押し切られるかもね」
セレスティアが静かに言う。「無理はしないでください。崩れたらすぐ退きましょう」
リックは全員を見て言う。「外を探る。一人で行く」
「単独?」とリリア。
「拠点を空けない。情報だけ取る」
ルナが頷く。「……外も見たい」
「今回は見ない。戻ってから共有する」
シルヴィアが言う。「装置は?」
「最小限。戦闘は避ける」
セレスティアが一歩近づく。「危険です」
「分かっている」
外へ出る。空気が違う。昨日より重い。風はあるが流れが揃わない。足元の感覚もわずかにズレる。
(……広がっている)
町へ向かう。人はいるが減っている。声も小さい。誰もが周囲を気にしている。
市場に入る。
「最近、妙なんだ」と商人。「物が勝手に壊れたり、音がズレたりする」
別の店でも同じだ。「夜になると気配がする。誰もいないのに」
冒険者の集まりも沈んでいる。「戻ってこない奴がいる」「原因は分からない」
(……同じだ)
素材を見る。毛皮、鉱石、金属部品。いくつか選ぶが決定打はない。
町の外れで足を止める。人の気配が薄い。音も少ない。
(……ここは)
空気が違う。揺れが少ない。
そこにあったのは神殿だった。古いが手入れはされている。派手さはないが整っている。
入口の前で止まる。(……安定している)
中を覗く。祈る人影。奥に神官らしき人物。だが入らない。
(今は関わらない。触れるなら準備してからだ)
踵を返す。その瞬間、空気がわずかに揺れる。
“いる”。
一体だけ。
動かない。最小限の火花を出す。揺れが止まる。
踏み込む。短剣を振る。当たる。崩れる。消える。
一瞬で終わる。
(単体なら問題ない。だが数が増えれば違う)
火花を止め、周囲を確認する。増えていない。
(引き寄せていない。結社の鉱石は使っていない……やはり違う)
歩き出す。
「一人とは珍しいな」
ザクトだった。
「今回はな」
「随分と静かじゃねぇか」
「様子を見ている」
ザクトは笑う。「いい判断だ」
(……読めない)
「最近、妙な話が多い。消える奴、壊れる物、ズレる音」
「場所は?」
「偏りがある」
ザクトは地図を叩く。「ここらへんが濃い」
記憶する。
「で、お前は何を掴んだ」
「まだ途中だ」
ザクトは肩をすくめる。「そうか」
(どこまで知っている)
探るが出さない。
「またな」
「ああ」
距離を取る。
(観察対象)
歩きながら整理する。バルドは問題ない。ギルドは情報を持ちすぎる。ザクトは読めない。
(……分ける。情報は分散する。一つに集めない)
そして神殿。
(別の流れだ。触れる価値はある。だが自分ではない)
(セレスティアが適任)
拠点へ戻る。空気のズレがさらに強くなる。
「……増えてる」
ルナが入口で言う。
「外も同じだ」とリック。
全員が集まる。
「情報をまとめる」
職人の話、ザクトの情報、町の状態。そして――
「神殿がある」
エレノアが言う。「構造的に安定している可能性があります」
シルヴィアも続ける。「魔力とは別系統かもしれません」
セレスティアが聞く。「関わりますか?」
リックは短く言う。「顔を通しておけ。供えも持っていく。深入りはするな」
「はい」とセレスティア。
地下の奥。揺れが強い。
ルナが言う。「……速い」
今までと違う。
確実に、何かが変わり始めていた。




