第2部 第6話 外の気配と、残されたもの
第2部 第6話 外の気配と、残されたもの
拠点の空気は、まだ揺れていた。ゴーレムは巡回を続け、門もトラップも機能している。だが“ズレ”は消えない。むしろ、わずかに濃くなっている。
「……増えてる」
ルナが言う。地下の奥を見たまま、動かない。
シルヴィアが続ける。「波形の乱れも強くなっています」
セレスティアが静かに言う。「無理はしないでください。少しでも異常があれば戻りましょう」
リリアはハンマーを担ぐ。「待ってても減らないってことだね」
リックは頷く。「外を見る」
理由は三つ。素材が足りない。情報が足りない。そして外でも同じ現象が起きているか、確かめる必要がある。
役割を分ける。エレノア、シルヴィア、セレスティアは拠点に残る。構造維持、解析、安全管理。外に出るのはリック、リリア、ルナ。
「無理はしないでくださいね」
セレスティアがもう一度言う。
「問題があればすぐ戻る」
リックが返す。
外へ出る。空気が違う。風はあるが、揺れ方が不自然だ。足元の感触も、わずかにズレる。
「……変だね」
リリアが呟く。
ルナが言う。「……遠くにもある」
町に近づくにつれて、人の気配は増える。だがどこか落ち着かない。通りを歩く人間の視線が、わずかに周囲を気にしている。
市場は開いているが活気は弱い。
「最近、妙なんだ」
商人が言う。「物が勝手に壊れたり、音がズレたりする」
別の店でも同じだ。
「夜になると、何もないのに気配がする」
冒険者の集まる場所でも話は同じだった。
「依頼が減った」
「戻ってこない奴がいる」
「原因は分からない」
共通している。説明できない違和感。
「……こっちも同じだね」
リリアが言う。
「むしろ進んでる」
リックが返す。
素材を探す。毛皮、鉱石、金属部品。いくつか良質なものを確保する。だが決定打はない。
「……久しいな」
低い声に振り向く。バルドがいた。変わらないようで、少しだけ違う。視線が鋭い。
「久しぶりだね」
リリアが軽く手を上げる。
「生きてたか」
バルドが言う。
「妙なことになってるな」
バルドが周囲を見る。
「そっちもか」
リックが返す。
「ああ。見えねぇ何かがいる。触れられねぇくせに、確かにいる」
一致していた。
「対処は?」
「分からん。だが――昔、似た気配を感じたことがある」
「どこでだ」
「……結社の連中だ」
空気が変わる。
「奴らが残したもん、触ってないだろうな」
「使った」
「何をだ」
「鉱石だ。よく分からないやつ」
リリアが言う。「あれ、すごいよ。火花が安定するし、溜まりやすい」
バルドが低く笑う。「だろうな。まともなもんじゃねぇ」
沈黙。
「効率は高い」
「当たり前だ。普通じゃねぇからな」
バルドは続ける。「そいつはな、“外の力”を無理やり形にしたもんだ」
「外……?」
「この世界のもんじゃねぇってことだ」
リックは何も言わない。
「で、どう使った」
「火花を通した。溜めた」
「反応は?」
「強い。だが不安定だ」
バルドは頷く。「それで正解だ。使い方を間違えりゃ、まとめて持ってかれる」
「何にだ」
「……呼ぶ」
短い一言。
「寄ってくる。ああいうのはな」
リリアが少しだけ顔をしかめる。「じゃあ使わない方がいい?」
「極力な」
リックが言う。「だが、必要だ」
バルドはため息をつく。「だろうな。止められるもんでもねぇ」
そして声を落とす。「深入りするな」
「無理だ」
リックは即答する。
バルドは笑う。「知ってる」
「生きて帰れよ」
「お前もな」
それだけで十分だった。
別れた後、歩きながら、リックはわずかに視線を落とす。
――外の力。
あの言葉が残る。
(……外、か)
思い当たるものは一つしかない。元いた世界。日本。
口には出さない。だが頭の中では繋がる。
(この世界のものじゃない力。再現できるが、理解されていない)
火花。
自分にとっては特別ではない。だが、この世界では異質だ。
(もし、同じように来た人間がいたとしたら)
結社。あの鉱石。あの技術。
(……辻褄は合う)
だが、確定には足りない。
(決めつけるには早い)
もう一つの考えが浮かぶ。
(言うべきか)
自分がどこから来たのか。
リリアとルナを見る。変わらず歩いている。
(……今じゃない)
必要になれば言う。それが結論だった。
「急ぐぞ」
それだけを言って、思考を切り替える。
拠点へ戻る。途中、空気のズレが強くなる。
「……増えてる」
ルナが言う。
リリアがハンマーを握る。「急いだ方がよさそうだね」
拠点に着く。
エレノアが報告する。「地下の揺れが増えています」
シルヴィアも続ける。「反応数、増加しています」
一致していた。外も内も、同じ。
地下の奥。以前より、明確に“近い”。
ルナが呟く。
「……来てる」
その気配は、もう隠れていなかった。




