第2部 第5話 仮説と、留める力
第2部 第5話 仮説と、留める力
夜を越えても、拠点の空気は落ち着かなかった。ゴーレムは巡回を続け、門は閉じられ、トラップも再配置されている。外部施設も稼働しているが、どこかに“ズレ”が残っていた。
「……また少し揺れてる」
ルナが言う。保冷区画の氷は維持されているが、表面がわずかに緩む。
シルヴィアが続ける。「魔力の波形が安定しません。干渉が続いています」
セレスティアが周囲を見る。「無理はしないでください。少しでも異常があればすぐ戻りましょう」
リリアはハンマーを肩に担ぐ。「昨日のやつ、また来るかな」
リックは短く言った。「来る」
「整理する」
リックが全員を見る。「鉄門の前で、あれは距離を取った」
エレノアが頷く。「同様の反応は他では確認されていません」
「嫌がってた、よね」とリリア。
「断定はしない。だが反応はあった」
「再現する」それが結論だった。
貯蔵庫から素材を運び出す。毛皮を複数。鉱石を数種類。木材と鉄材。
「これで足りる?」とリリア。
「比較できる程度に増やす」とリック。
シルヴィアが分類する。「性質ごとに分けます」
エレノアが木材を整える。「そのままでは不安定です。支点を増やします」
セレスティアが静かに言う。「怪我をしたらすぐに言ってくださいね」
組み上げる。木に鉄の棒を固定する。直接触れすぎないよう間を取る。
「ここ、もう少し離した方がいい?」
「はい。接触が多いと安定しません」
毛皮を巻き付ける。
リックが言う。「擦ると起きる」
リリアが試す。パチ、と火花が散る。
「……出た」
もう一度、強く擦る。火花が大きくなる。
ルナが呟く。「……空気、変わる」
シルヴィアが記録する。「反応、増加しています」
「まずは安全圏」
ゴーレムに近づける。反応はない。
「通常物体には影響なし」
「次、地下入口」
鉄門の前。昨日と同じ場所。
火花を出す。
その瞬間、空気が揺れる。
「……いる」
ルナが言う。
見えない。だが確かに、そこにある。
もう一度、火花を出す。強める。
空気がわずかに引く。
リリアが目を細める。「……やっぱり嫌がってるね」
リックが言う。「近づく」
地下へ入る。門を一枚開け、火花を維持する。
エレノアが後方で支える。「構造、問題ありません」
セレスティアが周囲を見る。「距離を保ってください」
奥で、揺れが止まる。
「……止まってる」
ルナが言う。
「いくよ」
リリアが踏み込む。ハンマーを振る。
当たる。
今度はズレない。
鈍い手応え。存在が揺れる。だが消えない。
「……効いてる。でも倒せてない」
リックが言う。「予想通りだ」
「これ自体じゃ倒せない。でも当てられる」
リリアが頷く。「それなら十分だね」
戻る。
拠点で整理する。
「ダメージはない」「だが止まる」
「魔力は乱れる」とシルヴィア。「発動が不安定になります」
試す。魔法は崩れる。
「……やっぱり無理ですね」
「火花が干渉してる」
リックがまとめる。「魔法は使いにくい。物理で叩く」
リリアが笑う。「じゃあ私の出番だね」
リックは装置を見る。
「……残せないか」
「なにを?」
「この力だ」
火花は一瞬で消える。だが――
「留められれば、使える」
試す。鉄に流し、鉱石に触れさせる。火花が走る。消える。
もう一度。強く擦る。流す。
――わずかに残る。
「……残ってる」
「ほんと?」
触れる。パチッ。小さく弾ける。
「うわ、今の……」
セレスティアが一歩引く。「不用意に触らないでください」
シルヴィアが観察する。「魔力とは違います。似ていますが別です」
鉱石を変えて試す。差が出る。
「溜められる」
リックが言う。
その瞬間。
パチッ!!
強く弾ける。
「っ!」
リリアが手を引く。「危な……!」
エレノアがすぐに固定を見直す。「保持が不安定です」
ルナが小さく言う。「……いつ弾けるか、分からない」
リックは短く言う。
「予測できない」
「扱いを誤れば、自分が食らう」
シルヴィアが続ける。「周囲の魔力も乱れます。長時間の使用は危険です」
リックが全員を見る。
「まとめる」
「直接のダメージはない」
「ズレは止められる」
「魔法は不安定になる」
「制御しなければ暴発する」
「使いどころを選ぶ」
リリアがハンマーを担ぎ直す。「叩くときだけ、使う感じだね」
「それでいい」
夜。
拠点は静かに動く。
火花を留めた鉱石が並ぶ。まだ小さい。だが確かに残っている。
ルナが呟く。「……増えてる」
地下の奥。気配が昨日より多い。揺れが重なっている。
リックはそれを見て、静かに言う。
「間に合うかどうかだな」
拠点の内側へ。“ズレ”は確実に増えていた。




