第2部 第1話 戦後処理と、残る違和感
街は残っていた。本丸付近は崩壊し、地形そのものが歪んでいる。岩は裂け、建造物は原形を留めていない。だが、そこから離れた街並みはほぼ無事だった。瓦礫は少なく、火の跡もない。人の姿もある。
それでも――空気が違う。
「……軽いな」
リックが呟く。リリアが眉をひそめる。「なんか、力が入らない感じ」ルナが槍を握り直す。「……流れが弱い」エレノアが周囲を見渡す。「魔力密度が低下しています」シルヴィアが地面に触れたまま言う。「……吸われています」セレスティアの光がわずかに揺れる。「回復も遅いです」
街は無事だ。だが内側が削られている。(結社の影響が残っている)リックは判断する。「報告に行く」短く言い、全員が続いた。
ギルドは忙しかった。人の出入りが多く、声も多い。だが軽くはない。緊張が残っている。受付のセレナが気づく。「お帰りなさい。報告を――」「ギルド長に」それだけで通る。奥の部屋。ギルド長が待っていた。
「来たか」
余計な言葉はない。「結社は壊滅。幹部は撃破。本丸制圧済み」ギルド長が頷く。「確認は取れている」
一拍。「魔力が吸われている。広域だ」空気が変わる。「どの程度だ」「密度低下、回復遅延。戦闘に支障が出る」「……想定以上だな」「原因は」「中枢の残滓か、機構の影響が残っている」「調査を回す」即断だった。
「カインの件だ」さらに重くなる。「全力じゃない。殺意もなかった」「……やはりか」「別問題だ」
「本丸付近の拠点は引き渡す」「前線拠点として使え、ということか」「その方が効率がいい」「妥当だな」ギルド長はわずかに視線を外す。「……ならば名を与える」「監視拠点ネブラ」その言葉で場所の意味が変わる。「結社の残滓と、あの領域を見張る拠点だ」「問題ない」
「旧拠点は放棄する」一瞬、空気が止まる。「新拠点へ完全移行する」「完全に?」「完全にだ」
「今回の功績に対する評価だ」「ランクはAのまま据え置く」「え、上がってないの?」「上がっている。ただし名前が違うだけだ」一拍。「AA扱いとする」「……S相当ですね」「制度上はA、評価はそれ以上だ」「……妥当だ」
「ただし、責任も増える」
扉に手をかける。「今回の件、上にも報告は行く」一瞬の間。「S級が動く可能性がある」空気が変わる。「無駄に関わるな」それだけ言って去る。
外に出る。リリアが息を吐く。「なんかさ、一気に大事になったね」「元からだ」ルナが言う。「……範囲が広がった」エレノアが続ける。「見られ方も変わります」シルヴィアが小さく言う。「……負担も」セレスティアが微笑む。「でも、支えられます」
(まだ終わっていない)
拠点に戻る。旧拠点は静かだった。誰もいない空間に、わずかに残る生活の気配。「……ここ、結構長かったね」「役目は終わった」
新拠点へ移行する。作業は早い。
工房へ向かう。扉を開けると熱が来る。「……無茶しやがったな」「分かる?」「見りゃな」武器を確認する。「壊れてねぇが――足りてねぇ」「分かってる」「相手、何だった」「……測れない相手だ」
「今のままだと持たねぇ」「どこが足りない」「全部だ」
「強くなる?」「壊れにくくはなる」
ハンマーを持ち上げる。一瞬、手が止まる。「……壊すなよ」「分かってるって」
工房を出る。夜の空気はまだ薄い。
「遅かったな、旦那」「拠点、動かすんだろ」「……ああ」「それだけじゃねぇだろ」
「……止める場所を選ぶ」
「なるほどな」
「“測れねぇの”が増えてる」
「分かってる」
短い会話。それで十分だった。
(次は隠れない)(止める場所を選ぶ)
「……次は、こちらから動く」




