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新たなる世界へ  作者: パルス
第1章

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■回想短編 「火の前で」


火が強い。夜の冷気よりも、炉の熱の方が支配している。赤く焼けた金属が、鈍く脈打つように光る。


バルドは無言でハンマーを振り下ろしている。打つたびに火花が散り、形が変わる。だがその動きは、どこか荒い。普段よりわずかに、力が乗りすぎている。


「まだやるのか」


背後から声。ザクトだ。いつものように壁に寄りかかっている。


バルドは振り返らない。「終わってねぇ」


「もう十分だろ」


「足りねぇ」


短く、重い返答。


外は静かだ。だが遠くで、かすかに何かが崩れる音がする。戦いは終わっているはずなのに、空気にはまだ残滓が漂っている。


ザクトがゆっくりと言う。「全滅だ」


ハンマーが止まる。音が消える。


「……何人だ」


「ほぼ全部だな」


間が空く。火の揺れだけが動いている。


「生き残りは?」


「……いない」


それだけだった。


バルドは何も言わない。だが呼吸が一度だけ深くなる。次の瞬間には元に戻る。


再びハンマーが振り下ろされる。さっきより強く、重く。


ザクトは視線を外さず続ける。「お前のとこもだ」


手が止まる。ほんの一瞬だけ。


「……そうか」


それだけ言って、また打つ。だが今度は、音が少し歪んでいる。


ザクトが淡々と付け加える。「見つけた時、武器が折れてた」


火が爆ぜる。


「最後まで持たなかったらしい」


沈黙。


バルドの握る手に力が入る。鉄を叩く音が低くなる。


「……関係ねぇ」


押し殺した声。


ザクトは肩をすくめる。「関係なくはねぇだろ」


「関係ねぇ」


今度ははっきりと返す。


「折れる武器が悪い」


その言葉は静かだが、炉の熱よりも重かった。


ザクトはそれ以上言わない。ただ少しだけ視線を下げる。


「……だから打ってんのか」


バルドは答えない。金属を炉に戻し、火を強める。炎が一段高くなる。


「壊れねぇのを作る」


短い言葉。


ザクトが息を吐く。「無茶だな」


「知ってる」


「でもやる」


「当たり前だ」


 


しばらく、音だけが続く。火と鉄と、一定のリズム。


そのリズムに、わずかな乱れが混じる。


 


扉が開く。


空気が変わる。


ギルド長が入ってくる。足音は静かだが、存在が重い。


「……ここか」


周囲を一度だけ見て、状況を把握する。


ザクトが軽く手を上げる。「遅かったな」


「後処理だ」


短い返答。


バルドは振り返らない。


ギルド長は炉の前まで来ると、少しだけ視線を落とす。


「……遺体は回収した」


それだけで十分だった。


ザクトが無言になる。


バルドの手が止まる。


「場所は記録してある」


「必要なら、後で――」


言いかけて、止める。余計だと判断した。


沈黙。


ギルド長は続ける。


「今回の件、上には報告する」


「……S級が動く可能性がある」


火の音がやけに大きく聞こえる。


ザクトが小さく笑う。「そこまでか」


「可能性だ」


ギルド長はそれ以上広げない。


「無駄に関わるな」


それだけ言い、すぐに背を向ける。迷いなく、去る。


扉が閉まる。


 


静寂。


 


ザクトがぽつりと呟く。「……で、どうする」


バルドはハンマーを持ち上げる。迷いはない。


「打つ」


短い答え。


ザクトが肩をすくめる。「分かってた」


 


バルドは一度だけ目を閉じる。


ほんの一瞬。


炎の色と、折れた刃と、届かなかった距離。


すべてを押し込む。


次の瞬間には消える。


 


ハンマーが振り下ろされる。


火花が強く散る。


金属が応える。


 


「……次は折らせねぇ」


 


誰に向けた言葉かは分からない。


だが、その一撃は確かに重かった。

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