第35話 「崩される防衛線と、それでも守るもの」
夜は、静かに始まらなかった。
最初の気配は、風に紛れていた。
だが――
「来る」
リックの一言で、全員が動いた。
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外縁。
第一防衛線。
ゴーレムが、すでに立っている。
土と石の巨体が、正面を塞ぐように構えていた。
その向こう。
闇の中から、影が現れる。
一つ、二つではない。
「……数、多い」
ルナの声が低く落ちる。
エレノアが視線を走らせる。
「前列八、後方に増援。……波状です」
リリアがハンマーを担ぐ。
「いいじゃん、まとめて来てくれる方が楽」
リックは短く指示を出す。
「最初の流れで削る。深追いするな」
セレスティアが息を整える。
「強化、入れます」
柔らかな光が広がる。
体が軽くなる。
視界が澄む。
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「入るぞ」
リックの声と同時に、敵が踏み込んだ。
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――ガンッ!!
最初にぶつかったのは、ゴーレムだった。
真正面からの衝突。
だが巨体はびくともしない。
そのまま腕を振るう。
一体、二体。
まとめて弾き飛ばす。
リリアが声を上げる。
「うわ、それ反則でしょ!」
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「今!」
エレノアの声。
矢が放たれる。
風が絡む。
軌道が変わる。
敵の側面を正確に貫く。
さらに――
弾ける。
霧が広がる。
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シルヴィアが右の剣を振る。
「吸い込みます」
眠りと麻酔。
霧が風に乗る。
一気に広がる。
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前列の敵が崩れる。
足を止め、倒れる。
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「いい流れ!」
リリアが飛び出す。
炎を纏ったハンマーが振り下ろされる。
地面ごと叩き割る。
爆ぜる熱。
複数を巻き込む。
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ルナが槍を突く。
「ここ、切る」
氷が走る。
地面を裂くように伸びる。
通路が遮断される。
部隊が分断される。
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「中央維持」
リックが石を浮かせる。
連続で撃つ。
――ドン、ドン!
敵の動きが止まる。
ゴーレムが前に出る。
押す。
そのまま――
リリアの仕掛けたラインへ。
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「そこ踏んだ!」
次の瞬間。
地面が崩れる。
落下。
そのまま炎が爆ぜる。
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「ほらね、ちゃんとハマる!」
リリアが笑う。
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順調だった。
あまりにも順調だった。
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だが。
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「……避けてる」
エレノアの声が変わる。
一部の個体が、罠を踏まない。
動きが違う。
見ている。
理解している。
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リリアが顔をしかめる。
「え、ちょっと待って。なんでそれ分かるの?」
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次の瞬間。
ゴーレムに、影がぶつかる。
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――ドンッ!!
重い衝撃。
ゴーレムの体がわずかに揺れる。
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「……強い」
ルナの声。
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現れたのは、明らかに異質な個体。
動きが滑らかで、無駄がない。
目に、意志がある。
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「前、食われる」
エレノア。
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ゴーレムが拳を振るう。
だが――
受け止められる。
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「止まらない……!」
リリアが叫ぶ。
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シルヴィアが踏み込む。
右で斬る。
「効いてます。ですが浅い」
左で突く。
「固定します」
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だが。
完全には止まらない。
部分的な石化。
それでも、動く。
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リックが低く言う。
「前線、崩れる」
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敵が押し込んでくる。
数も増えている。
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「……抜ける」
ルナ。
一部が防衛線を突破する。
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「下がる準備!」
エレノア。
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セレスティアが声を張る。
「まだ持ちます!前、崩さないで!」
光が強くなる。
回復と強化が重なる。
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ゴーレムが踏み込む。
全力で押す。
だが。
食い込まれる。
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リックが決断する。
「後退」
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「内側に引き込む」
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全員が一斉に動く。
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第二防衛線。
拠点内部。
狭い。
逃げ場がない。
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「ここなら――」
リリアが笑う。
「全部当たる!」
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エレノア。
「射線、固定できます」
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ルナ。
「出口、消す」
氷で完全封鎖。
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シルヴィア。
「ここで止めます」
霧を展開。
石化を重ねる。
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リック。
「まとめて削る」
石を連射。
魔力を重ねる。
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セレスティア。
「今、押し切れます!」
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リリア。
「終わり!!」
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炎が爆ぜる。
全力の一撃。
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中ボス個体を、叩き潰す。
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沈黙。
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残りの敵も崩れる。
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静かになる。
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だが。
倒れた個体が、かすかに動く。
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「……次……段階……」
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止まる。
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誰もすぐには動かなかった。
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やがて。
リックが言う。
「……終わりだ」
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外を見る。
第一防衛線は崩れている。
罠は壊れ。
地面は抉れ。
ゴーレムも、ひびが入っていた。
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リリアが息を吐く。
「……ギリギリじゃん」
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エレノアが静かに言う。
「次は、同じ手は通用しません」
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シルヴィア。
「……対策されています」
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ルナ。
「……増える」
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セレスティアが小さく言う。
「でも、守れました」
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リックが頷く。
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「守れた」
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少しだけ間を置く。
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「……だが、次はもっと来る」
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風が吹く。
崩れた防衛線の隙間を抜けて。
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戦いは、まだ終わっていない。




