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新たなる世界へ  作者: パルス
第1章

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第36話 「昇格と制限、そして仕組まれた戦場」


朝の光は、静かすぎるほどだった。


風が通るたびに、焼けた匂いがわずかに舞い上がる。


崩れた外壁。

抉れた地面。

壊れた罠の残骸。


昨日まで拠点だった場所は、もうただの“戦場跡”だった。



リリアが瓦礫を蹴る。


「……これ、もう無理でしょ。住むとかじゃないよね」



リックは一度だけ全体を見渡す。


「使わない」



即断だった。



セレスティアが静かに動く。


「まず怪我を見ますね」


光が広がる。


柔らかく、だが確実に傷を塞いでいく。



ルナは無言で座る。

エレノアは外を見たまま動かない。

シルヴィアはすでに瓶の中身を確認している。



「敵は適応しています」


エレノアが言う。


「罠は回避、薬は軽減。さらに指揮個体あり」



リリアがため息をつく。


「つまりさ、もう“普通に守る”のは無理ってことでしょ」



「はい」



短い肯定。



少しの沈黙。



リックが言う。


「守る必要はない」



リリアが顔を上げる。


「……どういう意味?」



「使う」



それだけだった。



説明はない。


だが、その一言で方向は決まった。



「ギルドへ行く」



全員で町へ向かう。


歩いているだけで、視線が集まる。



「……見られてるね」


リリアが小声で言う。



「当然です」


エレノアは気にしていない。



ギルドの扉を開けた瞬間、空気が変わった。


ざわめきが一瞬止まる。



受付に立つ女性が、すぐに視線を向ける。



「お帰りなさい。報告ですね」



落ち着いた声。


無駄がない。



リリアが小さく呟く。


「……誰?」



「受付のセレナです」


エレノアが即答する。



セレナは軽く一礼した。


「今回の件、概要は共有されています。詳細をお願いします」



リックが言う。


「拠点が襲撃された」



エレノアが続ける。


「防衛は成功。ただし持続不可」



シルヴィア。


「……強化個体、複数。薬耐性あり」



ルナ。


「……突破された」



セレスティア。


「被害も軽くありません」



セレナのペンが止まる。


一瞬だけ、目が細くなる。



「……段階移行、確定ですね」



「少々お待ちください」



奥へ消える。



戻ってきたとき――


空気が変わった。



奥の扉が開く。



重い足音。



「……話は聞いた」



現れた男は、静かだった。


だが、場の全員が意識を向ける。



リリアが小声で言う。


「え、誰あれ」



エレノア。


「……ギルド長です」



ギルド長はゆっくりと視線を巡らせる。


一人ずつ、確かめるように。



「拠点防衛、見事だ」



短く、それだけ。



だが続く言葉は重かった。



「だが、お前たちだけでは足りない」



「本丸は――戦争になる」



空気が一段、重くなる。



リックは答える。


「問題ない」



即答。



ギルド長の目がわずかに細まる。



「……迷いがないな」



「必要だからやる」



沈黙。



「いい」



ギルド長が言う。



「そういう奴が生き残る」



一歩前に出る。



「本丸討伐は許可する」



「ただし――」



「単独は禁止だ」



リリアが思わず声を上げる。


「またそれ!?」



「他パーティーと組め」



「規模が違う」



リックは短く頷く。


「了解」



ギルド長はセレナに視線を送る。



セレナが一歩前に出る。



「正式に通達します」



「あなた方は――Aランクへ昇格です」



ざわめきが爆発する。



リリアが固まる。


「え、ちょっと待って……マジで?」



リックは変わらない。


「受理する」



報酬が渡される。


重い袋。


だがそれ以上に、空気が変わっていた。



セレナが静かに言う。


「今後は特別案件として扱われます」



一瞬だけ、表情が緩む。



「……無事でいてください」



小さな声だった。



ギルドを出る。



そのままザクトの店へ。



「……やはり、そこまで来ましたか」



地図が広げられる。



「輸送はここに集中しています」



一点。


魔力の集まる場所。



「中枢です」



ザクトが視線を上げる。



「拠点はどうします?」



リックは答える。



「問題ない」



それだけ。



店を出る。



少し歩いたところで、リリアが振り返る。



「……で、本当は?」



リックが止まる。



「拠点は二つにする」



全員が見る。



「旧拠点は残す」



「え?」



「住んでるように見せる」



エレノア。


「……陽動」



「本拠点は別に作る」



ルナ。


「……隠す」



リックが続ける。



「旧拠点は――」



一瞬。



「最大の罠にする」



空気が変わる。



リリアが笑う。


「それ最高じゃん」



「転移を使う」



全員が理解する。



「出入りは見せない」



「だが、存在は見せる」



エレノア。


「……情報操作ですね」



リック。


「知られている場所に価値はない」




その日から動きが変わる。



旧拠点。


火を残す。

足跡をつける。

生活の痕跡をわざと残す。



ゴーレムが立つ。


動く。



“まだそこにいる”



そう見せる。



新拠点。


狭い。


無駄がない。



リリアが寝転がる。


「ほんとに秘密基地じゃん」



エレノア。


「戦闘拠点です」



シルヴィア。


「……準備、進めます」



ルナ。


「……守れる」



セレスティアが静かに笑う。


「帰る場所があるのは安心です」



リックが外を見る。



遠く。


旧拠点。



「来る」



夜。



旧拠点。



影が動く。



「……まだいる」



罠は、すでに完成していた。

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