第33話 「完成した戦術、試される実力」
朝の空気は澄んでいた。
冷たいのに、不思議と重くない。
リックは足元の砂を軽く踏み、感触を確かめる。
「……足場は悪くない。押し込めるな」
その一言で、全員の意識が揃った。
エレノアは周囲を見渡す。
「前列三、後方に二。……一人だけ、歩幅が違います」
リリアが肩を回す。
「じゃあその変なの、私がもらうね」
ルナが短く言う。
「逃げ道、ある」
リックが頷く。
「塞げるか」
「できる」
シルヴィアは小瓶の栓を静かに開けた。
「風が安定しています。拡散条件、良好」
セレスティアが手を合わせる。
「少しだけ、背中押しますね」
柔らかな光が広がる。
体が軽くなる。
リリアが笑う。
「うわ、これなら跳ねるみたいに動ける!」
リックは短く言う。
「前に出すぎるな。削ってから落とす」
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「……来ます」
エレノアの声が少し低くなる。
「隊列、変則。警戒しています」
リックが杖を構える。
「いい。崩す」
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風が走る。
エレノアの魔法。
流れが整えられる。
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シルヴィアが右の剣を軽く振る。
「吸い込んでください」
白い霧が風に乗る。
自然に広がる。
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護衛の一人が足を止めた。
「……っ?」
そのまま崩れる。
続けて二人。
声もなく沈む。
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リリアが笑う。
「ほらね、やりやすい!」
飛び出す。
炎を纏ったハンマーが振り下ろされる。
地面ごと砕ける。
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ルナが槍を突く。
「ここ、切る」
氷が走る。
道を遮断。
隊列が裂ける。
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リックが杖を振る。
「中央、押さえる」
足元の石が浮く。
弾く。
鋭い音。
敵の肩を貫く。
さらに一発。
体勢を崩す。
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「右、空いてる」
エレノアの声。
矢が放たれる。
風が絡む。
途中で軌道が曲がる。
側面から命中。
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シルヴィアが踏み込む。
右の剣で浅く斬る。
「効いてます。呼吸、乱れてます」
動きが鈍る。
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左の剣を静かに突き出す。
「――止まってください」
足元から石が広がる。
膝まで固まる。
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リックが言う。
「今だ、崩せ」
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リリアが叩き込む。
「はい終わり!」
粉砕。
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流れは完璧だった。
無駄がない。
重なりが綺麗すぎる。
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リリアが笑う。
「これ、前より全然楽じゃん!」
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だがエレノアの視線は外れない。
「……一体、落ちていません」
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その個体が前に出る。
霧の中でも動いている。
眠らない。
鈍らない。
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「耐性持ちです。しかも……意識がある」
エレノアの声が変わる。
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敵が口を開く。
「排除」
単調な声。
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リリアがぶつかる。
「っ、重っ……!」
衝撃が返る。
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シルヴィアが斬る。
「麻酔、入りが浅いです」
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リックが前に出る。
杖を横に振る。
衝撃。
だが――踏みとどまる。
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ルナが動く。
「囲う」
氷が一気に広がる。
逃げ道を潰す。
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セレスティアが声を重ねる。
「少し強めますね。今なら押せます」
光が強くなる。
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リックが短く言う。
「一点に集める。削るぞ」
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エレノア。
「右肩、反応が鈍いです」
矢を放つ。
風で曲げる。
弱点に突き刺さる。
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シルヴィア。
右で斬る。
「吸い込み、確認」
左で刺す。
「固定します」
腕が石化する。
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ルナ。
「逃がさない」
氷がさらに締まる。
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リック。
石を連続で撃つ。
「動かすな」
打ち込む。
押し込む。
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リリア。
「固いなら――割る!」
炎が爆ぜる。
全力の一撃。
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叩き潰す。
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沈黙。
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敵が崩れる。
だが。
口が動く。
「……供給……段階……移行……」
途切れる。
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誰もすぐには動かなかった。
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リックが言う。
「荷を確認する」
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荷の中身。
以前より濃い。
重い。
歪んだ魔力。
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シルヴィアが静かに言う。
「……濃度が上がっています。段階が進んでいます」
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エレノアが続ける。
「先ほどの個体も……試験段階の可能性があります」
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リリアが眉をひそめる。
「つまり、これが普通になるってこと?」
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リックが短く答える。
「そうなる前に止める」
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「撤収する」
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全員が動く。
迷いはない。
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安全圏。
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リリアが息を吐く。
「いやー、でもさっきの、ちょっと楽しかった」
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エレノアが首を振る。
「危険度は上がっています。偶然崩せただけです」
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シルヴィア。
「……対策されています」
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ルナ。
「……増える」
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セレスティアが静かに言う。
「でも、ちゃんと押し切れました」
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リックが全員を見る。
少しだけ間を置いてから言う。
「通用はする」
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その言葉のあとに、続ける。
「だが、余裕はない」
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短く。
「準備を詰める」
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風が流れる。
遠くで、何かがこちらを見ていた。
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「……観測完了」
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戦いは、さらに深くなる。




